limited express NANKI-1号の独り言

折々の話題や国内外の出来事・自身の過去について、語り綴ります。
たまに、写真も掲載中。本日、天気晴朗ナレドモ波高シ

life 人生雑記帳 - 31

2019年05月29日 16時37分37秒 | 日記
修学旅行は無事に幕を閉じた。金曜日の夕方全員無事での帰還だった。翌日の土曜日は休暇だったので、月曜日の朝は久々の再会となった。いつもの様に“大根坂”の中腹で立ち止まって振り返ると5人が登って来るのが見えた。「Y-、おはようー!」雪枝が急いで登って来る。何故か堀ちゃんの姿が無い。雪枝に捕まり右手を封印されていると、後続の4人が追い付いて来た。「堀ちゃんは?」「それが、駅に姿が見えなかったのよ!理由は知らないけど1本遅らせたのかも」と中島ちゃんが言う。「ふむ、さすがに疲れて今日は休みかな?」と僕が言うと「いや、分からねぇぜ!ともかく教室で待ち伏せだ!」と竹ちゃんが意味深に言う。道子もさちも意味深に微笑んでいる。「そうか、ヤツの登校時間に合わせたか!」と膝を打つと「多分ね。Y、少しは許してあげなよ」と道子が言う。さちが僕の左手を封印すると、中島ちゃんが僕の鞄を持って先を歩く。「みんな、見て欲しいモノがあるの!これなんだけどさ。修学旅行の前日に靴箱に入ってたの!」雪枝が鞄から水色の封筒を引っ張り出した。まだ、未開封だったし差出人も記載が無い。「目の前の修学旅行ですっかり忘れてたけど、気味が悪くて開けられないのよ!」雪枝は怯える様に言う。「雪枝、これは迂闊に開けなくて正解だよ。一見するとただの封書だが、中身に仕掛けが仕込まれてたらタダでは済まない!“鑑識”に開けてもらいましょう。僕が一先ず預かるよ!」「“鑑識”って西岡さん?」中島ちゃんが言うので「彼女ならこの手の手紙には、クラスの誰よりも精通している。1つはっきりしているのは、宛名に“先輩”の2文字があるから、1年生が差し出したって事は確かだ。西岡なら下にも顔が利くから、差出人の調査にも有利だ。雪枝、しばらく待っててくれ。中身を改めてから諸々の調査に入らせるよ」「うん、Yの思う通りにして!あたしはただ怖いだけ」雪枝が右手をギュッと握りしめた。「任せときな。悪い様にはしないから」僕等は教室へ入って行った。

「筆跡からすると男性。それも、かなり几帳面な性格でしょう。封の代わりにシールなどが貼られていない事から見ても、女子が偽っている可能性は低いですね。一応、慎重に逆から開けて見ましょう!」西岡は切り出しナイフとピンセットを用意すると、慎重に封筒を開けてくれた。「大丈夫です。仕掛けはありません。参謀長、どうぞ」僕の手に折り畳まれた便箋が手渡される。「雪枝、読んで見な!」僕は便箋を雪枝に渡した。2枚の便箋にびっしりと文字が記されていた。「Y、どう思う?」一読した雪枝は僕に便箋を戻して来た。僕の背後で4人が同時に内容を追う。「割と真面目に書いてるね」「これ意外にマジだぜ!」「差出人は本橋か、どこかで聞いた様な気がするな?」と僕が言うと「本橋なら遠藤のクラスの前委員長ですよ。竹内、長田の両人なら面識はあるはずですが?」西岡が指摘すると「あー!あの子か!」「背は高くねぇが、色の白いヤツだ!」と竹ちゃんと道子が思い出す。「分かったぞ!上田が引っ張って来た4人の内の1人か!」僕も向陽祭の時を思い出した。「そうです。本橋は遠藤と共にクラスを牽引するパートナーです。今やクラスの要と言っても過言ではない存在です」西岡が補足説明をしてくれる。「そんなヤツがガチで雪枝と“付き合いたい”と直球勝負を挑んで来たのか!