limited express NANKI-1号の独り言

折々の話題や国内外の出来事・自身の過去について、語り綴ります。
たまに、写真も掲載中。本日、天気晴朗ナレドモ波高シ

N DB 外伝 マイちゃんの記憶 ⑤

2019年02月27日 06時25分39秒 | 日記
サブプロローグ ~ 解脱・時空の彼方へ

土曜日は散々な眼に合ったが、話は大いに盛り上り夕食の直前まで話が途切れる事は無かった。夕食の時間を1つの区切として、やっと解放された僕は冷や汗を拭ってマイちゃんと食事の席に着いた。「○ッシー、ごめんね。悪気は無かったけど、あそこまで盛り上っちゃったら止められなくて・・・。本当にごめん!」マイちゃんが“にわか煎餅”を持ち出して僕をなだめにかかる。「まあ、あれだけ盛り上ってるのに、スッパリ斬るのは有り得ないだろう?今回だけだよ!フルメンバーが居たら収拾不能に陥ってただろうし・・・」僕は半分諦めていた。今回は特例として容認しよう。「そうだね。特例として認めてくれる?」「ああ、マイちゃんに拝まれたら断れないじゃん」「ありがとう!○ッシー!」笑顔が弾けた。「確かに、フルメンバーが居たら、聞けない事まで話してくれたから、すごく愉しかったよ!Aさんが居たら大変だったろうなー!」「それが回避出来たのが良かったな。外泊様々だよー」「○ッシー、この後どうする?」「2人でゆっくりと過ごそう。少し疲れたよ」「そうだね。喋り過ぎも疲れるもの。でも、寝る前に“ハグ”するの忘れないでね!」「はいはい」食事を終えると、僕達は並んで座ってまた話し込んだ。それぞれの病室へ別れる前、“ハグ”をした後、僕はマイちゃんにネックレスをかけた。「お守りだね」「そう、怖く無い様にね!」「ありがとう!○ッシー、おやすみ。また、明日」彼女は手を振って病室へ消えた。

明けて日曜日。マイちゃんは「○ッシー、ありがとう。昨夜はよく眠れた。効果抜群だね!」と言ってネックレスを返して来た。「本当か?」「うん、平気だった。でもね、夜中に翼のモチーフのペンダントが光ったの。蛍みたいに。あれって・・・」「僕の秘密の仕掛けって言いたいけど、本当かい?」「うん、間違いなく。○ッシー、もしかしてまた、戦いが起こるのかな?」「分からないよ。でも、誰と戦うんだ?」「Aさん!不謹慎な事考えてるから!」「おいおい、彼女に邪悪な輩は取り付かないよ!逆に逃げてくはずだろう?」「そうだね。考え過ぎかな?」「そうそう、さて、今日はどうする?」「ゆっくり行こう!」彼女は元気だった。検温が終わり、指定席で並んでいると「ねえ、○ッシー!あれAさんじゃない?」マイちゃんがナースステーションの方向を指す。「ありゃ?随分と早いお帰りだな。さては、沈没寸前か?」Aさんは、見るからに疲れ切っており、表情も冴えない。「あちゃー、最悪のパターンじゃない?」Eちゃんも顔を覆う。ご主人に付き添われて病室へ向かう途中、Aさんは力無く手を振る。「何があったのかしら?」マイちゃんが首を傾げる。「張り切って動き回った揚げ句のダウンロードってとこだろう。多分、1時間すれば本人から話に来るだろうよ!」僕は彼女の行動を推察して言った。「1時間で復活するかな?」「彼女の性格からして、話をばらまきに来なきゃ治まるはずが無い!まあ、様子を見てましょう!」僕は悠然と構えた。ご主人が病室を後にして、きっかり1時間後に彼女は現れた。だが、気になる¨爆弾¨も彼女は持ち込んで来たのであった。

