limited express NANKI-1号の独り言

折々の話題や国内外の出来事・自身の過去について、語り綴ります。
たまに、写真も掲載中。本日、天気晴朗ナレドモ波高シ

ミスター DB ㊺

2018年09月17日 11時52分24秒 | 日記
午前10時を過ぎた頃、爆音がピタリと止んだ。“2匹の食用蛙”のお目覚めである。しかし、明らかに二日酔いの症状が2匹を苦しめた。「頭の中で銅鑼が鳴っている・・・」Kが呻くように言うと「あれだけのドンチャン騒ぎをすれば、当然だが・・・」DBも呻きつつ何とか起き上がった。息は酒臭く、室内も加齢臭が加わり非常に臭い。「窓だ・・・、窓を開けよう」Kがよろめく様に歩き、窓をこじ開けた。日は既に高く昇り、眩い光と風が悪臭の漂う室内へ雪崩れ込んだ。「あー、夕べは久しぶりに呑んだなDB」Kが額を抑えつつ言うと「紹興酒のボトルは何本だったかな?久しぶり過ぎて、記憶が無い」とDBも応じた。2匹は、水を求めてコップを手にすると、大量の水を飲み干した。その後、シャワーをたっぷりと浴びて、アルコールを抜く事に努めた。2匹がどうにかまともに喋れる様になるまでは、かなりの時間を要した。

時間は少し戻って、午前9時。リーダーは、機動部隊に作戦開始を指示した。法務局と相模原市のNPO法人の本拠へ向けて、部隊が進んでいった。ミスターJとリーダーは、相模原市の地図を広げて「ここです。NPO法人の本拠は、山間部の山裾にあります」「直近の民家まで300mはあるな。夜は、人の出入りも分かるかどうか微妙だ。街灯もあるかどうか?いずれにしても報告待ちだな」2人は互いに図上に目を走らせて言った。結果は、まず法務局から入って来た。「登記簿によれば、4ヶ月前に所有者が替わっています。NPO法人から、青竜会系列の物産会社に所有権が移っています。建物はそのまま残っている様です」と機動部隊員は報告した。リーダーは「やはり、青竜会の手に落ちた様ですね」と言い、ミスターJは「問題は、現在の状況だ。果たして何が待っているかだ。旧本拠の前を通り過ぎつつ観察して、川の対岸から望遠レンズで狙える観測点を探す様に指示を出せ!」と言った。リーダーは直ちに指示を送った。ミスターJは“耳”のスイッチを入れて見た。聞こえるのは、相変わらず爆音の様なイビキだ。「2匹はまだ爆睡中か」直ぐにスイッチを“自動検知”に切り換えると、地図を見つめ直した。「反対の山腹に公園らしき場所がある。ここから俯瞰できれば気付かれずに観察できるが、現地で見通せればいいが」と地図上の点を指しながら言う。「そうですね。遮る物が全くないとマズイですが、この高さなら上から見下ろせそうですね」とリーダーも言った。すると、NPO法人旧本拠へ向かっている機動部隊の先発隊から「旧本拠に近づいていますが、警察の覆面車とおぼしき車両を発見しました。あまり長居は出来そうもありません。後続の車両から“ハイカー”に変装させた隊員3名を降ろして、徒歩で確認をさせます」と報告が入った。「やはり、警察が動いていたか。今は、青竜会にも警察にも悟られたくはない。無理なら引き返して、反対側の山腹へ向かわせろ!」すかさずミスターJは手を変えた。「警察が動いていると言う事は、ZZZの関係でしょうか?」リーダーの問いに「確証は得てはいないだろう。ただ、青竜会が急に動いたので、何かあると睨んでの監視だろう。これで、こちらも動きづらくなった。よし、全車両を反対側の山腹付近へ回せ!“ハイカー”に変装させた隊員にも本拠には近づくなと伝えろ!手前の集落で聞き込みする程度で、手を引かせろ!」ミスターJは矢継ぎ早に指示を送る。「こうなる事を恐れていたんだ。警察にも青竜会にも悟られるのはマズイ。両者に悟られないポイントから遠望するしかあるまい」ミスターJは地図上を慌ただしく見ながら言った。「集落付近で情報がありました。4ヶ月前にNPO法人が“夜逃げ”同然に旧本拠から退去した翌々日、4台の黒塗りのセダンとトラックの車列が、旧本拠に入ったそうです。セダンの内1台には“金色の武田家の家紋”の様な印が付いていた様です。最近は、宅配業者の出入りが多く、午前と午後に定期便が運航している模様です。他には“金色の武田家の家紋”の様な印の付いた2トントラックの往来もあるとの事です。また別の情報では、大量のダンボールが資源物として、ゴミステーションに置かれていたり、事務員とおぼしき女性数名が通勤している様です。“ハイカー”に変装させた隊員も含めて全車反対側の山腹へ移動します」と本隊から報告が入った際には「“金色の武田家の家紋”の様な印?!武田菱と言えば、青竜会の“略章”ですよ!」リーダーが顔色を変えつつ言った。「ボス自らのお出ましがあったと言う訳か。NPO法人本拠は取り潰されて、青竜会の施設に変貌しておると見える。接近は危険だ。遠望で探るしかない」ミスターJは地図を睨むと「もう1ヵ所、遠望出来そうなポイントがある。学校の裏手側だ。ここにも部隊を回せ。当初のポイントをAとするなら、こちらはポイントBだ。2ヵ所から遠望させろ!ところで遠望するためのレンズは用意しているだろうな?」「はい、高倍率のフィールドスコープを持っています。撮影用の装備も持って来ているはずです」リーダーは指示を送りながら答える。「青竜会の“略章”を付けたトラックの出入りがあると言う事。大量のダンボールの廃棄がある事から推察すると、物流倉庫兼保管庫として使っている可能性が高い。ZZZを含む麻薬類もここにあるのだろう。機動部隊には、遠望しながら撮れるだけの写真を撮ったら引き上げる様に伝えろ!青竜会と警察に悟られるのは危険だ。午後2時ぐらいを目安に監視を打ち切らせろ!その間の情報は、司令部へ届ける様に言っておけ。携帯での連絡も一旦は打ち切る」ミスターJは決断を下した。「NPO法人本拠が壊滅している以上“彼”を送り込む先も無い。どうやら“修行”とやらに出される心配も消えたな。知らぬはKとDBだけだ」「警察が張り込んでいると言う事は、向こうも何らかの情報を得ていると見ていいのでは?」リーダーが言うと「5分5分だろう。確たる証拠は、まだ掴んではおるまい。ただ、この4ヶ月で青竜会の動きが明らかに変わった。警察としては、糸口を掴むべく張り付いているのだろう。今日の夕方以降は、ハチの巣を突いた様な騒ぎになるだろうが・・・。リーダー、機動部隊への指示は送ったか?」「はい、午後2時を持って作戦行動は終了させます。情報はここへ届ける手筈になっています。緊急の場合以外の携帯の発信も止めました」「うむ、後は“2匹の食用蛙”の動向次第か・・・」「そうです。予備隊は、法務局へ向かった部隊と合流して待機しています。いつでも追跡出来ます。しかし、昨夜のドンチャン騒ぎのツケは重いでしょう。動き出すとすれば、午後になるのでは?」「そうだな、化け物じみた“2匹の食用蛙”と言えども、流石に今日は動けまい。“耳”もまだ反応が無い様だから、食事どころでもあるまい。二日酔いを覚ますだけでも苦しいはすだ!」2人は顔を見合わせて肩を竦めて笑った。