これは見逃す手は無いな。雪枝、どうする気だ?」「どうするって、あたし分からないわよ。Yはどう思うのよ?」雪枝は戸惑いを隠さない。少し赤くなっているのが意識している証拠だ。「男としては悪くないヤツだ。骨もあるし筋も通すヤツだろう。後はどう返事をするかは、雪枝の決断次第だと思うけど。どうする?」僕は敢えて投げ返して見た。「どっ、どうするって・・・、あたしどうしよう?Yが一緒に行ってくれるなら、あっ、会ってもいいかな・・・?」「“かな”じゃなくて真っ向から立ち向かわなきゃどうする?“付き合うか”“断るか”は、雪枝が決める事だよ。僕がどうこう言う事は出来ないんだ。もう、そう言う決断は自らが決めなきゃいけない時期だと思うよ」僕は雪枝の肩に手を置いて諭す様に言った。「雪枝、Yの言う事は間違ってないよ。だって、来年の今頃はみんながそれぞれの夢や希望に向かって決断して、進んでいるんだよ。いつまでもYに寄り掛かっている訳には行かないじゃん!それに、あたし達はこの星に居る限り繋がっているじゃない。Yが斑鳩の里で絵里を思い出した様に、この空の下であたし達は“唯一無二”の存在としてそれぞれの心に生き続けるの。今は実感が湧かないかも知れないけど、雪枝の行く道は雪枝自身が切り開くしか無いの。否応なしに決断する時はやって来るわ。でも、今回は“予行演習”だと思って望めばいいの。失敗したっていい。本番でミスしないためにも。手紙をくれた本橋がどんな男の子か?雪枝の心で見極めてみたら?」道子も諭すように言う。「困ったら、迷ったら助けてくれるの?」雪枝は声を絞り出す。「今は、あたし達全員が居るから直ぐに駆けつけるわ。Yもちゃんとバックアップしてくれる。だからこそ、自分で決めてみたら?」道子は雪枝の背を押した。しばらくの沈黙の後に「向こうが勝負を挑んで来たなら、逃げるのは卑怯よね!分かったわ。誰か知らないけどナンパなヤツなら蹴り倒してやるわ!あたしを甘く見たら命がいくつあっても足りないって事を思い知らせてやる!」と雪枝は果然やる気になった。「そう、その意気よ!」道子が雪枝を抱きしめた。「西岡、済まんが本橋に関するデーターを集めてくれ。背後関係も含めてな」僕は小声で西岡に依頼した。「少々お時間をいただきますが?」「構わん。その代わりに徹底的に洗ってくれ!」と言うと「娘を嫁に出す心境ですか?」と西岡が言う。「違うよ。園児を卒園させる“園長”の気分だよ」と言って僕等は笑った。

雪枝の件で多少のゴタゴタはあったものの、堀ちゃんが松田と揃って登校して来た頃には、僕等も平静を取り戻していた。「やっばりな!松田のヤツ、堀ちゃんの心を掴んだらしいな!参謀長、卒園させる園児がもう1人居る様だぜ!」窓際に移動した僕に竹ちゃんがそれとなく指さした。「どうやら、間違いないらしいな。後は、堀ちゃんがどう言って来るかだよ。遅かれ早かれ何かアクションはあるだろうな」僕は敢えて眼を逸らした。こちらから動く必要は無い。これからを決めるのは、堀ちゃん自身だった。雪枝もそうだが、堀ちゃんも自らの判断で行動出来る力は持っているのだから。「参謀長、少しいいか?」久しぶりに長官が声をかけて来た。教室前の廊下に出ると「今、小佐野から知らせが入ったのだが、政権交代後に3期生の“復権”が前倒しになる可能性が出て来た。現生徒会長と原田が密会して“復権の前倒し”で合意した模様だ!」「だとすれば、年内にも“復権”が実現しますね。原田としても3期生達を取り込むための“目玉政策”を早期に実現すれば、事を優位に運べますし支持層の拡大に弾みが付く。集権による“会長権限”の強化にも寄与しますね!」