「あー、もう限界だった!何であんなに疲れてしまうの?」「あれも、これもと欲張るからさ!ご主人に、お子さんに、猫に、HPの更新だろう?多分全部に手を出してない?」僕はさりげなく聞くと「当たり!どうして見てたかの様に言う訳?○ッシー、幽体離脱して観察してたの?」Aさんは、またまた可笑しな方向へ話を振る。「そんな事はしてません!ただ、推察すれば見えてくるだけ!ダウンロードでお帰りとなれば、それしか無いでしょ!」とダメを押す。「やっぱり一家に一台、○ッシーは必要だわ!」と泣きが入るが「ダメ!○ッシーは、みんなの共有財産だから!」と5人が合唱してボツに追い込む。「うー、そこまで言うの?」「○ッシーを守るためなら!」マイちゃんが止めを刺す。「でもね、あたしある情報を掴んだのよ。S西病院に、SKが潜んで居るらしいのよ!」「おいおい、S西だったら目と鼻の先じゃないか!裏は取れてるのかな?」背筋に冷たいモノが流れる。「クリソツ顔のお姉さんが毎日現れるって話よ!間違いなく、信憑性はあるわ!」SKがS西病院に潜んでいる!この情報は衝撃を持って受止められた。しかも目と鼻の先である。「それが確かだとすれば、脅威になるな!“返り咲き”を狙ってると見た方が正しい。容態が戻れば、クリソツ顔のお姉さんの日参が始まりかねない。Aさん、その他の情報はあるの?」「ここで言う“監獄”に入っているって話よ。たまに外に出ると、男性に“あたしとメル友になってくれませんか?”って必ず話しかけてるらしいわ!直ぐに看護師に阻止されるらしいけど」「ふむ、かなり重症だな。ブラックホールの淵に手がかかってる感じだ!」「あたしもそう直感したの。どっちにしても落ちる寸前じゃないかな?」Aさんが推測を述べた。「いずれにしても、S西病院に眼があるなら、経過観察をする必要があるな!Aさん、継続して情報を掴めそうかな?」「○ッシーならそう言うと思って、手は打ってあるわ!動きがあれば、リアルタイムでメールが届く様に依頼してある!」「ありがとう。しばらくは様子を見るが、用心に越した事は無い。ナースステーション周辺を重点的に見ていこう!」その場の全員が頷いた。悪い予感は良く当たると言うが、今思えばこれが“前兆”だった。

昼食後、僕は倦怠感に襲われ病室に引き上げた。「無理しないで。○ッシー最近、かなりの事やってくれてるし、ブッ倒れてから1週間も経ってないんだもの。あたし達は大丈夫だから、少し横になりなよ!」マイちゃんに背中を押されての引き上げだったが、正直な話ホッとしたのも事実だった。ベッドに横たわると急激に意識が遠のいて行った。ブラックホールに吸い込まれる様に闇の中へと急激に落ちて行った。

今から4億3千万年前、地球から約6000光年離れた恒星が超新星爆発を起こし、γ放射線バーストが地球上に到達して生命体の大量絶滅が起きている。超新星爆発の直前、地球上の北極点には、巨大な人工氷で作られた強固な城郭があった。その最上階に光に満たされた部屋はあった。正確には、光ではなく強力な思念が満ち溢れ輝いていた。その思念を発して居たのはSKであった。彼女は、部屋の中心に浮遊し眼を閉じて¨ヴァルハラ¨を操って居る。暗黒の渦巻く不気味な球体は、大気を切り裂いて地上を縦横無尽に動き回り、生命体を容赦無く飲み込んでいた。¨ヴァルハラ¨の直径は月の半分にまで成長しており、まさしく¨餓えた野獣¨さながらだった。やがて、¨ヴァルハラ¨は月の軌道との中間点へ移動して、固定された。SKは静かに眼を開くと、「コンスタンス!」と呼びかけた。SKが呼ぶと上半身が狼の様な異星人が現われた。