limited express NANKI-1号の独り言

折々の話題や国内外の出来事・自身の過去について、語り綴ります。
たまに、写真も掲載中。本日、天気晴朗ナレドモ波高シ

life 人生雑記帳 - 75

2019年12月13日 12時45分56秒 | 日記
8月がスタートした日、田納取締役の光学機器事業本部長就任も正式にオープンになり、いよいよ“開戦”の日へ向けてのカウントダウンが始まった。O工場の浜総務部長が帰った翌日、大きなダンボール箱が僕宛に届いた。「なんじゃこりゃ!めちゃくちゃ重たいぜ!」鎌倉が思わず悲鳴を上げた代物は、用賀事業所からの“贈り物”だった。「鎌倉、美登里を呼んでくれ!至急、検討を始めたい!」「そりゃいいが、中身は何なんだよ?」「新機種230AFシリーズの図面さ!用賀の城田と長谷川に依頼して、“直近の図面一式”を送らせたのさ!サンプルもあれば“寄越せ”と言ってあるから、重たい訳!」「用賀のツテを頼った訳は?」「O工場の設計に言えば“筒抜け”になっちまうだろう?城田と長谷川なら、山ほど“貸し”があるから、“裏取り”にも協力してくれると踏んだのさ。奴ら“これでチャラですからね!”何て抜かしてたが、“気が付いた点は教えてください!”とも言ってたから、指摘する事があれば、双方に取って“利”があるって事!」箱を開けながら言うと「転んでも“タダ”では起きないか?まあ、いい。美登里を呼んで来るさ」鎌倉はインターフォンで美登里を呼んだ。基本的には、男女の寮に異性は立ち入り禁止だが、男子寮の談話室だけは、例外で“寮生会”の会場もここだった。5分もしない内に、美登里は飛んできた。「さて、解読に挑むぞ!美登里、外装パーツとフレキ及び基板の図面を当たってくれ!僕は、ボディとその他の機種の図面を当たって見る!」「了解です!」2人で図面の解読に挑み始める。鎌倉は、専門外なのでこの手の作業には向かないから、サンプルの開梱に当たる。「Y、これがボディらしいな!」「どれどれ、ふーむ、これでまず1つ謎が解けた!」僕はサンプルを手にして子細に見入った。「何が分かりました?」美登里も続けて手にする。「樹脂成型の型に、レール板をセットして樹脂と一体化する手口だよ。これなら、1発でボディが出来上がる!工数が一気に減らせるな!」「でも、ネジ穴はどうするんだよ?」鎌倉が核心を突いた。「“タップビス”を使うつもりだろう。ネジを使うと思われる場所の穴がやたらと深いのが特徴さ。屑が詰まらない様に考えてある!ミラーボックスとの合体面は、全てレール板に面してるし、これなら強度を保ったまま、軽量化と組立工数の削減を両立出来る寸法だ!」「でも、レール面はどのタイミングで引くんだろう?」美登里も核心を突いた。「どうやら、最終調整の直前に引く様だぜ!パトロネ室の穴を見ろ!DX接点が入る穴以外に縦に5つ小穴が開いてるだろう?レール面を引いた後、そこからメモリーにデーターを書き込んで調整をするつもりだろうよ。これで、半固定抵抗は不要になるから、作業も楽になる!」「へー、これで“個体差”も含めて微調整が正確になりますね!」「今回は、AFだからな。フランジバックが多少ばらついても、個体毎のデーターさえ正確に書き込めば、AFセンサーがばらつきを補正しちまう!良くここまで詰めたもんだ!」「でも、この270AFってどう言うコンセプトなんだろう?カバーがやたらと大きく作ってありますよ?」「それは、長谷川に聞いた事がある!“単3電池4本ないし、6本で動かすとしたら、下駄を履かせるしかありませんから”ってな。230AFシリーズの基本電池は“2CR5”って言うリチウム電池。グリップ部分に装着する事になってるが、下位機種の220AFでは、“バッテリーボックス”って言う別部品で単4電池4本でも動かせる様にしてある!だが、単4電池も手に入るか分からない、ヨーロッパや中南米には、単3電池が不可欠だ。だから、全体を大きくしてバランスを取って、底部に単3電池を押し込むスペースを作った。実質は4機種を同時進行で開発した事になるんだよ!」「230・210が国内向け、220・270は海外向けか?」