バスタブに熱い湯を張り、シャワーも全開にして“2匹の食用蛙”達は、アルコールを抜く事に努めた。浴室はたちまち加齢臭と酒臭さに包まれた。その匂いに耐えかねて2匹は、喘息患者のように激しく咳き込んだ。シャンプーとボディソープをありったけ撒き散らして、ハゲ上がった頭から足のつま先までを洗う。だが、新たに加わった匂いのせいで浴室内は“異様な臭気”が充満してしまった。Kは浴室から這い出して、窓辺で呼吸を整えたが、その様は“食用蛙が鳴いている光景”そのものだった。DBは臭くなった湯を張り替え、再度全身を洗っていた。Kが居なくなった分異臭も和らぎ、呼吸も楽になっていた。ガマの油の様に大汗を滴らせ、DBがタオルを巻いて浴室を出ると、Kが飛び込むようにして浴室へ入った。同じように全身を洗い直し、異臭を振り払う。ガマの油の様に大汗を滴らせ、タオルを巻いて浴室を出ると、DBがヘタり込んでいるソファーの反対側へ雪崩れ込む。フェイスタオルをDBへ投げて自らも顔を覆う。DBは天井を向いたまま顔をタオルで覆った。腹は膨れ上がったままで、張り裂ける寸前。ゼーゼーと息は荒く、声を発する力はまだ出なかった。室内に充満していた加齢臭と酒臭さは、石鹸臭と加齢臭に入れ替わり、徐々に外気で薄められていった。暫くすると、また爆音の様なイビキが響き渡った。“2匹の食用蛙”達は再び寝入ってしまったのだ。その音は“耳”を通して司令部にも聴こえていた。「何か匂いますね・・・、生臭い感じの匂いが」リーダーが言うと「確かに生臭い。上から臭気が降って来た様だ。窓を閉めて置くか」ミスターJが笑いをかみ殺しながら窓を閉めて、エアコンを入れた。“耳”のボリュームを絞ると「“2匹の食用蛙”達は夕方まで動かん。予備隊へ食事を摂る様に伝えていい。取り敢えず前半戦は終わった」と言って時計を見た。午前11時を過ぎている。「残るは“基地”の動向次第だ」ミスターJとリーダーは、“耳”を自動録音にセットすると、昼食を摂りに外へ出かけた。久しぶりの外出だった。