「お呼びですか陛下」と膝をついて頭を下げる。「ウイラーとギルもここへ!」2人の異星人が膝をついて頭を下げる。“ウイラー”は上半身がバッタの様で、“ギル”はカエルの様だ。「コンスタンス!コル星系からの攻撃部隊の全容は掴めたのか?」「はっ!全部で100隻の艦隊がこちらに向っているのを捉えました!現在、5000光年まで接近して来ております」「我らの戦力の倍ではないか!迎撃体制は?」「太陽系外周に全艦隊を集結させつつありますが、数では圧倒的な不利は否めません。しかし、戦士達は死力を尽して陛下をお護りするべく出撃致しました!」ウイラーが報告をする。「残っておる者達は、土星軌道に展開、最終防衛線を築く予定でございます!」ギルも報告を行った。「前回の戦いから、まだそれほどの時が過ぎておらぬではないか!負傷した者達も出たのか?」「はい、コルは手強い相手。全兵力を持って迎え撃ちます!」コンスタンスが悲壮な決意を述べる。「そなた達は、その様な悲壮な事を命じたのか!何故、我に申さぬ!」SKはいきり立って激怒した。「前回は、未完成故にそなた達に無用の傷を負わせたが、今回は違う!ファンタシズムプラネットを持って我が行く!」SKは語気を強めて言い放った。「ファンタシズムプラネット!」「では遂に・・・」コンスタンスもウイラーもギルも恐怖の声を上げた。「コルの艦隊100隻か。丁度良い餌食よ!“ヴァルハラ”がより強固に揺ぎ無く存在するには、格好の獲物。“ヴァルハラ”よ!行くがいい!!」SKが叫ぶと“ヴァルハラ”は瞬く間に消え失せた。「半日もあれば、“ヴァルハラ”は戻る。その時には超新星爆発如きでは微動だにせぬ強固な姿となろう。コンスンス!味方の艦隊を木星宙域へ集結させよ!γ放射線バーストはそこで食い止める!」「はっ!」コンスタンス以下2名は平伏した。“戦士よ、今はこれまでだ。時を戻す”不思議な声が聞えて、急速に闇へ引き込まれて行く。意識が薄れ闇に沈んだ。“彼らは銀河の中心から来た者達だ。コル星系もしかり。遥かな過去にオリオン腕星域には、多様な種族が頻繁に訪れていた。SKは、彼らを懐柔して配下に従えたのだ。SKはいずれ倒さねばならぬ。そうしなくては、現在のそなた達が危うい。SKは過去の時空で再起を図り、巨大な力を手にした。力を蓄えよ!戦いの時は迫った”声が消えると意識が戻った。「ここは、どこだ?」呻く様に言うと眼が覚めた。自分のベッドに横たわっていた。コントの一幕を見た様な気分になり、噴出したが、妙な感覚に襲われた。「ファンタシズムプラネット“ヴァルハラ”とは何だ?異星人達は、何故SKに従っているんだ?未来ではなく、過去の世界を見たのか?」様々な疑問符がぐちゃぐちゃになって、一気に押し寄せた。「疲れてるなー。もう少し横になってるか?」しばらくすると自然に眠った。今度は何も見聞きはしなかったし、不思議な声も聞えなかった。

「ねえ、○ッシー、それって真実じゃないかな?」マイちゃんは、真顔で言う。「信じるのかい?あのコント見たいな夢を?!」「だって、SKって言えば¨多面性¨、それもかなり極端な顔を見せてたでしょう?」「まあ、それは否定しないね。¨20代の普通の顔¨や・・・」「男性に媚びる魔性の顔¨それに¨同性に対する悪魔の顔¨!思い出すだけでもこれだけあるんだよ!¨悪魔に魂を売った残忍な顔¨が有っても不思議じゃなくない?」ここは、デイ・ルーム。他人には聞かれたく無いからとマイちゃんが、力説して2人だけで話をしている最中だ。「SKが過去の世界で、力を蓄えて現在に現れたらどうなると思う?