鎌倉が聞く。「上カバーの印刷図を見れば分かるだろう?YAブランドは海外。KYブランドは国内。270は実質欧州向け専用機だろうな。そして、いずれは“中東向け”の話も出るんだろうよ」「あの、趣味の悪い“金ピカ仕様”ですか?」美登里が苦虫を噛み潰したような顔で言う。「しょうがないだろう?“金ピカ仕様”にしないと、アラブでは見向きもされないんだから!YKGが泣き付いて来るのは、時間の問題さ!」「成金趣味は置いといてだな、これである程度の進み具合は割れたんだろう?」鎌倉が言う。「基本仕様と骨格が完成したのは、分かった。サンプルの種類から見ても、型も制作し終えたと見ていいだろう。問題は、ボディの生産方法だな!試作段階なら半自動で作れるが、量産となると、どうするつもりなのか?“ロボットを考えるか?人手でやるか?結論は出てません”って、城田も書いてる。サンプル品を見る限り、自動化は厳しいだろうな。レール板のばらつきもあるし、そもそも、型にはめ込む段階でキツイはすだ!」「どうして分かるんです?」美登里が首を傾げる。「精度の問題さ!画面サイズがばらついたら話にならん!ピッタリに作らないとダメだろうよ!となると、冷えた板を温めるかどうかしないと、ブラックアルマイト処理が剥げる恐れがある!それに、樹脂が完全に冷えて固まるまで、どうしても24時間はかかる。試行錯誤の末に辿り着いた結論だ。今からやり直しって話は出来ないだろうよ!」「確かに、樹脂部品は縮みますからね。それを計算しての精度確保だとしたら、今からの工程変更は無理ですね!」美登里が飲み込んだ様だ。「フレキと基板はどうだ?」「CPUが3つ、それに付随するROMもかなりあります。測光とAFは、独立したCPUで動かして、残りが“統括CPU”って感じですかね。プログラムの量はかなり膨大になると思いますよ!液晶画面とボタン類の基板の裏も、余さずに取り回さないと収まり切りませんね。フラッシュを独立させたのは、コンデンサーを置く場所を節約したんじゃないかな?」「あり得る話だな。しかも、電源を本体から取る意味も、チャージ時間を短縮させる腹だろう。概ね8割方は、終わってるよ!残るは、量産に向けての技術開発とプログラムの完成度とレンズだな!50/1.4ないしは、50/1.8が未完成って事が不思議だよ!他のズームレンズは終わってるのにな!」「と言う事は、最終段階に入ったと見ていいのか?」鎌倉が聞く。「最終量産試作の手前で止まってるってとこだろうな。メドが立てば一気に進行し始めるだろう。それにしても、まあ、良くやってるよ!200名欠けてるのにな!」「O工場としても焦ってるって事か?欠員は1人でも補充したい!だから、総務部長が行脚に来たか?」「鎌倉、今直ぐにも人手は欲しいんだよ!だが、“半年”の縛りで困ってるし、国分側が強硬姿勢を崩さない!ジレンマに悩んでるってのが正解だろうよ!」「それに、サブ・アッセンブリーを始める時期が迫ってます!ユニット毎の進捗は不明ですが、蓋物なんかは、そろそろ始めてるかも!」「試作はやってるだろうよ。だが、数は多くないだろう。型に焼き入れをするには、1週間前後は必要だ。まだ、そこまで進んでは居ないだろうよ。“合わせ”をクリアするのと、肉抜き箇所の洗い出しはまだ残ってる可能性がある!」「どちらにせよ、最終段階には来てますね。今月でクリアすれば、年内発売で動くでしょう!」「“クリア”すればな。“白ROM”を使えば、不可能じゃないが、AFだけに下手な事はしないだろう。生産する機種の数も多い。営業の販売戦略もあるし、海外展開もある。10月にスタートするのが順当だろう。焦っても結果は付いて来ないからな!」「やはり、第2次隊の“帰還”を待つ方向ですね!Y先輩、厳しい戦いになりますよ!」「ああ、楽には勝てないだろうな。だが、国分も譲る気配は無い!血みどろの戦いになるぞ!」美登里の問いに、改めて“いばらの道”を進まねばならない運命を見た気がした。