「それだよ、“拒否権”の付与や監査委員会の“骨抜き”には支持層の拡大は必須だ。そこで早めに手を回した様だ。お前さん達も忙しくなるだろう。3期生の方は、どの程度まで固まっている?」「過半数は獲得してますよ。“追放”された者達も切り崩して取り込みを強化してますから、多少の揺れで揺らぐ事はもうありません。“見えない壁”さえ突き崩せば、自ずと落ち着くのは時間の問題でしょう」「うむ、どうやら校長から与えられた命は果たせそうだな。下が落ち着いていれば原田政権の船出も順調に進むだろう。この話は、速やかに伝達してくれ!我々にも影響が出ない様に工作を急げ!」「了解です!西岡に含ませて置きますよ。しかし、長官、長崎の対抗馬が“靖国神社”と言うのは些か無理があり過ぎませんか?選挙にする意味と言うか“お遊び”としては相当な無茶を振ったのは何故です?」僕の問いに長官は薄笑いを浮かべると「長崎VS“靖国神社”の下馬評が悪い事は承知している。あれは、小佐野と協議して決めたのだ。ワシだけでなく小佐野の悪乗りも入っておる!どちらがどの程度の票を集めるか?人気投票としては悪くなかろう?」僕は一瞬噴き出してから笑いを堪えつつ「過半数を得るのはどちらか?結果は見えています。その上で“靖国神社”を曝しものにするとは、小佐野も趣味が悪い!」と言いながら笑った。長官も腹を抱えて笑っている。「最低の出来レースだが、少しは楽しみが無いと我々も退屈なのでな!」「我々が暇なのは良いことじゃあありませんか!しかし、暇を持て余すのも問題ですね。何か研究でもされればどうです?」「考えて置く!」長官は涙目になりながら肩を叩くと教室へ戻って行った。程なくして、西岡が東校舎から戻って来た。僕は彼女を手招きすると「政権交代後に3期生の“復権”が前倒しになる可能性が出て来た。年内にも“復権”が実現する確率が高いと言っていいだろう。上田と遠藤達に、それとなく伝えて置け。これで、彼女達の足元はより強固なモノになるだろう」と告げた。「朗報ですね。上田にしても遠藤にしても、この知らせを待ち望んで居ました。早期に実現した背景は何です?」「原田の思惑だよ。“拒否権”の付与や監査委員会の“骨抜き”には支持層の拡大が不可欠だ。下が安定しなくては、我々も常に揺さぶられて安定しない。“原田色”を鮮明にするには、早期実現に踏み切らざるを得なかったってとこだろう。だが、これで“懸念”は払拭される事になる。上田達にしても、我々にしても歓迎しない手はあるまい?」「ええ、これで先が見えてきます。彼女達の“改革”にも弾みとなるでしょう。伝達はどうされます?」「今日の昼に含ませて置け!まだ、確定ではないから、ぬか喜びで終わったら意味が無い。“年内にも実現しそうだ”と言うレベルに留めて置くのが最善だろう。無論、原田の尻は早く叩かなくてはならんが」「分かりました。本橋の件で昼に繋ぎを付けてあります。その際に伝えて置きますよ」「済まんが宜しく頼む。西岡、とうとう来たな!」「はい、今までの努力が報われますね」僕は西岡と並んで教室へ戻った。

