通訳ブースから見た世界の看護とナース

2011-06-08 21:33:47 | 日記
 INR誌に掲載のインターナショナル・パースペクティブの翻訳と、「通訳ブースから見た世界の看護とナース:マルタCNR・ICN学術集会リポート」の校正が終わり、提出した。7月に発行される。「通訳ブースから。。。」は日本看護協会出版会のホームページにも載せられるとのこと。出版社が違うのだけど、3月に発行した拙著、『対人コミュニケーション入門 看護のパワーアップにつながる理論と技術』(ライフサポート社刊)についての情報も、「通訳ブースから。。。」の後に載せてくれた。編集担当の村上さんが上手くまとめてくれている。感謝です。

 12日(日)から、助産師の会議でダーバンに行く。帰国は21日(火)。ブログの更新は、おそらく、帰ってからになる。今回は、日本代表への随行で、ブースからの通訳ではなく、パナガイドの生耳同通だ。ダーバンは2回目。前回も同じぐらいころに行った。気温自体は寒くもなく暑くもなく、梅雨の東京に比べると結構快適だと思う。でも、治安は相変わらずなのだろう。単独行動はできない。タクシーもホテルで頼んで、そのタクシーで帰ってくることになる。
 昨日、小川さんの美容室Elementで髪を整えてもらった。また、ちょっと変わった感じになったかもしれない。これで、11日間、飛行機とホテルの乾燥に耐え、人前に出ても大丈夫だろう。
 それはそうと、内容の準備、ピッチを上げないといけない。

 今日、ICNの主席通訳者にマルタの折の礼状を出した。
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和製英語 コ・メディカル

2011-06-04 20:50:00 | 医療用語(看護、医学)
 「コ・メディカル」、または、「コメディカル・スタッフ」という言葉が出てくることがある。「医師・看護師以外の医療従事者」と説明している辞書もあるが、普通は、「医師以外の医療従事者」のことだ。今でも見る。ただ、注意は、これは完全な和製英語だ。日本人話者が使ったり、日本語のテキストに使われていても、通訳や翻訳で、そのまま、'co-medical staff' にしてはいけない。もちろん、自分で英語の論文を書くときにも論外だ。healthcare professions や nurses and other healthcare professionals が望ましい。

 「コ・メディカル」という言葉については、もう少し考えなければならないのは、'medical' があって、それに 'co' がついている形のとおり、medical(医学)を基準に、医療の中のそれ以外の分野を線引きした言葉であることだ。ウィキに次のようある。

 「1982年(昭和57年)、第1回糖尿病患者教育担当者セミナーの講演において、阿部正和東京慈恵会医科大  学学長(当時)が、患者教育には医師のみならず全ての関係スタッフの協力が不可欠として、医師以外の  関係スタッフを卑下したパラメディカルとの呼称を止め、「協同」を意味する接頭辞の "co-" を用いた  「コ・メディカル」(co-medical、英語発音: /ˌkouˈmedikəl/ コウメディカル)との呼称の使用を提唱し  た。「コ・メディカル」という名称は、後に定着する「チーム医療」の考えと合致し、日本の医療業界に  広く受け入れられた」
  http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B3%E3%83%BB%E3%83%A1%E3%83%87%E3%82%A3%E3%82%AB%E3%83%AB

 para から co になったとはいえ、「医師」がいてその「協同」という形は、現在、求められる、医療従事者間の対等な協働関係目指したチーム医療に即した言葉ではない。この言葉を日本の看護の論文で「看護師などのコ・メディカルは」と使われていたのを見たとき、かなりショックだった。