僕等がO工場の“進捗状況”を把握していた頃、“安さん”も着々と手を繰り出そうとしていた。品証の井端責任者には、事業本部の“品質会議”での“釘打ち”を約させてはいたが、「それだけでは足りん!“事業本部会議”とブロック会議で、更に“圧力”をかける!本部長が“必ず実行する”と明言するまでは、決して手を緩めるな!」と言い続けていた。「しかし、ウチの本部長は“副社長”で、しかも“次期社長”の最有力候補。“平取”の田納さんとは“格”が違いますよ!如何に“会長の秘蔵っ子”とは言え、“力の差・発言力”は雲泥の差があります!これ以上、何をやるんです?」と井端さんは勝った気で言った。「井端よ、その慢心が隙を生み、田納さんに付け込まれる元となるのだ!攻めて攻めて攻め切る!グウの根も出なくなるまで、突き詰めなくては“信玄”は勝ち取れん!油断大敵!剣を手に攻め込んで行け!」と激を飛ばし続けていた。「徳永、下はどうなっとる?」「既に“信玄ありき”での体制を取り始めています。前も後ろも、“信玄”の動きに呼応して、生産体制を可変化させる様に、下山田も橋元も逐一調べ上げてます!徳田と田尾は、先行計上に余念がありませんし、検査と返しは“信玄”の采配で進んでます!」「うむ、いよいよ、“信玄”に全行程の采配を任せる時が来たな!次月、9月は格好の舞台になるだろう。ここで、“大戦果”を挙げれば、もう誰も疑う者は居なくなる!そのためにも、日々の進捗管理から目を離すな!勝負は、盆明けになる!“信玄”自らも狙いに来るだろうが、戦える環境が無くては全てが水泡に帰す!徳永、川内を煽れ!徹底して前倒しを急がせろ!」「はい、明日にも直接出向いて、依頼をかけます!」「うむ!次は、O工場へ“矢と鉄砲”を撃ち込まなくてはならんな!“卑怯な真似をした”責任は重い!有村!至急、田納さんへこの書簡を送り付けろ!“2度と下手な真似はしません!”と言わせなくては、枕を高くして眠る事すら出来ん!急げ!」「はっ!」“安さん”は遂に“開戦”に踏み切った。初手は、田納さんへの楔だった。この“矢と鉄砲”を皮切りに、国分の各事業部も一斉に射撃に踏み切った。血で血を洗う争いは、国分側の攻撃から始まったのだ。

「マズイな!ここまで、国分側が強硬に出て来るとは、思わんかった。O工場がしでかした“不始末”を突かれると何も言えん!」“安さん”からの書簡を見た田納本部長は、苦り切った表情で言った。田納さんのセットで入れ替わった、副本部長の表情も強張っていた。「関係各所への挨拶回りは、後回しや!O工場へ一刻も早く行かねばならん!これ以上の“一斉射撃”を喰らう前に、国分側と“和解”へ持ち込まなあかん!」田納さんの焦燥感は強くなるばかりだった。既に、各事業本部長からは、“一部の者は帰せない!”との通告が届いていた。そこへ、現場レベルからも“帰すに及ばず!”の通知が舞い込んだのだ。「しかし、これは異様ですね。上からも下からも攻撃を喰らうのは、想定外です!」と副本部長も言う。「甘いからや!期限より前に“都合があるから帰してくれ!”などと言うからや!これで、やりにくくなってしもた。これ以上放置しとったら、もっと悪くなるばかりや!釘を、五寸釘をブスブスと打ちに行くで!明日は無理やから、明後日には乗り込む!O工場に連絡を入れとけ!全員に説教をたれんと、ほんまに“戦争”になるで!まだ、“局地戦”の内に治めさせんと、流血の惨事になってしまう!電話とメールのダブル攻撃で、“ワシが行くまで動くな!”と言っとけ!」「はい、直ちに!」副本部長は連絡に動いた。「アホが!安田や岩留の恐ろしさを知らんから、こうなるんや!まずは、穏便に“和解”へ持ち込んでからや!」田納さんは、国分からの砲撃に対して応ずる事を禁じた。“どうすれば帰してくれるか?”新本部長は、静かに計算を始めた。

