limited express NANKI-1号の独り言

折々の話題や国内外の出来事・自身の過去について、語り綴ります。
たまに、写真も掲載中。本日、天気晴朗ナレドモ波高シ

ミスター DB ㊷

2018年09月05日 14時37分37秒 | 日記
闇を切り裂く様に疾走するスポーツカー。3人の男達が西に向かっていた。N坊とF坊、それに遊撃部隊1の走り屋の男。疾走するスポーツカーは、艶消しの黒い車体で明かりの少ない場所では、殊更に視認は難しかった。無論、より速く走るためのチューニングは手の入る範囲全てに渡っていて、警察無線の傍受装置や最新式の改造GPSレーダーも完備されていた。今、光の矢の如く高速道路を疾走しているが、揺れや突き上げは最小限に抑えられており、N坊は後席で爆睡中だ。「F坊、少しは寝て置いたらどうだ?」運転手が言った。「いや、俺はいい。下手に爆睡でもしたら、起きれなくなる」F坊は申し出を断った。「そうか、お前さんを叩き起こせるのはミセスAしか居ないからか?」「それもあるが、今のペースだとKの自宅に侵入するのが、明け方近くになりそうだからだ。チャンスは1度きり。失敗は許されねぇ」F坊は時計を睨みつつ言った。「この調子だと、予定より30分ぐらいは速く着けるはずだ。この先にオービスは無い。高速機動隊さえ動いていなけりゃ、かなりいいタイムが出そうだ」運転手は自信ありげに言った。「ともかく、アンタの腕に賭けるしかねぇ。何とか間に合わせてくれ!」F坊は苦しげに言った。「俺の腕とマシンを信じな!必ず間に合わせる!」運転手の男は、前方と後方を忙しなく見ながら、ギアを更に上げた。流石に組織1のドライバーだ。スポーツカーは一段と加速して進んでいく。“ともかく一刻も早く着かなくては” F坊は祈った。今できるのはそのぐらいだった。

地下駐車場への侵入はあっけなくカタが付いた。4本のペットボトルをすり替え、車内を物色したが、手掛かりになりそうなブツは出てこなかった。「司令部」に戻り、ミスターJとリーターと共に警察が使っている「簡易検査キット」で薬物反応を調べると、やはり「陽性反応」が出た。「無色透明無臭だが、間違いなくZZZが混入されておる。これを“彼”が飲めば、たちまち中毒性のショック状態に陥るだろう。恐ろしい手を使いおるなKのヤツめ!」ミスターJの目が怒りに燃えた。「だが、まだ断定は出来ない。確かにZZZだと証明しなくては県警は動かせん!至急ドクターに精密分析させるんだ!」ミスターJは言い放った。「しかし、ZZZの成分データーはどこから手に入れるんです?」リーダーが聞いた。「アメリカには子細な情報がある。シリウスに“ハッキング”させるしかあるまい。シリウスならどこでも侵入は可能なはずだ。リーダー、直ぐに指示を送れ!NとFが着くまでに情報を掴めとな。情報を入手したら、ドクターに検査の準備をさせるんだ。事は一刻を争う。NとF!車の手配は出来ている。直ぐにこのサンプルを持ってKの自宅へ向かえ!」矢継ぎ早にミスターJは指示を出した。N坊とF坊は車に乗り込んで「大返し」に取り掛かった。途中、警察の検問に会って渋滞した為、予定から大分遅れてしまった。だが、組織1のドライバーの腕とマシンの性能に助けられ、遅れを取り戻すまでになっていた。間もなく目指すKの自宅の近くのインターへ着く。問題は、Kの自宅への侵入とシリウスが情報を掴んでいるかに掛かっていた。