“大統領選挙”は、原田の圧勝で幕を閉じた。一応、選挙にはなったが2期生の中でヤツに届く人材は他に居なかった。伊東と千秋と久保田の“入閣”も正式に決定し、僕と長官にも“会長特別補佐官”の肩書が予定通りに付いた。「ワシは面倒な肩書など要らぬ!」と長官は忌み嫌ったが、着いて来た肩書は勝手には降ろせない。否応なしに僕達も原田政権の一員として政務に付く事となった。長崎VS“靖国神社”の異例のレースは意外にも僅差になったものの長崎が競り勝った。「これで、委員長の椅子は安泰よね!」千里がホッと胸を撫でおろした。「Y-、堀ちゃんから何か聞いてる?」中島ちゃんが尋ねて来た。「いや、まだ何も聞いてないが、どうした?」「彼女、松田君とラブラブだけど、お昼のお茶会には来てるでしょう?いい加減、一言あっても良くない?」要は“筋を通せ”と言いたい様だ。「ボールを持っているのは、堀ちゃんだからな。相互不干渉が原則のグループにあって、勝手に介入する意思は無いよ。時が来るまで気長に待ちましょう!雪枝と本橋の件を軌道に乗せるのが先決だし、石川の方も放って置く訳にもいくまいよ」「うん、あたしもそろそろ決断しなきゃいけないね!」中島ちゃんが真剣な表情に変わる。「いい傾向じゃない?それぞれが自立の道を模索するのは、当然の事だしYもさちを見て居たいだろうし?」道子がサバサバとした口調で話して来る。「“いつまでも保育園”って訳にも行かないからな。1年前倒しで自立してくれるなら、後々も安心していられる。道子、今日の依頼は?」「今のところ3件。男子から1年生の女子に関する問い合わせよ。最近急に増えたわよね?」「余裕が生まれたんだろう。3期生のクラス内も安定しているし、気になる先輩に声をかける、こっちからアプローチしても答えるゆとりがあるのはいい事だよ。それに男としては“切実な問題”も関わってるからな」「“切実な問題”って何よ?」さちが小首を傾げる。「年が改まれば“バレンタイン”は目前だ。昨年、悔しい思いをした連中にすれば“逆転ホームラン”をかっ飛ばすためにも、今から動かないと間に合わないだろう?」「そうか、それで焦ってる訳?熾烈になるのはそう言う意味合いもあったのね」さちがようやく納得した。「今回は3期生が居るからチャンスを掴める枠も増えた。野郎共にして見ればリベンジに燃えるのは必然性がある。だけど、この子は競争激しいから無理だと思うな。残りの2件は手付かずだから、見込みはあるが相手の反応次第ってとこだな。調査報告はそれで行くしかあるまい。後は本人の努力次第で押し切ってもらいましょう!」「Y-、中島先生が呼んでるよー」東校舎から戻った雪枝が声をかけて来た。「さて、何だろう?大した問題は起こっていないが?」僕は首を捻りながら生物準備室へ入った。只ならぬ空気がまとわりついて来る。どうやら厄介事が起こったらしいと直ぐに推察が付いた。「Y、まずはこれを見て見ろ!」先生は隣接県の教育委員会の封筒を僕に差し出した。書類の束に眼を通すと血の気が失せた。「これは・・・、この推薦状は・・・、本気なんですか?!」僕は呆然と言った。「先程、県教委から校長のところに正式な要請が入った!転入試験を実施せざるを得ないのだ!忌々しい限りだが、筋は通っているから拒否は出来ないのだ。学校からの推薦と県からの推薦が来た以上は、切り捨てる理由が見当たらない」先生の顔色も青白い。「しかし、彼女は“退学”を選んでます。“退学した者を編入させる”なんて前例が無いのでは?」「確かに前例は無い。だが、正式なルートで要請が来たからには、こちらも対応を迫られている。クラスの上層部を集めて至急対策を協議しろ!これは下手をすれば“舞い戻り”となるやも知れん重大事だ。急げ!一刻の猶予もならん!」「はい、では緊急に査問委員会を招集します!」「うむ、こちらも最新の情報が入り次第、随時お前に伝えるつもりだ。用心してかかれ!今までとは訳が違う」「では、早速」僕は生物準備室を辞した。「下手をすれば学力は僕等の上を行っている可能性もあるな。畜生!こんな手を使うとは!」僕は毒づいたが、現実は進み始めている。これが“菊地美夏、編入騒動”の始まりだった!