8月は“盆休み”があり、“中抜け”してしまう月である。早いところは、中旬に向けて“減産体制”を取り始める。特に“焼成炉”を抱えている事業部は、初旬から手を付けないと、止められなくなってしまうのだ。無論、止めない事業部もあるが、大抵はメンテナンスも兼ねて、止めるのが普通だ。前後合わせて2週間の準備期間が迫ると、勤務シフトも変わって来る。4直3交代を組んでいる職場は、順次“休暇”を入れ込み始めるし、生産調整で暇になるケースが出て来る。残業も減って、寮も賑やかさを取り戻すのだ。第1次隊の連中は、この機会に余計な荷物を送るか、持ち帰るべく荷造りに追われ始めた。4月に着任してから、久々に故郷に戻れるとあって、ワイワイと騒ぐ者も居た。そんな中、「Y、どうしても“帰らない”のか?」と田中さんが説得に来た。「“誘拐”されたらそれまでですからね!危険を冒してまで帰る理由がありますか?」とはねつけるが「向こうも反省してる!そんな卑怯な真似はせんから帰ろう!」と半ば強引にチケットを押し込んで来る。「旅費などいりません!こっちで自由気ままに過ごしますよ!ご心配なく!」とチケットを突き返す。「うーん、お前だけだぞ!強情なのは!いや、もう1人居たな。美登里も“帰らない”と言ってる!首に縄をかけても“連れ帰れ!”との命が来ているのに、どうすればいいんだ?」田中さんは呻いた。「それこそ、“誘拐する”口実じゃないですか!休暇をどこで過ごしても自由なはずです!僕は、ここで過ごします!休むんですから、別にいいじゃありませんか!」と言い返すと、「O工場の失態だな。“信用が得られない”を理由に返事は出して置くが、くれぐれも仕事をするなよ!休暇は休んでナンボなんだからな!」と田中さんは、取り敢えず引き下がった。美登里が帰らない理由が何なのか?僕は知らなかったが、ヤツもそれなりの覚悟があるのだろうと推察した。「さて、どうやって暇を潰すかな?」僕は南九州の道路地図と睨めっこを始めた。寮の車は既に差し押さえてある!これまでに、走破していない地点を洗い出して、ルートを探り出す。1日で1周が基本なので、5ルートは考えねばならない。後半の3日ないし4日は、恭子達が手を回してくれるはずだ。それまでをどう過ごすか?意外と難題なのに気付いてしまった。「まあ、何とかなるさ!」もう直ぐ鎌倉が上がって来る時間だ。アイツは「偵察も兼ねて見定めて来る!」と言っていた。O工場の近況は、帰った連中の証言から推定出来るだろう。「それにしても、最近、静か過ぎるな?O工場も国分も」僕は田納さんが、応戦せずに“和解”へ動いている事実を把握していなかった。国分側の“開戦”に対して、“静観しろ!”と田納さんが止めた事実を知らなければ、帰らない理由は無かっただろう。だが、そんな情報は皆無であり、聞こえても来なかったのだ。一時的な“情報喪失”に寄って、僕は“大手を振って帰る機会”を誤ってしまったのである。

さて、ここで時間を少し巻き戻して、7月末から8月2日までの事を時系列で整理して置こう。7月末の金曜日の夜は、恭子の指定日なので、2人で過ごしたのだが、明けて土曜日は、実里ちゃんとの1日が待っていた。“車内好き”の彼女とは、隠れる場所さえあれば逢瀬に及ぶハードな旅路ではあるが、久々に2人きりでのドライブに出かけた。「何処まで行きます?」彼女はウキウキとして聞いて来た。「ふむ、これまでの空白地帯は何処だろう?」僕は、改めて考えるとハタと考えに詰まった。大概の場所へは行き尽くしているのだ。新規ルートを開拓するなら、県外へ出るしか無かった。それも、北側の熊本方面か?宮崎北部ぐらいしか思い付かない!「ちょっとストップして!」路肩に車を停めてもらうと、地図を広げて2人して考える。「薩摩・大隅、大抵行き尽くしてるよな。季節柄、行くなら海だが、年中暖かいこっちだと、敢えて選ぶ意味が無い」「そうですね。空白地帯かー。何処だろう?」実里ちゃんも必死に考え出す。「あった!枕崎の坊津へ!」「南の果てですけど、ここは何か?」実里ちゃんが小首を傾げる。「平安の頃から、唐へ行く船はここから、大陸を目指した。今しか行く時は無いかも知れない!」「高速から指宿スカイライン経由、一般道ですね!了解です!飛ばしましょう!」実里ちゃんが車を出す。「高速に乗る前に食料と水を買わなきゃ!」「それなら、加治木ICの手前で済ませましょう!後は、飛ばしますよー!」“トッポ”は軽快に道を進んで行く。スーパーで食料と水分を買い込むと、車の後席に妙な包みを見つけた。「なんだこれ?」「制服です!先生と生徒の気分でどうです?」