limited express NANKI-1号の独り言

折々の話題や国内外の出来事・自身の過去について、語り綴ります。
たまに、写真も掲載中。本日、天気晴朗ナレドモ波高シ

life 人生雑記帳 - 46

2019年09月19日 06時29分00秒 | 日記
“向陽祭”が無事に閉幕した翌週の月曜日の昼休み、1ヶ月半ぶりに主要メンバーが集ってのお茶会が再開された。「久しぶりだよな!何だかんだで振り回されてたから、半年近くも会って無い気になるなー!」僕はアールグレイをゆっくりと口にする。「でも、大活躍だったじゃねぇか!原田がすっかり霞んでるぜ!」竹ちゃんがオレンジペコを飲みながら返す。「Y,結局は貧乏クジを引いてない?警備係までやってるんだし、働き過ぎよ!」道子が眼を吊り上げる。「来るもの拒まずもいいけど、Yばかりが苦労させられるのは、納得出来ないわね!」堀ちゃんも続いた。「まあまあ、2人共そう言わないで!組閣に新閣僚人事までやり遂げたんだから、無駄ではないのよ」と言って、さちがなだめにかかる。「石川が生徒会長で?」「本橋が監査委員長?マジなの?」中島ちゃんと雪絵が不可解な表情で、僕の顔色を伺う。「ああ、本気で決めた。2人共大事な戦力だ!既に当人達にも内諾を得ているし。2人の適正を見極めた上での判断だよ!」僕はカップをソーサーに戻してアールグレイを注ぐ。「まあ、Yが決めたのなら間違いは無いと思うけど」「本当にアイツらでいいの?」中島ちゃんと雪絵は、懐疑的だった。「タッグを組む相手が、上田、遠藤、水野、加藤の4人だからな。相性的にも悪く無いし、それぞれに互いにクラスメイトだから気心も知れてる。専制独裁政治から集団指導体制へ移行させるんだから、何よりも結束力が大事なんだ!“向陽祭”の期間中、この6人を試した結果、問題は無いと踏んだし、先々難しい舵取りをしなきゃならない!この6人なら上手くやれるだろう」「ふむ、あの子達がねー!」「大鉈を振るうか?まあ、アイツらなら出来るかもね!」2人は少し遠い眼をした。上田達を更生させてから1年余りが経過している。当初からは想像もしなかった人事案なのだ。「山本と脇坂の処遇は?」竹ちゃんが言う。「彼等の役割は陰の実行部隊さ!長官や僕の後任として活躍してもらう。石川達を背後から支えるのが任務になる!そのためにも、夏季講習の際に教育をやらなくちゃならない。総勢8人に講義をして、秋の大統領選挙に備える!まあ、鍛えがいはあるけどね!」「それはいいが、原田をどうするつもりだ?ヤツだって手は回してるだろう?選挙に勝つ勝算はあるのかよ?」「多数派工作は、ある程度目処が立ってる!際どい勝負にはなるが、押し切る事は出来るだろう。益田と小池が離反すれば、原田派は四分五裂になる。後は、楔を打ち込むタイミングだな!“反省会”でハッキリするだろうが、長官が既に撹乱工作をやってるから、原田派の形勢はかなり不利になってる。逆転の芽は、事前に摘みとられると見ていいだろう」僕はアールグレイを飲みながら返した。「ほぇー!そこまで手を打ってるのかよ!相変わらず抜け目はねぇな!」竹ちゃんが驚いて椅子から転げ落ちる。「何しろ、時間は限られてる。手の空いてる時にやらないと自身にも跳ね返るからね。これで少しは、自分の事も落ち着いて考えられる!」「Yは、進路をどうするのよ?」道子が代表して突っ込んで来る。「五分五分だが、専門学校か?就職か?で揺れてるとこ。精密機器メーカーからのオファーは来てるんだ!それに乗るか?2年か3年専門知識を学ぶか?どうするかねー?」僕が他人事の様に言うと「どっちなのよ?ハッキリしなさいよ!」と道子に噛み付かれる。「どちらかと言えば、校長先生の推薦もあるから就職した方が自分としても、先々の展開は楽になる。