「なに!“菊地美夏が編入試験”だと!参謀長、間違いではあるまいな?!」長官の声が上ずった。「先生から関係書類を閲覧させてもらいましたが、紛れもない事実ですよ!編入試験は半月以内に実施されます!」僕の声も上ずっていた。「ヤツが舞い戻って来るのか?だとしたらタダでは済まない。やっと船出したばかりの新政権にとっても、打撃は避けられないじゃないか!」伊東の声も上ずっていた。「“悪魔に魅入られた女”が戻ってきたらそれこそ学校中がひっくり返るぜ!何とか防ぎ様はねぇのかよ!」竹ちゃんが机を叩いて言うが現段階で具体的な策は無かった。「舞い戻って来ると仮定して、どうやって校内の秩序を維持するか?を考えなきゃならない。ひとまずは、関係各所に警告を流す事、体制を引き締める事、正確な情報を提供する事の3つから手を付けるしかない!」僕が言うと「原田に一報を入れて来る。ヤツに言えば直ぐに臨戦態勢を取るだろうし、情報網を駆使して裏も取れるだろう」と言って伊東が駆け出した。「ワシも小佐野を動かして裏を取って見るつもりだ。滝さん、菊地家の偵察をやってくれ!しばらくは眼を離さないでくれ!」「了解!人の出入りと本人の去就を見極めればいいよな?」「ああ、派手な真似は出来ないが、出来る限り監視を強化してくれ!」僕からも滝に依頼をかけた。「あたし達はどうすればいいの?」千里が心配そうに聞いて来る。「早晩、発表があるだろう。動揺しない様に女子を束ねてくれ!まだ、編入が決まった訳では無い。毅然としていつも通りに過ごす様に仕向けるんだ!千秋も手を貸してやれ!」2人は黙して頷いた。「どうやら、今回は一筋縄では行かないだろう。壁を破られたらそれまでだ。戻って来ると仮定しての対策を考えなきゃならないな!」久保田は意外にも冷静に物事を見ていた。「それなんだが、赤坂と有賀以降の人事を決めて無いだろう?生徒会にも人手を取られてるし、重複しての兼任は難しいのが現実だ。来年度の頭を誰に託すか?まず、そこから始めないとクラス全体の方向性も決めにくいし、付け込まれたらアウトだ!」「そうだな、政的駆け引きに負けぬ人材とすれば、山田と西岡辺りでどうだ?」長官が2人を挙げた。「冷静かつ沈着な山田に、菊地を知り尽くしている西岡なら崩れる心配はないでしょう。我々の声も聞き入れてくれますし」僕は長官の意見に同意した。「俺達も居るしあの2人なら持ち堪える事は出来るだろう」久保田も同意した。「そして、大トリに長崎を据える。ヤツならこちらから耳打ちさえして置けば勝手に突進するから、逆に菊地にとっては扱いにくい存在となろう」「裏で糸を引く役はどうするのよ?」千里が懸念を示す。「それには真理子さんを口説き落とす。長崎の操縦は意外と単純だ。物怖じしない彼女ならしっかり糸を引いてくれるだろう」長官の意向で人事は固まったが、各グループの引き締めは容易では無かった。「問題は男子よね。付け込まれるとしたら、綻びは男子の曖昧な組織だと思うの。再度の再編をかけるか?久保田、竹内、今井で引き締めるか?どっちが効果が上がるかな?」千秋の指摘は的を射ていた。「組織再編にかかっている時間は無いよ。ここは女子側から吸収してしまうのが近道じゃないかな?」「男子を統制下に置くか!主要なグループはそれでもいいけど、全員をカバーするのはさすがに無理があるんじゃない?」千里が現実を考慮して言う。「確かにそうだが、互いに声を掛けられる関係を築くのが目的だから、穴を見せなければいいんだ。ヤツはクラス内の情勢に疎いから、隙を見せなければ孤立するしかない。