社長ノート

社長が見たこと、聞いたこと、考えたこと、読んだこと、

春秋 日本経済新聞

2015-04-12 09:03:17 | 日記
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 一夜で村が消える。数家族が集団で蒸発する。田畑の耕作をやめ、家屋敷を捨てる。都会に出て、雇われ仕事に就く。あとには、荒れた土地が残る。中世から江戸末期まで、農村で見られた逃散(ちょうさん)の光景だ。重税に苦しみ、凶作や飢饉(ききん)などで追い詰められての行動だった。
 最近の研究によると、年貢が軽いなどの好条件や豊かな生活を求めての移住「走り」も多かったらしい。大事な労働力が減ると、収入も減る。藩主や領主は、来る者を年貢軽減などで積極的に迎え入れ、去った者はどこまでも追いかけた。返すように他の領主とも交渉したという(宮崎克則著「逃げる百姓、追う大名」)。
 いまは民主主義の世の中だ。自分たちの手で知事や市長を選べる。政策も変えられる。住民は逃散や走りなどの行動にでなくてもすむ。だが、町や村はゆっくりと消えていく。少子化などで人口が減少しているからだ。将来は、日本の市区町村の半数が消滅する可能性があるとの試算もある。地方経済の疲弊も進んでいる。
 事態を変えるはずの政治が劣化している。知事、市長は多選が多く議員はなり手が少ない。統一地方選は好機だが、最近の投票率は5割前後と関心が薄い。1947年4月の第1回は7割を超えていた。占領下、自治への期待が大きかったのだろう。自ら地域に活力を取り戻す。その思いを込めた一票を今日こそ投じたい。

天声人語 朝日新聞

2015-04-12 06:56:02 | 日記
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 草が青む季節である。草摘(つ)みといい草笛といい、草という響きはどこか牧歌的で明るい。松任谷(まつとうや)由実さんに「まぶしい草野球」という歌がある。ちょうど今頃の季節だろう、♪まだ季節浅く 逆もどりの天気もあるわ……とリズムは軽快だ。
 桜が咲いて散り、野辺も日に日に青んでいく頃だが、ここ数日は思わぬ寒さに驚かされた。逆もどりの天気である。「風の3月、雨降る4月」などと英語にも言い、春の空は定まりにくい。
 いわゆる菜種梅雨だろうか、4月に入って天気予報には傘マークが並ぶ。そんな中、きょうの日曜は晴れる地方がほとんどだ。「お出かけ日和(びより)」とお天気キャスターは微笑(ほほえ)むが、おっと、忘れてならないことがある。
 統一地方選は、10の道県知事と41道府県議などの投票日である。この先4年の身近な政治を選び取る日だ。支持する候補がなければ「マイナス比べ」で選ぶ手もある。棄権では何も変えられない。
 近年は、地方議会の低調ぶりが目につく。号泣県議ありヤジ騒動あり。政務活動費はずさんに使われ、行政へのチェックは甘く、政策立案も乏しいと指摘される。緊張感と責任感の緩さを、私たちの無関心が助長する。
 草の話に戻れば、草相撲や草競馬など、「草」には本格的ではないものという意味がある。草野球なら下手もご愛敬だが、地方自治を担うべき議会に「草」をつけたくなる事態は困る。手元の1票で人を選び、清新な地方政治の種をまきたい。「まずしい草議会」はごめんである。