いずれにせよ、社会人にはならなきゃいけない訳だろう?早いに越した事は無いから“船”に乗るのが筋だろうな。面接だけで済むのも有利だし、悪くは無いと思うがね!」「Yの夢は精密機器の関係の仕事でしょ?ウダウダ言ってないで、“出る船”に乗りなさいよ!目の前のチャンスをモノにしなくてどうする訳?!」道子が直も噛み付いて来る。その時だった、生物準備室のドアが荒々しく開けられて長崎が転がり込んで来たのは!「Y!大変だ!原田が辞表を出して来た!」左手には白い封筒を持っている。「何!本当か?!」「このタイミングで辞表?ありえねぇだろうが!ソイツは本物か?」僕と竹ちゃんが色をなして、封筒を長崎からひったくる。中身を改めると筆跡は間違い無く原田のモノだった!「どう言う事だ?アイツ何を考えてやがる?」「あり得ない事だが、筆跡は間違い無く原田の真筆だ。何故、このタイミングで退位する必要性がある?」僕は呆然と言った。「それはだな、池野と市野沢の陰険禿2匹の陰謀が絡んでるんだ!Y,俺が説明してやる!」佐久先生が入って来た。「陰険禿2匹は、何を企んで居ると言うんです?」僕が聞くと「“クーデター”だよ!奴らは、尻に火が着いてる!原因は郷原先生の存在とも、密接に関係してるんだ!今、職員室のパワーバランスは危機的状況にあるんだ!」佐久先生の顔色が悪い!「ともかく、説明して下さい!これは我々も無縁とは言えない事らしいですね?」「ああ、お前達も無縁とは言えない。奴らは”暫定政権“の樹立を画策してる!まずは、落ち着いて話を聞け!」佐久先生は、僕達を座らせると、静かに話始めた。

「“向陽祭”の“反省会”は、今週の金曜日に予定されているが、その前に陰険禿2匹が原田にある“取り引き”を持ち掛けたのがそもそもの始まりだ。“皇太子を即位させたければ総辞職をしろ”とな!奴らは、生徒会顧問の椅子を是が非でも手にしなきゃならないんだ!それも、郷原先生への対抗心から来るレベルの低い争いなのさ!知っての通り、郷原一族は塩川一族が壊滅した後の県教委の最大派閥。彼の親父さんは、県教委の“大物”に成り上がった。来年度には、教科主任は確実だろうよ。それが面白く無いのが、池野と市野沢なんだ。何せ10歳以上年下に出世されて抜かれるんだ!奴らにして見れば屈辱以外の何者でも無い。そこで奴らは皇太子を“人質”に取って原田に圧力をかけた。“禅譲に持ち込みたくば、言う事を聞け”とな!そうしなければ、“反省会で力を行使して追放する”とも脅した。Yには前に言ったが、今、教職員の間では原田に対する風当たりは相当に強い!解任される前に自ら引いた方が得策だと、原田は判断して辞表を出したんだよ!ただ、アイツが本気で退くとは思えんがな!」佐久先生は苦虫を噛み潰したように言った。「確かに、妙だな?あの原田がアッサリと白旗を挙げる理由としては、事が小さ過ぎる!得られる見返りが余りにも少ないのに、何故こんなヨタ話に乗ったんだろう?これは何か裏があるな!長崎、原田から預かったのは辞表だけか?」僕が問い質すと「いや、長官と参謀長宛に封密命令書を預かってる!長官には渡してあるが、参謀長宛のヤツはこれだ!」と言うと別の封書を差し出した。僕は受け取ると早速中身を改める。「やはり“Bスイッチ”か!未だに謹慎中のヤツにすれば、選択肢は限られてる。ヨタ話に乗った振りをして、逆転を狙ってる!それで、長官は何をやってるんだ?」「非公開の生徒総会を開く準備に走り回ってる。伊東と千秋を中心に閣僚達を集めて密かに話し合ってるが、それはどう言う事なんだ?」長崎は小首を傾げる。「長崎、いいか?良く聞け!これより監査委員会を“復活”させる!まずは、委員長権限を行使して“特別監査官”3名を指名しろ!長官と竹ちゃんと僕宛に辞令を交付するんだ!