前にも戦った○ッシーなら分かるでしょう?彼女の歪んだ思考が、如何に恐ろしいか!」「うん、尋常じゃ無かったよ。でも、危機が差し迫ってるのが間違いないとしたら、どうやって阻止する?武器も力も差があり過ぎる!」「でも、SKと対等に戦えるのは、○ッシーだけ。世界中の平和を護るのは貴方しか居ない!神様の暗示だよ!間違いない!」マイちゃんは信じ込んでいた。「今夜、○ッシーは召喚されるかもね。例え厳しくてもあたし達のためにも戦って来てね!今度こそSKを遥か彼方に封じ込めるの!」「いや、解脱させるしかあるまい」僕は直感的にそう感じた。「解脱って、何をするの?」「生まれる以前に戻すのさ。記憶を全て消し去るしか無いね。幼子に戻すとしたら、悪魔を呼び込む悪心も消える事になる」「そんな事、出来るのかな?」「彼女の心はかなり傷んでいる。修復が不可能なら、生まれ変わらせるしかあるまい」「生まれ変わらせるなら、記憶は消えるのかな?」「消えてくれれば、悪影響は出ない。家族は絶望視するだろうが、悪心を祓うにはそれしか無い!」「何か○ッシーなら出来そうな気がする。理由は説明出来ないけれと、多分やるんじゃない?」「多分ね。神仏の力が有ればね」僕は漠然と言った。マイちゃんは、遠い眼をして外を見ている。木々は色づき始めて、色彩に溢れ様としている。「○ッシー、必ず戻ってよ!どんなに傷付いても、あたし達の場所へ必ず戻って!」マイちゃんはそっと肩に抱き付いた。「行くとは決まって居ないが、僕が戻らなかった事があったかい?僕はここへ必ず戻るよ」静かに確かに僕は言った。「待ってるから」マイちゃんはそう言ってくれた。日は西に傾いた。「そろそろ戻ろう!みんなが待ってるよ!」「ああ、彼女達を待たせると大変だ」僕らは病棟へ向かって歩き出した。何気ない日常の光景が、当たり前にあった。そして、マイちゃんの予感は的中した。

闇から声が聞こえた。“戦士よ!目覚めよ。戦いの時が来た!”ゆっくりと起き上がり、時計を見る。時計の針は午後11時を指している。「誰だ?僕を呼んだのは?」小声で呟くと“戦士よ!目覚めよ。戦いの時が来た!”と今度は心の中に大きな声が響いた。「阿修羅!」写真でよく見る阿修羅が枕元に浮遊していた。極彩色と金と銀を纏った阿修羅は、光の環を放った。“そちの霊魂と肉体を分離する。眼を閉じて待つがいい”僕は目を閉じた。“開眼するがいい”阿修羅に言われて眼を開けると、北極の遥か上空に僕と阿修羅は浮遊していた。“そちの時代より4億3千万年前、巨大な星の爆発でのγ放射線バーストにより、地球上の生命は、大量絶滅追い込まれたことになったとされている。だが、それは違うのだ。”「何が違うと言うのか?」“これを見るがいい”阿修羅は光の環で窓を作り、遥か彼方の虚空を見せた。暗黒の渦が宇宙艦隊を飲み込んでいた。「まさか、“ヴァルハラ”か?!」“そうだ。古ノルド語で「死者の館」を意味する悪魔の渦だ。あれを操っている者は誰か?そちには見えていよう!”「SKか!また邪悪な者達に取り付かれたとでも言うのか?」“SKそのものが邪悪に目覚めたのだ。今、正にヴァルハラを操り、宇宙の生命体を殺戮し続けておる。そして、銀河中から奴隷として異星人を集め、思うがままに生きておる。SKに立ち向かい邪悪を鎮められるのは、そちのみ。SKの霊魂を解脱させるのに、手を貸してはくれぬか?”「阿修羅よ。僕にはその様な力は無い。仏の力と言っていいのか疑問だが、そのような力も無く素手で何が出来る?」“案ずるな!