時間は少し戻って、秘書課長と2名の部下達は、無事に会社へと戻って来た。かなり疲れてはいたが、Y副社長への報告を済ませなくてはならない。最後の気力を振り絞って、横浜本社3階へと上がって行った。もう、とっぷりと日は暮れていたが、Y副社長は彼らを待っていた。ドアをノックし「ただいま戻りました」と言うと、Y副社長自らドアを開け室内へ招き入れた。3名を応接席へ座るように誘うと「ご苦労だった。早速、報告を聞こう」と静かに言った。秘書課長は、報告書とテープ、Z病院の詳細な図面をテーブルに広げ、報告を行った。部下2名もZ病院での出来事と院内の様子について詳しく報告を行った。報告書を繰っていたY副社長は、ZZZの文字を見た瞬間、表情を強張らせた。「秘書課長、ZZZの件は確かなのか?」心なしかY副社長の声は暗い。「はい、報告書にもある様に、私の実弟の口からもZZZの名は出ております。県警でも青竜会とZZZの関わりについては、調べを進めている可能性は否定できません。ミスターJの情報網にも掛かっているくらいですから、残念ながらまず間違いはないでしょう」秘書課長も慙愧に堪えない表情で答えた。「そうか、マズイな。これは・・・」Y副社長も苦り切った声でポツリと言った。席を立ち窓際へ歩きながらY副社長は「県警には、既にこちらの意向は伝えてある。“Kは逮捕しても、DBは証拠不十分で解き放ってくれ”とな。だが、ここまで悪行に手を貸した以上、立件されるのは覚悟せねばならん。会社としては、逮捕・立件されても口は出せん。DBだけを社内処分で済ませる次元の問題では無くなってしまった。いくらツテがあるとは言え、反社会組織が相手ではどうにもならん。DBの首を差し出す以外に会社を守るのは不可能だ。逮捕された時点で、DBを懲戒解雇にするしかあるまい」「はい、それしか手はありません」秘書課長も同意せざるを得なかった。「ところで、今回の企てについての証拠は集まっているのか?」Y副社長は秘書課長に言った。「いえ、確証はまだ得られていません。ZZZが使われていると言うのも、まだ推測の域を出てはいません。ミスターJが必死に追っていますが、Kが青竜会と接触を持ったか否かも含めて、具体的な物証や証拠集めは、これからのミスターJの秘密組織の行動次第です。彼は“必ず間に合わせる”とは言っていましたが・・・」「時間との闘いと言う事か?」時計を見つつY副社長は言った。「そうです。しかし、彼らの組織の総力を挙げれば、時間内に確証を得る事は可能だと思います」秘書課長も時計を見ながら返した。あまり時間は残されてはいない。明後日にはKとDBはZ病院へ行くのだ。“彼”に対する卑劣な犯罪まで、約36時間あまりしか残されていない。室内は重苦しい空気に包まれていた。その時部下の1名が「Y副社長、DBは起訴されるとお考えですか?」と聞いた。「ああ、そう考えるのが普通だろう。君は何か別の意見でもあるのか?」Y副社長は怪訝そうに聞き返した。「普通に考えれば、KとDBは逮捕され取り調べを受けた後、地検へ送致されます。問題は、地検の判断です。Kは間違いなく起訴され裁判に掛けられるでしょう。一方、DBはどうなるか?ですが、現段階に措いて“DBはKに手を貸したに過ぎない”状況です。今回の計画の立案や薬物の調達、犯行の手口の選定に至るまでK1人でやっています。DBは当然の事ながら“しらを切り通す”でしょう。自分は“何も知らなかった”と。私達が“耳”で聴いたテープは証拠としては使えませんし、DBが反社会勢力や薬物に関わった証拠も出て来ないと思います。そうなると、地検は“DBを起訴できるだけの証拠を得られない”事になります。確たる証拠が出て来ない以上、DBは不起訴となるでしょう。地検としては、Kの犯行を口実にして青竜会を叩く方が急務になりますから、DBは証拠不十分のまま釈放される可能性が高いと見てもいいと思います。ですから、DBに社内処分を科す機会はまだ残っているとは言えませんか?」彼は必死に訴えた。Y副社長は目を閉じて一心に何かを考えている。やがて「君の推論には一理ありそうだ。DBが証拠不十分で不起訴になる可能性はあるだろう。今までの報告を聞く限り、DBが重い犯罪に手を染めた形跡は無い。協力はしておるが。現在に至るまでの間、DBが率先して罪を犯した訳でも無く、工作に関わった形跡もない。だとすれば、DBを裁判に掛ける必然性は無くなる。我々の手でDBを裁く道はまだ残っておるな。懲戒解雇などにしたら、危うくヤツを逃がす事になる。例え、逮捕され送検されても、こちらは待っていればいい事になる。そういう事か?!」「はい、不起訴になるのを待ってから、DBを捕縛すれば、Y副社長の当初の見込み通りに行くと考えられます!」Y副社長の顔に希望の光が浮かんだ。「危うく見誤る所だった。まだ、我々手でDBは裁ける!それには、待てばいいのだな?」「はい、それが一番の得策かと思いまして・・・」彼は遠慮がちに言った。「待とうではないか!DBが解き放立てるのを。だが、県警にも再度申し入れをして置く必要はあるな。慌てずともDBは我が手の内にありか。落ち着いて現状を分析するのを忘れ掛かっていた。指揮官としては、惑ってはいかん。君が気付いてくれねば、私は事を誤る所だった。感謝する!」Y副社長は再び席に座りながら言った。「秘書課長、それと2名の諸君。今日はご苦労だった。異次元へ放り込む様な真似をして、済まなかった。だが、よく勤め上げてくれた!私は諸君の活躍を誇りに思う。ありがとう。言うまでも無いが、今日の事は他言無用だ。くれぐれも機密保持に努めて欲しい。遅くまで済まなかった。明日は、午前10時以降に出社したまえ。疲れただろう。早く帰宅しなさい。秘書課長、テーブルに広げてあるモノは私が預かる。県警と話し合う上で、再度検討をしてみるとしよう」Y副社長は3人と握手を交わし、改めて労をねぎらった。秘書課長達は疲労困憊ながら、任務を果たしY副社長の部屋を辞して行った。部屋は静寂に包まれた。デスクの椅子に座ったY副社長は「ミスターJの事だ、あらゆる手段で核心へ迫っているだろう。後は、彼の意地と誇りに賭ける以外にはなさそうだ。さて、私は私なりに手を打つか」そう呟くと、受話器を取り県警へ電話をかけた。改めて「内諾」を得るためであった。