思わずブッ飛んだが、彼女の趣味なら受け入れるしかない。高速の乗り入れると、可能な限りスピードを上げた。先は長いのだ。警察に注意しつつ可能な限り先を急ぐ。「あたしの高校時代の制服、まだ着られるんですよ。いつもと違う雰囲気でするのも悪くないでしょう?」実里ちゃんが助手席で笑う。「セーラー服?」「はい!スカートは短めですよ!」彼女は、すっかり乗り気だった。「Y先輩、高校時代の制服は何でしたか?」「ブレザーにネクタイだよ。女子にはインナーにチョッキがあったな」「スカートは?」「ブレザーと揃いのタイトスカートさ」「オシャレですね!あたしは、中高共にセーラー服ですよ。多少はデザインは違いますけど。今日は、高校時代のモノを持って来ました!でも、ネクタイかー!憧れますね!色は?」「濃いワインレッド。裏にイニシャルが白い糸で刺繍がされてた。無くしても分かる様に配慮したんだろうな」「もしかしたら、当時の“彼女さん”と交換しませんでした?」「当たり!幸子と交換してた!」「あー、やっぱりか!タイピンとかは?」「一応はあったけど、2ヶ月で無くなったな。堀ちゃんに貸して、雪枝に渡って、中島ちゃんに行った後は何処だ?今でも謎だが、見事に行方不明さ!」「どうして、そんな事に?」「テスト前の“お守り代わり”さ。苦手な教科はバラバラだろう?僕の得意分野が苦手だって事もあって、奪い合いになってさ、“貸してくれ”で貸し出したら、戻って来なかった。でも、その後、5個は常時持ってたな?女子が“無いと困るよね?”って言って自分のヤツを着けに来るんだ!タイピンにも、イニシャルは彫ってあったから、バレバレだけどね」「そう言うの凄くやりたかった!でも、出来ませんでした!悔しいなー!じゃあ、クリスマスとかは、それこそ争奪戦ですよね?」車は指宿スカイラインへと入っていく。「ああ、セーターにマフラーに手袋とかは、早い者勝ちだし、傘とかペンとか“欲しい本1冊”なんてのもあったな。マフラーと手袋は、日替わりローテーションにしても、余る程もらったな。“お返し”も苦労したし!」「因みに、何を“お返し”にしました?」「アルバムさ。2学期中かけて、“ポートレート写真”を撮りまくって、5人分のアルバムを作ったよ。隠し撮りするのに、バレ無い様に“シレっと”やるのが、意外と苦労だったな」「何枚撮りました?」「全部で200枚だったかな?1人当たり約40枚。機材は、写真部からレンタルした。現像も写真部に手伝ってもらったよ。ただ、“これ綺麗だから写真部の作品展に出さないか?”って言われて、断るのに往生させられたよ」「先輩らしいですね。高校時代から素地はあったんですね。だから、“造り手”になった?」「写す側だと、限界はあるけど、“造り手”なら自分が手掛けた、何かしらのモノを纏った製品を世に出せるだろう?例え外から見えなくてもね!」「自分が手掛けた“証”を出せるなんて、夢がありますよね。卒業する時、先輩は、後輩に“証”を遺しました?」「“校章”を継がせたよ。今日からは、君が後を継げ!って、女子に継がせた!」「それも、先輩らしいですね。男女は関係無し!実力でしょう?」「その通りさ。停学を喰らった過去はあったが、地力で這い上がった猛者だ。上田、遠藤、水野、加藤。地に堕ちて凹んでるのを、這い上がらせて“更生”までさせた。最強の布陣に託したんだ。悔いは無かったよ」「新設校で、先輩が2期生でしたよね?“礎”を築かれた訳ですが、国分工場でも同じ様な事をやられてるのが、自然に見えるのは、素地があったからですよね?」「多分ね。既存システムを“破壊”して、全く新しい土台からやれたのは、高校時代の経験があればこそだろうな。伝統も文化もOBもOGも居ない、“まっさらなキャンバス”があったから、自由にやれた。描けた。あの頃は、必死だったが、今、思えば自由を謳歌してた自分が懐かしい。現在も、限りなく近い事をやらせてくれてるが、結果が残せなくてはオシマイだから、プレッシャーとの戦いではあるけど」「それでも、結果は出てるじゃありませんか!飛ぶ鳥を落とす勢いで!」「偶然に過ぎないよ。いつまでも、ラッキーが続くとは限らない!