同時刻“基地”では最後の詰めの作業が行われていた。“スナイパー”の拳銃の鑑定書と“ドクター”のZZZの鑑定書は、スキャナーでの読み取りを終えて、PDFファイルとしてシリウスの操作するパソコンに送られた。メールのデーターと閲覧履歴のデーターは、既に取り込まれている。残るは、書類の作成だけになっていた。「みんな手袋を忘れるな!我々の指紋が残らぬように気を付けてくれ!」シリウスが注意を促した。「了解、全員手袋をしてるぜ!プリントアウトの前から用心してるって!」N坊が言う。「スキャン用は破棄して、“本通”を2部作ろう。“ドクター”は手袋を外してくれ」F坊が言う。「そうだな、わしの指紋が残らなくては、本通にはならんからな」“ドクター”は手袋を捨てると、鑑定書を2部作成して自身の判を押した。「なんで“ドクター”の指紋は残ってもいいんですか?」「それはだな新米、“ドクター”が警察の鑑定も仕事にしてるからだ。県警間の横の連絡から“ドクター”の名前は知れ渡っている。もし、指紋が出ないとなると信憑性が無くなるし、再分析でもされたら間に合わん。“ドクター”が“何者かに拉致されて鑑定しました”って言う事を、県警に言い訳できなきゃアウトじゃないか!」F坊が説明を加えた。「ほい、こっちも出来たぞ!拳銃の鑑定書と元箱一式だ」“スナイパー”が奥のテーブルから声を挙げた。「鑑定書は1部づつ、ナイロン袋へ入れてジッパーで閉じてくれ。元箱は新米、別のテーブルに移して置いてくれ。今晩、返しに行くんだ!」N坊がメールのデーターを印刷しながら言った。「メールのデーターはこれだけだ。ホッチキスで止めてナイロン袋へ入れておく」F坊は、閲覧履歴のデーターを印刷し終わると「N坊こっちも頼む。俺はKのパソコンを拭き上げる」と言って、パソコンを分解し始めた。「1ヵ所でも拭き洩らしたらアウトだ。念入りに拭き取らなきゃならん」およそ手を触れたと思われる場所以外も、念入りにアルコールで拭いていく。“スナイパー”は、ダンボール箱と緩衝材を手に梱包の用意を始めた。「なるべく小さくしないと、俺の車のトランクに収まらん。上手く隠せるサイズに仕上げるのは結構骨だな」“スナイパー”はトランクのサイズと箱のサイズを繰り返し計り、大きさを見定めた。F坊が拭き上げを終えると、Kのパソコンの筐体はビニール袋に包まれてダンボール箱へ納められた。緩衝材で周囲を固めると、テープで閉じられ“スナイパー”の車トランクへ積み込まれた。シリウスは目を血走せながらも懸命にデーター処理を続けていたが、新品のDVD-Rを取り出すと“書き込み”に入った。「もう少しでDVD-RもOKだ。書類は出来たか?」と聞く。N坊が「書類の方は終わった。後は、DVD-Rの検証を待つばかりさ」と言った。F坊は「新米、大至急食料調達へ行ってくれ!車内で食えるモノを選んで買い集めろ!」と言った。「了解です。直ぐに行ってきます!」車屋の新人は、自分の車に飛び乗ると近くのコンビニへ走った。その時、DVD-Rがシリウスのパソコンから吐き出された。「よし、別のパソコンで検証開始だ!」シリウスは直ぐに検証作業に入った。既に書類は2通の封筒へ納められ、片方は封印されている。DVD-Rの検証が終われば、全ての作業が完了する。“スナイパー”は地図を広げて、ルートの確認をしている。N坊とF坊は証拠品の清涼飲料水のボトルと、ZZZの“粉末”を慎重に拭き上げて容器へ入れて封印にかかっている。“ドクター”も分析結果を自身のパソコンへ移して、検体の保管作業と分析室の整理にかかっている。後は、シリウスの検証待ちだ。N坊とF坊は証拠品の封印を終えると「シリウスどうだ?ちゃんと見えるか?」と言いながら、彼の操作するパソコンの画面を覗き込んだ。「ああ、目下の所異常はない。きちんと書きこまれているよ。漏れが無いか確認するから、もう少し時間をくれ」慌ただしく画面を見ながらシリウスは答えた。このDVD-Rこそが“本丸”であり、書類は二の丸の様なものだ。“本丸”がきちんとデーターを示さなくては、二の丸の意味は薄れる。細心の注意を払ってシリウスは検証を急いでいる。