F坊達の乗った車がKの自宅の近くへ到着したのは、予定より40分速かった。「最速タイム更新だ!どうよ、俺の言う通りだろう?」流石に組織1のドライバーだけの事はあった。「とにかく、俺はKの自宅へ侵入する。もうすぐ夜明けだ。当りが暗いうちに済ませて来るぜ。待っててくれ、10分以内に戻る」F坊はシートベルトを外しながら言った。「N坊は?」ドライバーが後ろを指さしながら聞いた。相変わらず爆睡中だ。「俺一人で十分だ。寝かせておいてくれ。“基地”へ行ったら、大車輪で格闘してもらわなきゃならない。さて、年寄りが目覚める前に行って来るか」そっと車のドアを閉めると、F坊は住宅街へ消えた。ドライバーの男は、エンジンを絞って音を出さない様に努め、当りを伺った。人気はない。だが、空は微かに明るさが増してきている。夜明けは近い。暫くすると、白い筐体を抱えたF坊が全速力で走って来るのが見えた。F坊は車に滑り込むと「よし、“基地”へ飛んでくれ!大至急コイツを調べなきゃならん!」と苦しい息の中で言った。「分かった。“基地”へ向かう」車は静かに住宅街を抜けると、再び疾走し始めた。

その頃“基地”では、留守を預かっていた3名が慌ただしく動き回っていた。ミスターJの見込みは当り、DBの菜園の小屋の裏手から「物証」が発見されたのだ。ZZZと思しき“粉末”とCD-Rが3枚。既に「物証発見」の報告は横浜へ伝達され、N坊とF坊達の到着を待っていた。“ドクター”は、発見された“粉末”の分析を始め、シリウスと車屋の新人は、複数台のパソコンの設置を終えて、ZZZの情報を検索し始めていた。CD-Rを調べていた車屋の新人は、それがバックアップ用のCD-Rである事を突き止めた。「Kはアホか?!これさえあれば、意図も簡単にパソコンを復元出来るじゃないか!1つ手間が省けた以上の効果がある。こんなモノを残して置くなんて馬鹿じゃないかな?!」と呆れていた。「それはそうだが、こっちは容易にはいかない様だ。ガードが異様に固い!別の手を考えるか・・・」シリウスはハッキングに必死になったが、侵入に手を焼いていた。彼が手を焼くのは「極めて珍しい事」であった。“ドクター”がやって来て「簡易検査の結果はクロだ。ZZZと言って間違いはなさそうだ」と言った。「今、成分分析を始めた所だが、ZZZのデーターはどうなっとる?」シリウスは「“ドクター”もう少し時間をくれ。今、別のルートに切り替えて侵入を試みている最中だ」と返した。手は素早くキーボードを叩き、目は画面から一瞬たりとも目を離さない。「お前さんが手を焼くのは珍しいな。だが、それも当然かも知れん。ZZZの原材料は、中米の某国が開発したと聞いたことがある。国家が組織的に関与しておるならば、その情報のガードは厳重にしなくてはならん。こっちも、分析にはまだ時間が必要じゃ。焦らずに腰を据えてかかれ」そう言うと“ドクター”は分析室へ戻って行った。「国そのものが開発に関わったとなると、最高レベルの機密情報って事になる。シリウスが手を焼くのも無理はねぇ」車屋の新人が納得した様に言った。「最高レベルの機密情報だか何だか知らないが、このシリウス様の手に掛かれば・・・、突破して見せる!」シリウスも意地になった。ハッカーとしての腕の見せ所だ。勿論、彼は“ホワイトハッカー”と言うセキュリティ・サイバー対策を生業とする者だ。プロとしての誇りを賭けて、闘いを挑んでいた。丁度その時、N坊とF坊を乗せた車が“基地”へ滑り込んで来た。3人の男達は、真っ直ぐにシリウスの元へ向かった。「おはよう、新米。シリウス、どうだ?いけそうか?」N坊が心配そうに聞いた。「後、3、いや5分くれ!もうすぐ最後の壁を突き破れそうだ!」彼は振り返ることなく必死に画面に見入っている。「新米、Kのパソコンを接続してくれ。早速、中身を拝ませて貰うとしよう。