これよりそちに力を授ける。十二神将よ!戦士に力を与えよ!”薬師如来三尊と共に十二神将が現れた。神将達はそれぞれに甲冑の一部と武器を光に変えて僕に与えた。与えられた甲冑は銀色に輝き、剣は金色に光っていた。兜の中央に阿修羅が進み出ると、吸い込まれるように一体化した。“我らは、そちと共に最期の戦いに挑む。周りを見るがよい”阿修羅に促されて周囲を見ると、菩薩や力士達が周囲をぐるりと取り巻いている。僕の背後には千手観音菩薩が着いた。“SKの霊魂を千手観音菩薩の手で涅槃に送ればよい。では、参るぞ!”「待ってくれ!ここはどの時代なのだ?」“そちの時代より4億3千万年前だ。時間を巻き戻して旅をしておる。案ずるな、戦いの後は元の時空へ戻す。さあ、SKがヴァルハラを動かしている今が好機!一気呵成に事を運ぼう!”僕の意思とは関係なく、仏達と共に降下は始まった。“SKは、北極点に堅固な城を築いている。邪悪な者達は、十二神将と力士達が祓って行く。そちは、我らと共にSKのみを狙う。激しい戦になるだろうが、そちの力を信ずるぞ!” 千手観音菩薩が言う。「SK!今度こそ最期だ!安らかな世界へ連れて行ってやる!」僕は腹を括った。戦いの火蓋は切って落とされている。ならば、やるしか、戦うしか無かった。

金色に輝く剣は、次々と異星人達を切り裂いて蒸発させた。十二神将と力士達は無敵の力を余すことなく開放して行った。異星人達は総崩れとなり、戦闘は仏達に有利に展開して行った。僕と十二神将と力士達は城の外壁を攻撃し始めた。堅固を誇った城はたわいなく崩れて行った。SKにとって誤算だったのは、異星人部隊の主力が遥か彼方に展開していた事と、ヴァルハラを動かすのに全力を尽くしていた事だった。僕達の接近は察知されないどころか“奇襲”となって完全に虚を突く形となった。「おのれ!薄汚い異端者共!我の裏を取るとは!コンスタンス!ウイラー!ギル!防衛線はどうなっておる?」「はっ!異端者共は四方より一斉に攻撃を仕掛けて来ております!突破されるのは時間の問題でございます。陛下には、一刻も早くヴァルハラへの御遷座を!」3名の者達は必死に訴える。「うぬー、止むを得ぬか!一時手を引く!ヴァルハラへの扉を開くまで持ちこたえよ!」SKは思念を込めようとした。外壁が轟音を上げて崩れ始めた。SKの居る部屋の壁にも大穴が空いた。「貴様は?!」SKがこちらを向いて驚愕した。「SK、もう逃げられないぞ!ヴァルハラに行くなら僕を倒してから行くがいい!」千手観音菩薩を背に僕は剣を構えた。「異端者が何を言うか!」ギルが銃口を向けて突っ込んで来た。銃口からのエネルギーは、具足に跳ね返され散った。剣を一振りすると、ギルは蒸発して消え失せた。「おのれ!薄汚い異端者がー!」コンスタンスとウイラーが左右から飛んで来る。2人は剣を向けて切り込んで来た。右に左に剣を振るうと2人は、真っ二つに切り裂かれ蒸発した。SKはコンスタンスの剣をかざすと、浮遊状態で構えを取った。剣は赤黒く長く伸びた。「決着を付けてやる!3人の仇!消え失せろ!」猛烈な思念が込められた剣は、僕の金色の剣を蒸発させ、胸の付近を切り裂いた。同時に拳と手刀が襲い掛かる。具足は切り裂かれ、顔やボディーに拳が食い込んだ。流石に足がよろめき血が流れた。ダメージは前回にも増して強烈だった。「我は無敵!如何に仏の力があれど、使いこなせなくては無用の長物に過ぎん!」SKが薄笑いを浮かべる。再び、拳と手刀が襲い掛かる。SKも剣を掲げて斬り込んで来る。だが、スローモーションの様にゆっくりとしか進んで来ない。