それから、監査官6名を各クラスから選出して、委員会を至急立ち上げろ!今回の原田の“辞表”について、正当な理由に基づくものか?否か?について“捜査”を始めろ!手順は監査委員会規定に沿って進めればいい。“極秘ファイル”を渡しただろう?今こそ、その封印を破って46時間以内に本件が正当か?姑息な陰謀か?結論づけをしろ!」とやおら命令を下した。「だけどよぉ、監査委員会にそんな権限は無いぜ!任期中に2回の業務監査と選挙管理委員会の監督だけだろう?生徒会規則には、捜査権云々は1行も書かれてねぇぜ!」竹ちゃんが生徒手帳をめくって言う。「そうだ。監査委員会は捜査権を失ってる。有名無実の組織が勝手に動き回る事など出来んぞ!」と佐久先生も同調した。「竹ちゃん、佐久先生、生徒手帳の一番最後のページにある“補足事項”を読んでくれないか?監査委員会は有名無実じゃない!“休眠状態”にしてあるだけさ!」と僕が言うと2人は慌ててページをめくる。「何々、“監査委員会に関わる諸規則は、非改定とし、必要とされる事態が生ずるまでの間は休眠状態とする。なお、当委員会の機能を復するには、会長権限もしくは、会長が指名した者が命を出す事により、旧来の権限を復することが出来る”ってこれか?!」佐久先生が素っ頓狂な声で言う。「ああ、それですよ。当初、監査委員会は、原田が“取り潰す”予定だった。原田にしてみれば“目障り”な組織だからな。警察+検察+裁判所である監査委員会は、原田の“専制独裁体制”を脅かしかねない強権を持っているから、ヤツは根こそぎ消滅させるつもりでいたんだが、僕と長官が1週間かけて原田を説得して残したのさ。引き換え条件として“休眠状態”にするってことと“生徒会規則から省く”事で妥協させたのさ!だから、監査委員会の諸規定は1期生が定めた規則から、何も変わっていないんだ。だから、“Bスイッチ”を投入してやれば、全ての機能が蘇るし、権限も復活するのさ!原田が寄越した封密命令書には、僕と長官に“Bスイッチを投入してくれ”との依頼が書かれていた!“Bスイッチ”とは、“休眠状態を解いて機能と権限を開放しろ”と言う意味がある。原田は、“退位”するとは言ってるが、裏では陰険禿2匹を駆逐するべく“逆転”を目指しているんだ!逆風が吹いている現状では、表立っては動きずらいが、監査委員会を動かせば“うっちゃり”を打てると踏んだ様だな。長官は、既に手を打ってる!こちらも続かなくては時間が無い!長崎、大車輪でかかってくれ!捜査・弁護・起訴・判決までお前さんの力量が事を左右するんだ!陰険禿2匹の息の根を止めなくてはならん!直ぐにかかれ!」「了解だ!」長崎は勇んで生物準備室を飛び出した。「そうか、“休眠状態”にしてあったとはな。Y、山岡と2人で謀ったな!流石に抜け目がないな!俺は何をすればいい?」佐久先生が聞いて来る。「陰険禿2匹の動きから、眼を放さないで下さい。丸山先生を介して相互に連絡を取りましょう!それと、校長先生にお願いして“非公開生徒総会”の開催許可を取り付けて欲しいのです!監査委員会の職権でも出来ますが、陰険禿2匹を排除するには許可は必要ですから」と僕が言うと「Y、“金字牌”はまだ持ってるだろう?あれには今も有効だ!陰険禿2匹を排除するのに使っても構わんぞ!だが、用心に越したことはないから“親父”には耳打ちはして置く!後は職員室の動揺を鎮める事に専念させてもらうぞ!これ以上、陰険禿2匹の好きにさせる訳にはいかんからな!」と言うと先生は立ち上がった。「Y、後の始末は任せる!陰険禿2匹を好きなように料理しても誰も文句は言わんだろう。思う通りにやるがいい!バックアップはしてやるし、“親父”も味方に付くだろう。この一件は、お前達でキチント処理しろ!2期生の底力に期待する!」と言って不敵な笑みを浮かべた。