 医療用語に見られるカタカナ語に伴う「カセット効果」の1つの例だろう。

 「カセット効果」とは、翻訳論の柳父章の言葉だ。翻訳研究という特殊な話ではなく、岩波新書(『翻訳ご成立事情』)にも説明されている言葉である。明治時代に外来語が入ってきたときその訳に、漢語を当てはめて、society:社会、individual:個人、などとした。そのとき日本人は、何か特別な重要な意味のあるものととらえ、それ以上深く考えずに、それらの言葉を受け入れてきた。「宝石箱効果」とも言われ、中身はよく分からなくとも人を引き付ける。そして多用される。現在のカタカナ語にも当てはまる。「コ・メディカル」は和製英語だ。カタカナで示されたことで、この効果を帯びたのではないか。これは、特に、医師以外の医療職者には、考えてほしい。
 看護の視点からいうと、ナースをアドボケイトする、つまり、重視されるように社会に向かって説明しようとするときに適した言葉ではなく、使うべきでない。厚生労働省の文章では、「コ・メディカル」は使われていないはずだ。
 看護の分野の通訳や翻訳をするときには、以上のことを頭に入れておく必要がある。


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Physician vs. Doctor

2011-06-02 21:31:55 | 医療用語(看護、医学)
  physician と doctor の意味はどちらも「医師」だ。欧米の看護の論文では、「医師」を意味する場合、doctor ではなく、physician を使うことがほとんどだ。doctor は、PhD やMD など、博士号取得者に対して使う。看護にもたくさん、doctor はいる。この言葉の選択傾向は、ICNにおいては明らかだ(INR誌のコラムや論文、ICN大会など)。だが、ICNとは別の専門領域の看護の学会でも、最近は、海外の看護の研究者、教育者、実践家はともに、「医師」には physician を使い、文章の中で、途中、言葉変えて表現する場合、ナースのことも、医師のことも、同等に、healthcaare provider や healthcare professional を使っている。
 「医師」を指すとき、GP(general practitioner:一般医、開業医のこと)か、specialist(専門医)かを区別して使うこともあるが、doctor を使っていることは、ほとんどない。

 2006年に、通訳者として随行した、日本看護連盟(日本看護協会の政治団体)のアメリカ看護団体視察の中に、The Center for Nursing Advocacy があった。「一般の人々の中にナースへの理解を高める」ために、メディアでの看護やナースの採り上げ方での問題を指摘し改善する活動をしている団体だ。もともとは、ジョンズ・ホプキンス大学大学院の看護学の学生2人で始めたらしい。少しずつ大きくなり、スザンヌ・ゴードンやダイアナ・メイソンも理事として関わっており、メイソンのPolicy and Plitics in Nuring and Health Careにも、1つセクションが設けられて、活動が説明されている。このセンターのホームページに、看護の視点から、doctor ではなく、physicianを使う理由が説明されている。http://www.nursingadvocacy.org/faq/nf/physician_vs_doctor.html

 何が書いてあるか、ポイントだけ要約すると、「医師」の意味で doctor を使うと、看護など他の医療職の分野で博士号を取得できるのにもかかわらず、医療の中では医師のみが博士号を持つと考えられ、その考えが社会の中で固定的なものになる。(看護にはケアリングとともにサイエンティフィックな面もあり、)これからの時代、看護がいろいろな勉強ができる興味深い分野とし認識されなければ、男女幅広く、看護の学生が増えていかなくなる、ということだ。

 この考え方をベースに、the Center for Nursing Advocacyでは、看護やナースに対して社会が長きに渡って固定して持っているイメージ(女性の仕事、医師の補佐業務など)を改善しようと、テレビ番組、コマーシャル、広告など、メディアでの不適切な描写に対して、指摘し、改善させるまで、追跡している。
 (残念ながら、このセンターは、少し前に閉じる決定をしたようだ。ホームページだけはしばらくそのままにしておくとのこと)。

 センターの名前を訳すと「看護のアドボカシーのセンター」になる。人々が必要とする質の高いケアを提供していくには、看護のアドボケイト(権利擁護)、つまり、社会において、看護が重視され、看護とナースへの配慮を増やしていく努力がナースに必要である。そのためには、ナースと看護に関係性を持つものを表現する言葉については、看護をアドボケイトしているものかをよく考えて選んでいく必要がある。
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