進路が見えるのだ。数cmの単位で剣と拳と手刀をかわす。「なっ何故だ!音速をかわせる訳が・・・」SKの顔に変化が見えた。明らかに動揺している。再び、剣と拳と手刀が襲い掛かるが、亀の歩みのようにスローな動きにしか見えない。僕は余裕をもってこれらをかわした。「何故だ!何故かわせるのだ?!音速の20倍の速度を!」SKは青ざめた顔に変わった。「まさか・・・、光速で動けるのか?!」僕は答える代わりに五鈷杵を首元から取り出して構えた。中心の刃は長く伸びて赤紫に輝いている。「SK!無駄だよ。いくら攻撃しても手は見える。これが最期だ!行くぞ!」僕は初めて前に進んだ。SKのホディーに猛烈な蹴りを連続して入れ、顔を殴って壁へと追い込む。剣を奪いSKの腹に突き刺し壁に押し付ける。音速でしか動けないSKはなす術が無かった。「我は・・・、無敵・・・、神聖・・・、カシリーナ王国・・・の支・・・配者にして、・・・絶対的な・・・」口からは赤黒い血が噴き出し、息も荒くなった。僕は「邪心よ!遥か彼方へ去れ!」と叫んで五鈷杵の刃を額に突き刺した。七色の光がSKを包んだ。SKの体は光の粒となり足元から崩壊していく。五鈷杵の刃の先に光の玉を残して。五鈷杵の刃を収めると、光の玉を両手に包んで振り返り、千手観音菩薩に委ねる。“千眼は開かれたり。さあ、我と共に涅槃へ!” 千手観音菩薩はSKの霊魂を抱いて宇宙へ昇って行った。轟音と共に城は崩壊していく。僕も千手観音菩薩を追って北極上空を目指した。仏達も集まって来た。“戦士よ!SKの霊魂は涅槃へ向かった。数百億光年の彼方だ。もう案ずることは無い。今、具足を外そう” 薬師如来三尊と共に十二神将が現れ、具足が光に変わり取り外された。傷口は薬師如来によって修復された。阿修羅が再び姿を現し、仏達は月へ向かって行った。“これより時を戻す。眼を閉じて待つがいい”僕は眼を閉じた。“開眼するがいい”眼を開けると病室のベッドの上に浮遊していた。“霊魂を肉体に戻す。また、逢おう勇敢なる戦士よ”阿修羅は光の環を放ち闇に消えて行った。ガクっと体が揺れた。ベッドの上に上半身を起こした状態で僕は現在に戻った。倦怠感と息苦しさを感じた。時計の針は午前5時を指している。必死にナースコールを探してボタンを押したところで意識が途切れた。

気が付くとクリーム色の天井が見えた。必死に首を動かして周囲を見るとピンク色のカーテンが目に飛び込んで来た。「ここは、どこ?」酸素マスク越しに言うので声は届かないかも知れなかった。不意に赤紫の制服を着た看護師さんが真上に来た。「あっ、気付いたわ。待ってて、先生を呼んで来るから」そうだ、ここは病院のICUだ。ナースコールを押した所までの記憶が蘇る。倦怠感に呼吸困難、そして意識の喪失。恐らくICUへ搬送されたのだろう。枕元にはネックレスが置いてある。CTやX線も撮ったのだろう。翼とクロスのモチーフに光る石が煌めいている。以前は無かったものだ。夢は現実だったのか?それは今も分からない。SKを解脱させたのは間違いないだろうと思った。ICUの先生が来た。「ちょっと診察させて下さいね」と言って聴診器を当てる。「バイタルは?」「安定しています。呼吸数、血圧共に戻りました。心拍数も正常」「病棟に連絡。もう、大丈夫。病棟で経過観察にしましょう」ストレッチャーが用意され、病棟から迎えの看護師さん達が到着する。Kさんも居た。「戻って来たね。病棟に帰ろう。丸1日、意識が無かったんだよ!」予測を超えた現実だった。