「分かりました。存分にやらせてもらいますよ」僕も不敵な笑みを浮かべて返した。佐久先生が出て行くと「俺達は、何から手を付けるんだ?」竹ちゃんが聞いて来る。「余り派手な真似は出来ないが、陰険禿2匹達の動向を掴む事と4期生が何処まで乗ってるか?を突き止めなきゃならない。向こうは、原田が“辞表”出した事で油断してるだろうから、この隙を利用して切り崩しを始めないとマズイ!だが、僕等では面が割れてるから、表立って動くのは逆効果になりかねない。さて、どうするか?」僕は思案に沈んだ。「どっかで原田とも接触はするんだよな?」「ああ、ヤツの真意を聞かなきならない」「ならば、手は1つだろう?坂野、宮崎、飯田、今野、小松、吉川の出番だ!アイツらに招集をかければどうだ?」竹ちゃんが提案して来る。「うーん、やはりそれしか無いか!さち、道子、6人を集めてくれ!中島ちゃんと雪絵は、石川と本橋を呼び出してくれ!どうやら8人の手を借りないと間に合わなくなる恐れがある!」僕は決断を下した。「上田達はどうするのよ?」さちが言う。「彼女達も目立ち過ぎるから、まだ知らせないで置こう。今は、水面下で動ける連中で切り抜けるしか無い!放課後に保健室へ集合する様に言って置いてくれ!」「保健室?何で敵中に本陣を置くんだよ?」竹ちゃんが首を捻る。「一番安全だからさ!丸山先生は、今学期限りで“退任”されるだろう?どっちにも属さない“中立”の立場なら、手を貸してくれるはず。隠れ蓑に使うなら絶好の場になるだろう?」「よっしゃー!そうと決まれば早速、手配開始だ!みんな、頼んだぜ!」竹ちゃんが言うと、その場に居た全員が頷いた。こうして、時間との戦いが開始されたのだった。

午後の授業が始まる前、僕と竹ちゃんは保健室へ駆け込んで、丸山先生に事情を説明してから場所の確保と“連絡員”としての任務を依頼した。先生はあっさりと承諾しただけで無く「どうせあなた達の事だから“二重スパイ”の役も引き受けるわ!あたしも陰険禿2匹には、嫌な思いをさせられた因縁があるのよ!最後の置き土産として協力してあげるわ!」と進んで協力を申し出てくれた。だが、「Y君、どこかで時間を作って置いてよ。最後の“挨拶”をしなきゃいけないし。後任の先生について説明しなきゃならないからさ!」と妖艶な笑みを浮かべて言うのも忘れなかった。「参謀長、ありゃあどう言う意味だ?」教室へ戻る道すがら竹ちゃんが聞く。「さあ、何を企んでるのか?想像も付かないが、まずは滑り出しとしてはOKだ。これで、少しはリード出来る!」と言って誤魔化す。とても“丸山恵美子との関係”を話す訳には行かなかった。僕等が教室へ滑り込むと、間髪を入れず長崎が“任命書”を持って来る。「Y、竹内、これで正当な“捜査権”を行使出来るし、起訴にも持ち込める!済まんが頼んだぜ!」と言うので「無論、無駄にはしないが、長官は何処だ?向こうと打ち合わせをしないと、それぞれに漠然と進むことになるが・・・」と言うと長崎は「長官達は授業をサボって打ち合わせに没頭してるよ。“非常時の手順に従って動いてくれ”って言ってたぜ!」と返してくる。「ふむ、了解だ!それだけ切羽詰まってるって事か?」「原田政権を“延命”させなきゃなねぇ!手段を選んでる暇はねぇって事か?」「どうやら、そうらしいな!僕等も手段を選ばずに、やれる事を積み上げるしかないな!まずは、陰険禿2匹を“行方不明”にするか!監禁してから、化けの皮を剥がすしか無さそうだ!」「どうやって吊り上げる?」「それを考えるのが、放課後の最初の議題さ。さて、どうやって“引っ掛ける”かな?」僕は思慮に沈んだ。授業は半ば聞いて居なかった。ある程度の目算が立ったのは、午後の授業が終わった頃だった。だが、1歩間違えばひっくり返る“危険な橋”を渡る事になる。