孤立無援に追い込めればいいんだ!」「それなら、軒下を貸せばいいから濡れる事は無い様に出来る。要は、放駒を作らなければいいのね?」「そうなんだが、それが意外に大変なんだ。久保田、竹内、今井達にも協力を仰いで、男子をまとめる工作を平行して進めるしか無いんだ。女子にお願いしたいのは“なるべく多くの傘を用意して欲しい”つまり、個々での繋がりも模索して欲しい事なんだ!浮いた駒を狙われないためにはそれしか無い」「付かず離れずの距離を取りつつも、いざと言う時は傘をさしかけるでいいのね?それなら千里と相談して見るわ!」千秋が同意して千里と話し始めた。「原田が“緊急集会”を開く方向で調整に入ったし、情報網に一報を入れて探りにかかった。ヤツにしても寝耳に水で“邪魔をされては敵わん”って言って緊急対策を取る算段を考えてる。“内情に疎い事は利用する価値はある”とも言ってたが、ヤツも内心は穏やかでは無さそうだ」伊東が戻って報告をする。「どこもそうだろう。この1年余り、“悪魔に魅入られた女”を直接見た者は少ないし、どれほどの実害を及ぼしたかを知る者も少なくなった。そんな中、突然悪魔が帰るとの知らせがあったのだ。原田にしても恐怖を感じて居よう。ヤツはそれだけ危険で恐ろしい女なのだ。我々も心してかかられねば全てを失う恐れはある!久々に全力で戦う日が迫っておる。みな、それぞれの立場で戦いに備えてくれ!」長官が激を飛ばした。「はい!」全員が合唱すると個々に対策に走り始めた。

それから3日後、菊地の通っている学校から“成績”と“履修範囲”が届いた。「レベル的には若干低いし、履修範囲も本校より遅れている。これを見た校長が学力テストに加えて“小論文”と“面接”を科す事を決めた。論文の課題は“私の政的知見”だ。左翼思想がどれだけ封じられているかを試す。何しろ政的思想で学年と学校全体を混乱に陥れたヤツだからな。ここで化けの皮を剥いで、追い返すのが校長の狙いだ。言うまでも無いが、学校では政的思想で生徒を扇動する事は禁じられているし、我々はこれを認めない。学生足る本分は学ぶことであり、共に高め合う事だ。政治思想で学校を乗っ取るつもりなら、容赦なく追い返すまでだ!」先生の鼻息は荒かった。「編入試験の日程は決まりましたか?」と僕が聞くと「2週間後の日曜日だ。恐れたり心配することは無い。これまで同様に切り捨てて見せる!」先生は自信を覗かせていたが、僕の心は晴れなかった。“これまでとは何かが違う。如何にハードルを高く設定しても、越えられる可能性は60%はあるだろう”と言う疑念だった。レベルは低くとも学校に通っているのだ。自宅で悶々としていた“無期限停学”とは違う。学びの場に居れば自然と知見は広まるし質問も出来る。手強い相手にどこまで立ち向かえるか?結果は2週間後に明らかになるのだ。「参謀長、今、宜しいですか?」西岡が声をかけて来た。「構わないよ。何か掴んだか?」「あたし達の情報網に引っかかった事ですが、菊地は連日深夜まで勉学に励んでいる様です。ラジオの通信講座も含めて。睡眠時間は4~5時間。疲れは極限に達している模様です。それと、今週末にあの女が自宅に戻って来ます!」「そうか、焦りが出ているな。それで次の手は?」「無言電話作戦を考えています。費用はかさみますが、神経戦に勝てれば返り咲きを阻止出来るかも知れません!」「勿論、足が付かない様にやるのだろう?地味な策だが効果は絶大になる。いいだろう、やって見てくれ!」「分かりました。方法はお任せ下さい。それと上田達から質問が上がって来ています。