“スナイパー”はN坊とF坊を捕まえると「帰りのルートが決まった。フレンチを“盾”代わりに使って逃げ切るのが一番早そうだ」と言った。「暴走するフランス車に紛れるのか?」N坊が言うと「そうすれば、捕まるのは向こうだ。こっちはその隙に車速を稼いで前へ行く。付かず離れず距離を保ちながら走る。これしかない」“スナイパー”は答えた。「迂回しても時間は稼げないって事かい?」F坊が聞くと「あらゆるルートを考慮したが、取り締まりの確率の高い場所や、事故の多発地帯を避けて走るとなると、物凄い大迂回をしなくちゃ無理だ。何しろ時間が無いと来てる。最短で帰り付くとすれば、来た道を引き返すのが最善だと言う結論になった訳だ」“スナイパー”の表情は苦渋の選択を物語っていた。「だが、実際は警察無線の傍受やレーダー探知機の使用、“盾”代わりに使うフランス車の台数を考えると、一番安全に帰れる経路でもある。何しろ“重要証拠物件”も乗っているんだ。俺達だけが帰っても意味は無い。“重要証拠物件”を横浜へ確実に届ける方が重要だ。多少の面倒には目を瞑るのもやむを得ない」“スナイパー”の言う事は最もだった。N坊とF坊は「一蓮托生」「アンタの腕に賭ける」と言って、“スナイパー”の車にクーラーボックスに入れた証拠品を乗せた。シリウスは必死に画面を追っていたが「よし!完了だ!DVD-Rが仕上がった!」と言うと、目を閉じて暫く天を仰いだ。「はい、よし、よし、よし、よくやったシリウス!ご苦労さん。F坊、拭き取りを頼む」「よっしゃ!これで完了だな」N坊とF坊はシリウスの肩を揉んだり、早速拭き取りにかかった。ケースをビニール袋へ納めて、閉じられていない封筒へDVD-Rを滑り込ませると、封印をして平たいダンボール箱へ2通の封筒を納め、“スナイパー”の車に乗せた。ほぼ同時に車屋の新人が食料を調達して戻って来た。ビニール袋3つも車に押し込まれた。「みんなご苦労さん。これから俺達3人は横浜へ戻る。後の始末は任せるぜ!」F坊が代表して言った。「“基地”の片付けその他は、こっちでやる。無事に横浜までぶっ飛んでくれ!」シリウスも代表して言う。「さあ、出発だ!先はまだまだ長い!」“スナイパー”の車のエンジンが咆哮した。「じゃあまた“打ち上げ”で会おう!」N坊とF坊は、シリウス、“ドクター”、車屋の新人とハイタッチを交わすと、“スナイパー”の車へ乗り込み、“基地”を後にした。「さて、わしらも片付けとデーターの保存にかかるかの」“ドクター”がくたびれた声で言うと「ああ、俺達の任務はここまでだ。夜になったら拳銃をDBの菜園に戻せば完了だ」とシリウスも言う。「片付けだけでも、夕方までかかりそうですよ。大車輪でやらないと」車屋の新人は散らかり具合を見て呆然と言う。「つべこべ言うな。元に戻せばいいんだ。簡単じゃろうて」“ドクター”が車屋の新人の背中をどやしあげた。“基地”の3人は、それぞれに片付けにかかった。「無事に戻れ」と心の中で呟きながら。時刻は午前11時30分を少し過ぎていた。

その5分後、ミスターJの携帯にメールの着信があった。「“基地”を出発。到着時刻は未定。随時状況を送る」N坊とF坊が送ったメールだった。「“基地”を出ましたか?」リーダーが聞くと「その様だ。だが“到着時刻は未定”とある。何か障害に阻まれているのかも知れん」ミスターJの顔は曇った。「どうやら“重要証拠物件”の引き渡し場所を変更する事になるかも知れん。Y副社長側にも協力を仰ぐ必要がありそうだ」「ですが、ギリギリ間に合う可能性もあります。今後の推移を見てみては?」リーダーが進言した。「ふむ、どの道この計画は賭けだった。まだ、半歩はリードしておるな。NとFと“スナイパー”に任せるしかあるまい。Y副社長側へは私から極秘チャンネルで知らせて置こう」ミスターJは携帯を操ると、暗号メールを送信した。「待つだけじゃな。だが、あの3人は並の部下達ではない。必ず間に合わせるだろう」ミスターJは確信を込めて言った。

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