24時間以上経過していたとは、そうなると・・・。「分かってると思うけど、火が消えたみたいに静まり返っているのよ。何とかして頂戴!貴方が戻らなくては彼女達、断食まがいの行動に走りかねないわ!」Kさんが止めを刺す。やはり・・・、“お通夜の席”になってるのか。病棟へ向かうエレベーターで顔を撫でる。ヒゲが伸びている。はてさて、これからどうなるのか?騒ぎは妙な方向に拡大していなければいいが。病棟へ戻ると、ナースステーション内の処置スペースへ運ばれ、主治医が改めて診察を開始した。点滴ラインに3つのバックが繋がれフックに釣り下がる。結果は「点滴を終えたら病室で経過観察」と出た。酸素マスクは外された。「〇ッシー、戻ってくれたね」マイちゃんが代表してやって来たらしい。半泣きだが、しっかりと右手を握りしめた。「ああ、戻ったよ。倒しても来た」「みんなに報告して来るね。もう、大丈夫だって」「悪い。頼むよ」短い会話だったが、彼女は涙を拭って歩き出した。間もなく女の子達の歓声が聞こえた。「やれやれ、退院するとしたら、力づくで引き止められるわね!」Kさんが苦笑していた。その日は病室からは出られなかったが、翌朝からは通常通りでいいと主治医の許可も出た。僕はネックレスを首に吊ってから眠った。その夜は、何事も起こらなかった。

翌朝、看護副師長さんを筆頭にゾロゾロと“検温部隊”がやって来た。主治医の診察に加えて厳重なバイタル管理が図られた。「2週間も経たない内に2度も倒れるなんて、何かあるはずです!徹底的に調べて!」全身をくまなく洗われていくが、異常は見つからない。主治医も「当面、様子を診ましょう」と言って“外出禁止”を申し渡された。Mさんも「今度こそ大人しくしているのよ!」と言って厳しい表情を見せた。「はーい、気を付けます!」としおらしく言ったものの、その気は全く無い。慌しくヒゲを撃退させると、着替えを済ませて指定席を目指す。廊下を歩き出すと「○ッシー!凱旋おめでとう!」と女の子達が群がって来る。「凱旋とは何の事かな?」ととぼけるが、彼女達は「SKを撃退して来たんでしょう?」と確信を突いて来る。「みんな!○ッシーが帰って来たよ!」「お帰り!」「大丈夫?無傷だよね?」「SKはどうなったの?」「早く聞かせてよ!」と矢継ぎ早に声が飛んで来る。「はい、はい、はい、先ずはこの人にご挨拶!」Aさんがマイちゃんを引っ張り出して来る。「○ッシー、お帰り。無事に戻ってくれたね!」マイちゃんが右手を差し出す。左手でそっと握り返して「ああ、無事に戻ったよ」と返すと「バンザーイ!」と雄叫びが上がった。「やれやれ、やっと普段の景色に戻ったわね」ナースステーションでMさんがため息を付いていた。「○ッシー、SKはどうなったの?早く教えてよ!」Aさんが急かす。「聞き取り調査に応じないと、解放しないつもりかな?分かった!全てを話そう!」僕は仔細に渡って夢の事を話し始めた。彼女達は熱心に聞き入り頷いていた。

その日の夕方、病室へ戻っていた僕にナースステーションから呼び出しがかかった。ステーションの前で僕は我が眼を疑いかけた。「SK!」だが改めて見入ると背丈が違うし、ずっと大人びている。「〇〇さん。お休みの所申し訳ありません」彼女はそう言って頭を下げた。SKの一番上のお姉さんだった。眼を疑う程クリソツ顔だ。僕はホールのテーブルに案内すると話を聞いた。「実は・・・、一番下の妹が、記憶を完全に失ってしまいまして・・・、何か記憶を呼び覚ます様な写真などをお持ちではないかと思いまして・・・」彼女は困惑を隠そうともせずに言った。