“菊地の危険性について”です。こちらもお任せいただければ、こちらで処理しますが宜しいですか?」「いや、私が話して聞かせよう。実体験をした者として、あの女の腐り切った性根について語るのは義務でもある。日程を調整して上田達を集めてくれ。立会人は勿論君だ。これなら問題は無いだろう?」「珍しいですね。ご自身が直接話されるとは。しかし、常に先陣を切られた方が話されれば、彼女達もいい勉強になるでしょう。では、日程を調整してまたご報告に参ります」「西岡、今度の編入試験をどう見る?」「6対4で突破される可能性は否定しません。しかし、回り道をしたツケは思いの外、足枷になるかも知れません。正直、今回は5分5分と見ています」「やはりそう思うか。私も嫌な予感に駆られているのだ。相手はタダ者ではないし、学校に通っても居るのだ。嫌な予感は当たりやすいが、あらゆる手を用いて阻止に動こう!」「はい、再び地の底へ落とされるのはコリゴリです。あたし達も力の限り戦いますよ!」西岡はそう言うと廊下を歩いて行った。「力の限りか。僕もまだ打てる手を考えるか!」僕も廊下を歩きだした。向かったのは放送室。滝の根城だ。「電子戦を仕掛けられれば、勝機はあるかも知れない!」僕は最後の賭けに打って出る覚悟を決めた。放送室のドアをそっと開けると“中央フリーウェイ”が流れていた。滝は首都高から八王子に至るルートを熱心に調べていた。曲が終わると「よう、居たのかい?」と椅子を回転させて正対して来る。「“中央フリーウェイ”は調布ICの先だろう?何を計算してるんだ?」と問うと「新宿のバスターミナルからの距離と時間を割り出して、オリジナルテープを作ろうと思ってな。曲順を思案してたのさ。用向きはなんだ?」「あの女が今週末に自宅へ戻るとの情報が入ったし、ラジオの通信講座を受講しているのも判明した。そこでだな・・・」「ECM(電波妨害)か?」滝はセリフを引き取った。「ラジオだけでも使用不能にしたくてな!大袈裟な装置にならない範囲でラジオを受信不能に出来ないか?」「雑音を入れるのなら、ここにあるガラクタで組み上げられるが、問題は指向性を持たせる事だな」滝は思慮に沈む。「銅線で簡易アンテナを付けたらどうだ?棒アンテナの先に括り付ければ?」「ある程度は指向性は持たせられるが、周囲に影響は出るぞ!だが、1週間の限定だよな?」「ああ、事が済めば用は無くなる」「ちょうどデッキ部分がイカレたラジカセがある。コイツを改造して雑電波を飛ばすか!ラジオが相手なら出力も小さくていいし、1週間なら電池で電源は賄える。防水対策はレジ袋で2重に包めばOK、設置場所は軒下で行ける」滝は可能性を1つ1つ確認していく。「今週末って言ったよな?今からやれば充分に間に合うぞ!しかし、その明晰な発想をもっと有効に使うつもりはないのか?謀略以外の手は浮かばんのかよ?」「今はその時じゃないよ。編入試験を撹乱するのが先だ!」「OK、仕掛けとくよ。電子戦に神経戦か。他には何をやるんだ?」「無言電話さ。費用はかさむが、神経を逆なでする効果は大きい」「キレてくれれば儲けものか?普通はそこまでやらないが、相手がヤツだからな。手段は選んで居られないな!任せとけ、AMもFMも全滅にしとく!」滝はガラクタを掘り返し始めた。僕の打てる手はここまでだった。「後は、運を天に任せるしかあるまい」僕は教室へ向かう階段をゆっくりと昇って行った。運命の編入試験まで2週間だった。

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