果たして何人が乗ってくれるか?不安が付きまとった。放課後、帰り支度を済ませると、僕等は保健室へ向かった。既に指名した8人は集まってくれていた。「Y、何か策はあるのか?」すかさず坂野が誰何して来る。「その前に、確認しなきゃならない事がある。これからやる事は少なからず危険を伴う。みんなの立場も考えると、関わらない事も選ぶ権利を認めなくてはならない。立場上、ここで引きたい者は遠慮なく言ってくれ!」僕は集ってくれた仲間達を見回した。「引くヤツなど居るものか!」「ああ、戦う意思が無けりゃここへは来ない!」「参謀長、野暮は言うな!」今野、吉川、竹ちゃんが声を上げた。みんなも頷いた。「じゃあ、盛大に“引っ掛ける”ぞ!石川、本橋、4期生の動向はどうなっている?」僕はホッとすると直ぐに報告指示を出した。「それが、全く“平穏無事”なんですよ」「“クーデター”のクの字も感じられません。山本と脇坂が洗ってますが、まだ何も知らされては居ない様ですよ」2人は意外だと言わんばかりに言った。「だとすると、陰険禿2匹の“単独行動”の段階か。そうなると厄介になるな。何も知らされずに“非公開生徒総会”に臨む事になる。事情を知らなければ混乱してしまうし、長官達のシナリオに狂いが生じかねない。どうやら、こちらから噂をばら撒く必要があるな!それも、“尾ひれ”を着けてやらないとマズイ!坂野、原田はどうしてる?」「奴は、大人しく“謹慎生活”を送ってるよ。昼休みはここで弁当を食って、同級生との接触も最小限にしてる。時折、女が状況をメモで知らせてるぐらいだ。完璧に隠居状態だよ!」坂野は原田の近況を語った。「そうか、原田は隠遁、4期生は何も知らないか。ならば、何が起きても不思議ではないな!まずは、市野沢から“恐怖のどん底”へ落ちてもらうか!ヤツの社宅の電気、ガス、水道を遮断してくれる!ライフラインを失えば、必然的に池野を頼る事になる。そして、池野の社宅にも同じ事を仕掛ける!まずは、身なりを汚してやるんだ!」僕は決然と言った。「そんな事が出来るのか?」今野が聞いて来る。「出来るさ!“塩川の乱”の時に調べたんだが、社宅と言ってもアパートと造りは変わらない。個室毎に電気、ガス、水道を止めるのは造作も無く出来るんだよ!この図面を見てくれ!」僕は社宅のライフライン配置図を机に広げた。「コイツをどうやって手にしたのか?は聞かないでくれ。まず、電気だが個室毎のブレーカーは、西側の壁にあるし、ガスのメーターも同じ場所にある。水道のメーターは少し離れたここにある。コイツを遮断すれば、部屋での生活を不自由するのは容易だ!これからこの3つを使えなくしてるんだ!」「ガスはどうやって止める?ボンベの元栓を閉めたら全戸が使えなくなるぜ!」宮崎が懸念を示す。「メーターに振動を加えればいい!地震が来たと思わせれば、供給は止められる。プラスチックハンマーで叩けばいいんだ!」「その手があったか!電気と水道はブレーカーと元栓を落とせばいいしな!」小松が言う。「だが、社宅の管理は校用技師の仕事だ。通報されたらアウトにならないか?」吉川が言う。「そっちは佐久先生に手を回してもらうさ。技師が見ても“分からない”と言わせれば、成す術無しさ!」「そして、池野も同じ目に合う。それで奴らが悲鳴を上げるかね?」坂野が聞く。「2匹が入居してる社宅は、他は全て空いてるんだ。ライフラインを遮断すれば、頼りになるのは更に下の社宅を目指すしか無いんだ。ただ、下の社宅を利用してるのは、丸山先生と小平先生と明美先生の女性陣と郷原先生だけなんだよ!丸山先生はもう直ぐ退去されるし、小平・明美両先生は、陰険禿2匹を心底嫌ってる!郷原は宿敵だし、手助けするとは到底思えないね!衣食住を不自由にすれば、奴らにとっては致命的だよ!」「じゃあ、早速かかるか?」