“本番”はこれからさ!」「じゃあ、そろそろ“本番”にしましょうか?場所もいいし」と言うと実理ちゃんは車を駐車帯へ導いた。「奥のしげみの方へ寄せて!それから、しばらく外で待ってて下さい!」と彼女は言うと僕を車外へ出した。指宿スカイラインの中ほどの峰の当たりだった。「どうぞ!」と声がかかる。後部席には、制服姿の実理ちゃんが座っていた。20歳とは思えない程、制服が似合う。「さあ、先輩、抱いて下さい。あたし、もう我慢出来ない!」彼女は、唇を重ねて舌を絡ませると、手を下に導く。バンティは濡れ出していた。「いけない先生ですね。最後まで責任取って下さいね」実理ちゃんは、上を取った。片足にバンティを残したまま、息子を吸い込んだ。「あ・・・、いつもより・・・硬くて・・・、大きい!下から突いて下さい」腰を使って彼女もねだった。“コスプレ”になった“初戦”は激しく求め合う事になり、互いに思いがけず“燃える”事になった。

途中から、指宿スカイラインを外れて、南西方向へ一般道へ降りると、交代で食事を摂った。「先輩、お昼の“お茶会”のルーツは、どう言うモノだったんです?」「担任が生物の先生だったから、生物準備室が会場になったのは、ある種必然性があったが、何しろ入学して最初に仲良くなったのが、女子5人組だったから、“他の女子グループから因縁付けられたらヤバイ!”って思ってね、あれこれ思案した結果、生物準備室が会場になったのさ。先生にとっても僕等にとっても都合が良かったしな!」「5対1ですか!如何にもアンバランスですよね。女子グループ側から見ても、変なと言うか妙な感じには写りますよ。それで、“避難先”が生物準備室?」「ああ、茶葉には事欠かないし、茶器も揃ってたし、先輩達が1から教えてくれたし。それで、3年間昼休みに居付いた訳さ」「そう言う事を考え付くの、先輩得意ですよね!あたしも後輩として、加わりたかったです!どうして、鹿児島と長野に別れて育ったんだろう?」実里ちゃんは、憧れ続けた。「それでも、僕等はこうして出会えた。そして、お互いに愛し合ってる。それで充分じゃないか?」「いえ、高校時代から追いかけていたかった!先輩の背を追って歩きたかったです!今は、毎日見守って居られますけど、先輩には“期限”があるでしょう?あたし、また離れ離れになりたく無いんです!」実里ちゃんは、いつになく強い口調で言った。「先は分からないが、“安さん”が“残留工作”をやってるよ。“貴様は帰さん!”が最近の口癖だよ!」「えっ!先輩“帰らない”つもりですか?」「途中下車出来るか?何もかも中途半端で放り出すのは、僕の“主義”に反する。手を付けた以上は、責任を持ってやり遂げるまで帰る理由が無いだろう?」「あたし、一切聞いてませんでした!わー、残ってくれるんだ!嬉しいです!」実里ちゃんは、キャイキャイとはしゃいだ。「そろそろ、目的地に近いはずだが、目の前の峠の先かな?」「はい、どうやらその様ですね」ちょっとした峠を越えると、忘れ去られた様な入り江が現れた。「坊津です。ここが、遣唐使の港?」「ああ、京の都から、ここまで辿り着くのも大変だったはずだが、この先は文字通りの“命がけ”の渡航。どんな気持ちで旅立ったのかな?」「“命がけ”か。あたし達もそんな感じがします」“トッポ”は、入り江が見渡せる高台に停めた。強い日差し中、海風が吹き抜けて行く。「先輩、あたしと“命がけの恋”をしません?」「もう、してるだろう?」「なら、することは1つしかありませんよね?」実里ちゃんは、腕を絡ませると車へ連行した。「あたしのおっぱいが、もう少し大きければよかった?」「いや、スレンダーも好みだ。でも、濡れやすいのは困りものだな。着替えは必須だ」「大丈夫です。換えは用意してありますから!」後部席は熱い営みの舞台に変わった。