家族の口から直にSKの“記憶喪失”を知らされるとは思いもしなかったが、彼女はすがる様に僕を見ていた。「“記憶喪失”ですか・・・、何も思い出されないと言う事ですね?」「はい、幼児期まで戻ってしまった様でして、母の名前も忘れております。かろうじて私が姉だとは認識してくれているのですが、何かキーになりそうなモノをお持ちでしょうか?」「残念ですが、私も何も持ち合わせがありません。携帯番号とメルアドを知っているくらいでして。彼女とは“退院したらメール交換しよう”って言ってましたが、あいにくまだこの有様です。仲間の女性達にも聞いて見ましょうか?何か出て来る可能性はありますが?」「ええ、お願い出来ますか?」僕は近くに居たメンバーの子に非常招集を依頼した。しばらくすると、一群がテーブルを取り囲んだ。「SKさんの写真とかメールとか持ってる人はいるかい?絵でもメモでも何でもいいから」僕が聞くと「彼女からもらったメルアドのメモならあるよ」「うーん、写真は探しても見当たらない」「タバコも頻繁に変えてたから銘柄もどれを言えばいいか?」「好きなお菓子とかも好みがわからないなー」とポツリポツリとしか情報は出て来なかった。それでもお姉さんはメモを取り細かな点を聞き取った。「ありがとうございます。貴重な情報を頂きました。では、これで失礼します。みなさんもどうかお元気で!」と言うと彼女は深々と一礼して病棟を去って行った。「○ッシー、家族にとっては悲劇だね。何も覚えていないなんて」1人の子がポツリと言った。「いや、僕はそうは思わない。心を邪悪に乗っ取られるよりは、幼子のままでいた方がしあわせだと思うよ。少なくとも痛い目には合わずに済む。血を流すよりは、“記憶喪失”のままで居られる方がいいだろう。暴力や暴言、怪我に苦しむよりは、今のままで居るのが最善さ。時間は掛かるが、家族にとっても後々のためにもね」僕は自身に言い聞かせるように言った。数百億光年の彼方に封じられた心は、もう暴れる事は無いはずだ。全ては時が解決に導くと。
「数百億光年の彼方へ邪悪な心は封じられた。僕達に害を成すことはもう無い。これから、例え記憶が戻ったとしても、SKがここへ現れることは2度と無いだろう!」「○ッシー、断言しちゃっていいの?」マイちゃんが尋ねた。「ああ、闇の彼方へ送った以上、簡単には帰っては来れない。光のスピードでも数百億年かかるんだ。もう、心配はないだろう」僕はそう言った。「数百億年後はどうなるのかな?」マイちゃんが更に聞いて来る。「後、50億年経てば、太陽は膨張して地球上に生命は存在出来なくなる。それよりも更に後の後にならないと邪心は戻らない。太陽系そのものが消滅してしまえば、邪心も戻る場所を失う訳だから、永遠に闇を彷徨う事になるね。広大な宇宙空間をね」「想像もつかないけど、太陽もやがて燃え尽きるってこと?」「ああ、人の一生なんて、宇宙では一瞬の煌めきにすぎないよ」「何で○ッシーはそう言う知識があるの?カメラの設計に関係あるの?」「あると言えばあるし、無いと言えばない」「どっち?!」マイちゃんが焦れる。「あらゆる引出しの中から答えを繰り出すためには“広く浅く”学んで置く事さ!今は無駄かも知れない事も後々役立つ事もある」「これが結末か・・・、○ッシー、本当にこれで最期だよね?」Eちゃんが聞いた。「ああ、そうだ。もう、戦う相手ではないよ」僕は静かに答えた。首元がキラリと光った。翼とクロスのモチーフのペンダントには光る石が煌めいている。これがSKとの“終戦”であった。