透水の 『俳句ワールド』

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石田波郷・「波郷句自解」(二十)(二十一)        高橋透水

2014年08月31日 | 俳句・短歌・評論・俳句誌・俳句の歴史
故郷忌を人には言はず日暮れぬる     波郷

九月五日は我師五十崎故郷の忌日である。「袴暑し」の句に註した如く五日
は馬酔木の集金日である。残暑の街を誰にも会はず市井を駈廻りつゝ亡師を
思ふ日であつた。

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冬青き松をいつしんに見るときあり      波郷

冬青とか松とか何ら新奇はない。何事かに思ひぞ屈する故に、一本の松を偏
ら凝視するのである。俳句は要するに何事も言へないといふことを知り始め
た頃の句だ。昭和十三年。


「波郷句自解―無用のことながら―」(有)梁塵社 より

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石田波郷・「波郷句自解」(十八)(十九)         高橋透水

2014年08月27日 | 俳句・短歌・評論・俳句誌・俳句の歴史
袴暑し金を集めて街ゆけば       波郷

「京大俳句」の責任者平畑静塔に「春雷や人を恃まず街ゆけば」の句がある。
作者は馬酔木の売上金を集める為、毎月五日には大取次店を廻つて歩いた。


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百日紅ごくごく水を呑むばかり       波郷

百日紅は七月から九月末まで、だらだらと花を続ける。「百日紅いつまで燃
ゆるラヂオの歌」の通り。この句は酷暑八月の作。ごくごくがすさまじく効いている。


「波郷句自解―無用のことながら―」(有)梁塵社 より

石田波郷・「波郷句自解」(十六)(十七)         高橋透水

2014年08月18日 | 俳句・短歌・評論・俳句誌・俳句の歴史
汗しつゝ菓子食へり人をもてなすと       波郷

昭和十三年。夏日客を迎へた、日常の友でない。いくらか心重い。重くゆ
るい調が句に出てゐれば、以て佳しとすべきか。


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小劇場かんかん帽を抱く一刻       波郷

ニュース映画全盛時代。忙しい生活、わづかな時間、新しいカンカン帽。小
市民的な、余りにも小市民的な生活風景。戦争の実態は未だ国民には感得で
きなかつた


「波郷句自解―無用のことながら―」(有)梁塵社 より


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石田波郷・「波郷句自解」(十四)(十五)         高橋透水

2014年08月14日 | 俳句・短歌・評論・俳句誌・俳句の歴史
夜桜やうらわかき月本郷に        波郷

昭和十一年馬酔木同人達で、上野浅草麹町氷川町等の夜桜を見て歩いた。こ
れは上野から不忍越しに本郷の夜空を眺めた作、「本郷」といふ語感とうら
わかきといふ言葉はやゝ安易だ。

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寒林のガソリンにほふ方落暉       波郷

昭和十二年。かういふ名詞が幅をきかせた叙法は好まぬ。「寒木にひとをつ
れてきて凭らしむる」「夕映えて常盤木冬もあぶらぎり」と共に出来た。所謂
俳句臭を斥けんとする労作が見える。

  「波郷句自解―無用のことながら―」(有)梁塵社 より

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石田波郷・「波郷句自解」(十二)(十三)         高橋透水

2014年08月05日 | 俳句・短歌・評論・俳句誌・俳句の歴史

犬若し一瞬朱欒園を抜け        波郷

虚子に「われが来し南の国の朱欒かな」の句がある。さういふ南の国の朱欒園の一家族を連作にした一句。子供に大きな乳房を与へてゐる母の背景に緑濃い一樹が朱欒をちりばめてゐる。


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 雪嶺よ女ひらりと船に乗る        波郷

前句を絵画的とするとこの句は映画的といふところか。この「女」がどんな女か、雪嶺せまる河に、今一隻の汽動船が煙をあげ纜を解かうとしてゐる。雪嶺よの「よ」が面白い。この年は創作が多い。

「波郷句自解―無用のことながら―」(有)梁塵社 より

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