坊津の旅から帰ると、「明日は、本来なら千絵先輩なんですが、夏風邪を引かれてダウンしちゃいましたから、“代打”の方が来られます。誰が来るか?は秘密なのでお愉しみに!」と実里ちゃんが言った。「相変わらずの“底無し”だったなー。この次は・・・」「メイドさんに変身します!」「それは無しだ!」笑いながら別れのキスをして車を降りた。「とんでもない事をするなー。さて、明日は誰なんだよ?」僕は首を傾げつつ寮に入った。翌日の朝、寮の前には、見慣れない車が1台待機していた。「Y先輩、おはようございます!」車から降りて来たのは、早紀だった。「君が“代打”って事は・・・」「無論、前回のリベンジですよ!今日は負けませんよ!」と早紀が笑う。持ち時間各6時間の対局が、日曜日のメニューだった。早紀のアパートへ行き、盤を挟んで相対すると「今日は、あたしが先手で!」と早紀が言う。「いいだろう。手抜き無しで行こう!」と受けて立つ。僕は“向かい飛車”を選んだ。角は3三に据えた。互いにゆっくりと手を探り、守りを固めて行く。“頭脳戦”とは意外に疲れるモノだが、リベンジに燃える早紀は、慎重に僕の手を見極めて行った。互いに“銀冠”に組み終えると、早紀が果敢に攻め手を繰り出した。中央で駒がぶつかり、やがて膠着状態になった。手番は僕だ。ここで間違えると一気に形勢は不利になる。昼食とおやつの時間を挟んでも、難解な局面が続いた。夕方近くになって、角交換から同じ手順が3度繰り返された。“千日手指し直し局”が成立したのだ。「引き分けですね」早紀が言う。「ああ、知略の限りを尽くした。持ち時間も短いから、秒読みは無理だろうな」僕も同意して、対局は打ち切られた。早紀が、紅茶を出してくれる。盤から離れれば、通常の会話に移れる。「速攻をかけられると思ってました。囲いを省略して、機先を制されると」「それも考えたが、守りが薄いのは、1手でひっくり返されるから、腰を据えたまでだよ。そっちにも、“早繰り銀”の手があったのに、何故やらなかった?」「“信玄公”の陣形は易々とは崩れません!“鶴翼の陣形”では、“魚鱗の陣”は支えきれませんから。三方ヶ原で家康も敗れていますし、例え角を交換しても、撃ち込む隙が無い。攻防共に決め手を欠いた今回は、心理戦に敗れた結果です」と早紀は分析をした。「勝てる動きをせずに、負けない動きに徹したまでだ。“千日手指し直し局”になったら、“急戦”を選んだだろうな!」「そして、“穴熊”に組む。先輩なら、そうされるはず。“手は緩めても、負けぬ手筋を用意する”とは、流石です。8月も、“先行逃げ切り”で計算されてますよね?」「ああ、しかも“貯金”も積むさ。そうしないと、今の体制では9月が乗り切れないだろう?」「どうして、そんな手を?」「常に先を読んで行くと、後追いが少ない方がミスする確率も下がるだろう?全体を常に半月前にズラして置けば、不意の注文にも応じ易くなる。まだ、完璧では無いが、形は見えて来ただろう?」「ええ、4月とは大違いですよ!全てが一新されました。残るは前ですよね?」「それも、“安さん”が手を尽くしてるはず。この優位を保つのは、容易ならざる事だよ」「しかし、あなたの“辞書”に“不可能”の3文字はありません!必ずや切り抜けるはず。“残留”も含めて、最善を尽くして見せて下さい!」「勿論、そのつもりだ。易々と引くのは、“主義”ではないのでな!」早紀と僕は互いに笑って対談を続けた。

そして、8月頭の月曜日。パート朝礼のさなかに“安さん”が1人の女性を伴ってやって来た。最後に“安さん”が割り込みをかけて「今月から仲間に加わる原田さんだ。宜しく頼む!“信玄”ちとツラを貸せ!」と言う。朝礼を閉じると、改めて原田さんを紹介された。「こうした工場に勤務するのは、初めてだそうだ。1から教え込んでくれ!コイツは、Yだが、俺達は“信玄”と呼んでいる。ここに居るのは“武田の騎馬軍団”と恐れられる勇猛かつ優秀な“おばちゃん達”だ。奥には“女武者達”が飛び回っておる!実質的にここから後ろの指揮は、コイツにくれてある。出退勤や休暇の申請は、Yが管理しとるから、総大将の命に従えばいい!Y、貴様は1日も早く戦力となる様に鍛え上げろ!9月が愉しみになって来たぞ!では、宜しく頼む!」と言うと“安さん”は引き上げた。「えーと、まずは、作業着からですよね。今、持って来ますから少々お待ちを」僕は慌ててサイズの合いそうな作業着を探して、原田さんに試着させ、予備も含めて3着を手渡した。