竹ちゃんが前のめりになる。「ああ、早いに越したことはない!坂野、宮崎、今野、飯田、小松、吉川、帰りに道に“仕掛け”を施してくれ。道具はプラスチックハンマーとこの図面だ。赤く丸を付けた場所を狙ってくれ!」「おっしゃー!」「一泡吹かせてやるか!」「任せな!」6人が不敵に笑う。「次は、石川と本橋だ。お前達は山本と脇坂とも協力して、4期生達に噂をばら撒け!“クーデター計画があって、乗り遅れると単位に関わる”と言ってかき回せ!特に男子をターゲットに据えてあらぬ誤解を植え付けろ!」「何故、男子なんですか?」石川が聞いて来る。「単純だからさ。短期間で伝染させるなら、男子の口の方が軽いから、効率がいいんだよ!男子が浮き足立てば、女子もウカウカしてられなくなる!浮き足立ったところで“非公開生徒総会”に臨ませなくてはならない。今のままでは、訳が分からないまま審議に加わる事になる。少しは現実を見せて置かねばならんだろう?」「震源は何処にします?」本橋が言う。「陰険禿2匹さ!小細工はしなくていい。市野沢と池野が“そう言ってる”とストレートに言えばいい!」「しかし、先の“向陽祭”で参謀長の下で働いた者達は、揺らぎませんよ!」石川が言う。「あの者達には、裏で含ませておけ!“実はこうなんだよ”って囁いてやればいい。物の見方が分かっている連中なら、多くは言わなくとも分かるはずだ!」「では、こちらも早速“流言”を流します!」「明日中には4期生全体に“伝染”させられるでしょう!」石川と本橋が悪戯っぽく笑う。「で、あたし達はどうするのよ?」道子が不満げに言う。「道子たちには、署名活動を始めてもらう。原田に“退位”する明確な理由が無い以上、救済を求めるのは当然だ。早速、2期生の各クラスに手を回してくれ!これは、我々の存在意義を問われる戦いでもある。まだ、原田には“在位”しててもらわなくては都合が悪い。皇太子を担いで選挙運動などされると困るからな!」「分かりました。5人で分担してかかるわ!不名誉な総辞職なんかにさせはしない!」道子も力強く言い放った。「ともかく、時間が無い!金曜日までに結果を残さなくては万事休すになりかねない!それぞれの立場で全力を尽くしてくれ!」「了解!」こうして謀議は終わった。「宮崎、明日の昼に原田に“事情聴取をする”と伝えてくれ。形式的なヤツだが“付き合え”と言って置いてくれ」「ああ、ヤツも“それなり”に答える様に言って置くよ。じゃあ、俺達は“細工”を施して来るぜ!」「任せたよ!」僕等は三々五々に保健室を後にした。

その夜、陰険禿2匹が社宅へ戻ると、2匹は電気、ガス、水道が全て停められている事に面食らい、酷く慌てた。「どう言う事だ?」2匹は互いの顔を見合わせると、困惑して考え込んだ。実は、坂野達は「面倒だから両方共、停めちまえ!」と言って2部屋を同時にライフライン停止に追い込んでしまったのだ!夜遅くに帰宅した禿共にして見れば、五里霧中もいいところであった。教鞭は取れても、ライフラインの復旧作業など想定外もいいところだったのだ。「風呂も冷房も無しか。汗臭いのはマズイな!」「それは、銭湯に行けば何とかなるが、育毛剤の匂いは朝から消すのは無理だろう?お互いの立場もあるし、女生徒にバレるのは恥ずかしい!」「食事もダメだ。電子レンジが使えないし、お湯もぬるくなってる。カップ麺すら食えないとは最悪だ!」「どうする?下に援助を求めるか?」「郷原にバレたら恥の上塗りになる!それは、死んでも避けなきゃならん!クソ!どうなってるんだ?電話すら出来んぞ!」2匹は暗闇の中で、文字通り行き詰まってしまった。結局は、市野沢が車を出して、コンビニで食料品を買い、銭湯へ行って汗臭さを消して育毛剤を塗りまくり、車中泊する手に打って出るしか無かった。