F坊、ここからは任せな。寝てていいぜ!」N坊は振り返ってそう言った。「悪いが、そうさせて貰う。俺達は少し休むぜ」F坊とドライバーの男は、ソファーに横になってそれこそ死んだように眠り始めた。「バックアップ用のCD-Rだって!ヤツら間抜けもいい所だ。“鍵”を置いていくなんて普通じゃ考えもつかないぞ。肝心要が抜け落ちてやがる」N坊はあきれ果てて口が塞がらない。「そうですよね!」車屋の新人がN坊の顎を塞ぎにかかる。「準備完了してます。いつでも始められます」「よし、まずは復元からだ!CD-Rがあるから、最初はそこから手を入れて行こう。新米、もう1台モニターを接続してくれ!」「了解です」N坊と車屋の新人がKのパソコンを立ち上げた。その時「よし!壁を破ったぞ!侵入出来た!」シリウスが吠えた。「新米、プリンターの用意は出来てるな?情報を出力するぞ!後、“ドクター”を呼んでくれ。必要な情報を特定して貰おう。余り長居はしたくない」車屋の新人は“ドクター”を呼んできた。N坊も輪に加わり、情報に見入った。「どこの国だ?翻訳して貰わないとサッパリ読めねぇ」N坊は首を捻った。だが、“ドクター”は熱心に読んでいる様だ。「そのものズバリだな。ここから全部出せるか?」「ああ、お安い御用だ。後でスキャナーで取り込んだら、翻訳するよ。ロシア語は流石に無理かい?N坊?」シリウスが聞いた。「ここは日本だ!翻訳してくれ。訳の分からん文字は、受け付けないのが俺の主義だ」N坊は突っぱねた。プリンターで情報を出力している間、シリウスは侵入に成功した経路を素早く記録した。「跡を辿られることはないだろうな?」N坊はシリウスに確認する。「それは大丈夫だ。複数のサーバーを迂回してアクセスしているから、心配はいらない。だが、侵入している以上、いつ遮断されてもおかしくは無い。“ドクター”これで本当に大丈夫か?」「これだけ正確な資料があれば、ZZZだと言う事の証明も分析にも支障はない。危なくなる前に離脱しても構わん」“ドクター”は保証した。「では、気付かれる前に離脱するぞ」シリウスは慎重に侵入先から離脱を図った。「だけど、よりによって何でロシアなんだ?」N坊が聞いた。「こっちの方がセキュリティが甘いからだよ。理由はそれに尽きる。それに、ロシアのシンジケートもZZZを狙っている。あわよくば、自国内で製造を企てているのは否定できない。向こうだって利権を欲しがるヤツは、わんさかと居るだろう」「どいつもこいつも、非合法に手を染めやがって」N坊が毒づくと「そう言う、我々も非合法に手を染めおって!」“ドクター”がそう言うと皆が笑い出した。「シリウス、ご苦労さん。悪いが、今度はKのパソコンの分析だ。手伝ってくれ」N坊が言うと「そっちの方がよっぽど楽だ。青竜会との繋がりを突き止めればいいのだろう?」「ああ、そうだ。こっちの方が危険度はグンと下がる」「庭先で遊ぶようなもんだ。分析には大した時間はかからないだろう」シリウスは自信を見せた。「F坊が寝不足にならなきゃいいが・・・、昼前には完全に分析も終わるだろう。横浜ですり替えた清涼飲料水はどこだ?」“ドクター”が尋ねた。「これがそうだ」N坊はスチロールの箱を指さした。「“ドクター”頼みますよ」「任せて置け。こっちの手に墜ちた以上、完璧に分析して見せよう」“ドクター”は新米にスチロールの箱を持たせると分析室へ急いだ。N坊は「とにかく時間がない。みんな頼んだぞ!さあ、俺達も急いで調べ上げよう。シリウス、閲覧履歴からアクセス先を特定してくれ。俺はメールを当たってみる」Kのパソコンの分析は急ピッチで進められた。残された時間は刻一刻と少なくなっていく。「間に合わせるしかねぇ」N坊は必死になってデーターを追った。時計を見る暇も惜しんで作業は続けられた。意地と誇りを賭けた闘いは佳境を迎えつつあった。