「通常体制、スポット・金・銀ベース優先。キャップはその都度で」と指示を送り作業を始めさせると、見学から始めた。検査工程と出荷にも挨拶に連れて行き、炉の前からの流れを追って説明して行く。「ざっとですが、分からない事はその都度聞いて下さい。基本は、この部屋がメイン。お子さんの都合などで遅刻・早退する場合は、届を書いて下さい。用紙はここの棚にありますから。それと、事前に分かっている欠勤日がある様でしたら、ホワイトボードへ書き込みを入れて下さい。何か質問はありますか?」「あの、何とお呼びすれば?」「ああ、“安さん”達は“信玄”なんて呼んでますが、基本的にYと呼んでください。歳は一番下ですから」と言って納得させる。「Y、取り込み中だが、置き場が足りねぇ!隅を借りるぜ!」と田尾が言いに来る。「了解だ。どの程度になる?」「結構あるぜ!来週にならないと動かせねぇ!」「あいよ!」「Y先輩、スポット出てます?」風邪から復活した千絵が飛んで来た。わざわざ出て来たのは、原田さんを観察する腹だろう。「15分くれ。そうすりゃあ、送り込んでも続けてやれる」「金・銀ベースもお願いしますね!」「分かってるよ。続けて送り込んでやる!キャップはその都度で行くぞ!」「はーい!」千絵が戻ると、今度は今村さんが飛んで来る。「“信玄”、追撃速度を落としてくれ!スクリーンに穴が開いちまった!」「交換と修復にどれくらいかかります?」「1時間くれ!手が止まりそうなら、他に考えて回してくれないか?」「了解です。持ち応えるだけの数量はありますから、ご安心を」「悪いね。今晩中にラッシュはかける!明日に期待してくれ!」人の出入りはいつもと変わらない。だが、原田さんには全く意味不明である。「Yさんは、忙しいけんね。あたしらが教えるたい!」西田・国吉のご両名が動いてくれた。午後からは、僕も実技指導に入ったが、意外にも筋は良い。“武田の騎馬軍団”にまた1人、有能な武者が加わろうとしていた。

あっと言う間に8月も中旬を迎え、鎌倉達が故郷へ向かう日がやって来た。定時で上がってから、寮の車を玄関先へ付ける。早めに上がった鎌倉を乗せて、鹿児島空港へと向かうためだ。大荷物をトランクへ押し込むと、美登里も乗せて車は遮二無二、空港を目指す。乗り遅れたらアウト!明日の朝まで便は無いのだ!「裏道スペシャルで行くぞ!」長期滞在の強みを活かして、車は抜け道を駆け抜ける。「Y、出来る限りの情報は集めて見るが、現場じゃないから限度はあるぞ!」「鎌倉、無理はするな!確実に戻って来い!」「香織先輩に宜しく言っといてね!」美登里も注文を付けた。空港へは予定通りに着いた。搭乗手続きを済ませると「Y、お前が帰らないのは、どうも理屈に合わんぞ!」と鎌倉が言う。「克ちゃんや吉田さんだって、戻ってるんだ。後から追って来いよ!」と言うが、「危険は冒せない。どうしても嫌な予感がするんだよ」と言ってやんわりと拒否する。「まあ、お前さんの判断だ。無理強いはしない。じゃあ、行ってくるぜ!」「気をつけてな!」僕等はロビーで別れた。「さて、お土産の宅配の手筈を取るか。折角来たんだから、それぐらいはやっとかないとマズイな」「あたしも送っとこうかな?」美登里と2人で、宅配の伝票を書いた。しばらく、ロビーをぶらつくと「先輩、これからどうします?」と美登里が聞いた。「社食でメシを食うか?そっちは、“宿題”があるんだろう?」と返すと「盆休みまで食い込むなんて、計算外でした。休み明けの“品質会議”に間に合わせないと、岩留さんの雷が落ちます!」と言う。「お手伝い、お願いしてもいいですか?」美登里が屈託の無い笑顔で言う。彼女も変わったものだ。「おいおい、勤務外だぞ!レイヤーの事も分からんから、手伝いになるか?」「そうじゃなくて、暇潰しですよ!車も自由に使えます。どこかに行きましょうよ!」「さて、何処へ行く?」僕等は、長い盆休みをどうやって乗り切るか?思案を始めた。南国の空に桜島の噴煙が立ち昇る。薩摩の国の夏は暑かった。

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