「何でこんな事になるんだよ!池野!答えろ!」やけ酒をガブ飲みした市野沢は戸塚宏に変貌してクダを巻き始めた。「それが分かれば、手を打ってる!戸塚!殴り込みをかけるぞ!郷原の部屋をジャックしよう!」池野も暴走し酒を煽った。車内には、異様な臭気が充満していたが、2匹は気付いていなかった。親父臭と酒臭さにタバコ臭と育毛剤が混じり合い、何とも言い表せない悪臭を放っていた!やがて、2匹は力尽きて爆睡し始めたが、車から流れ出た異様な臭気は、野良犬や野良猫を大いに閉口させた。明け方、先に意識を取り戻した池野が異変に気付いて市野沢を揺り起こした。「大変だ!車内が臭い!窓を開けろ!」「何の臭いだ?服にも染み付いてる!着替えるだけじゃダメだ!もう一度銭湯へ行くぞ!着替を取って来る!」市野沢は部屋へ駆け込んだが、思わずホゾを噛んだ。「しまった!乾燥機が使えないんだ!それ以前に洗濯機すら回せない!ジャージーしか無いとは!」同じ事は池野にも起きていた。「着替ようにも、服が無いとは。なんたる不覚!」だが、時間は刻々と過ぎて行く。「とにかく、洗濯が先だ!銭湯へ行くぞ!」市野沢が池野を急かした。悪臭を漂わせながら車は急発進して行った。後には、魚が腐った様な異様な臭気が漂っていた。

その日の朝、大根坂の中腹辺り一帯は異臭に包まれていた。陰険禿2匹の社宅は、ちょうどその付近にあったからだ。「何だ?この異臭は?」僕は思わず鼻を摘んだ。「Y―、おはよー!」鼻声で雪絵が背後から呼んで来る。「何よ?この異臭は?」さちも道子も中島ちゃんも竹ちゃんも顔をしかめて鼻を摘んでいる。「とにかく、避難しようぜ!臭くてたまらねぇ!」竹ちゃんが言うまでも無く、僕等は先を急いだ。教室へなだれ込むと、ようやく鼻から手を離した。「何なんだよ?あの臭いは?」「坂野達が何かやったな!そうでなくては、説明が付かない!まさか、池野のところも停めたんじゃないだろうな?」僕がそう言うと「当たり!日干しにしてやったぜ!」と坂野がドヤ顔で言って来た。「やっぱりか!しかし、あの異臭は何だ?坂野、“クサヤ”でも撒き散らしたんじゃないだろうな?」「そんな、高級な事はするものか!ライフラインを遮断しただけさ。ただ、アイツらの酒癖の悪さとタバコ臭いのと、育毛剤の使い方を考えれば、この手の異臭は出るだろう?」と彼は意に介す風が無い。「まあ、そう考えれば“当たらず共、遠からず”だな。ともかく、悪臭地獄にはめる事には成功したんだ。目的は達したか?もう直ぐ、ここもまた臭くなるぞ!陰険禿2匹は、まだ出勤途中だろうな。坂野、今の内に警告を流してくれ!校内に悪臭が流れるのは、時間の問題だ!」「了解だ!ところ構わず“臭くなる”って言いふらしてやる!」坂野は、勇んて飛び出した。「参謀長、これも計算の内かよ?」竹ちゃんが言う。「半分だけだが、ここまで臭いのは予定外だよ。しかし、これで陰険禿2匹を摘み出す手間は省けた。校長先生も無理に我慢はしないだろうから、自然に追放に追い込める!原田と人目をはばからずに面と向かって話せるな!どうして、陰険禿2匹の罠に落ちたか?しかと確かめられる!」「それをやってから、反撃開始だな!原田の口をどうやってこじ開ける?」「楽になりたいのは、原田自身さ!今回は、フランクに話しをして来るだろう!」微かに悪臭が漂って来た。陰険禿2匹が現れる前兆だ。「さて、今日は忙しくなるぞ!」僕等は慌てて窓を閉めた。「何だ?!この悪臭は?!」佐久先生が鼻を摘んで歩き回る。徐々に臭さは強くなって来る。「さて、鼻にティシュを詰めようか?やらないよりは、マシだからな!」僕はクスリと笑った。ポケットティシュは瞬く間に消え失せた。

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