精神世界と心理学・読書の旅

精神世界と心理学を中心とした読書ノート

『ブッダを語る』前田専学(NHK出版1996年)①

2007-05-06 13:10:27 | 仏教
副題に「ブッダの思想と原始仏教の魅力」とある。文章がたいへん読みやすいのは、NHKライブラリーの他の本と同様、もともとはテレビで放送された内容を元にしていることにも一因があるだろう。数多くあるブッダと原始仏教の解説書の中で本書の特徴は、ウパニシャッドを初め、様々なインド思想との関連や影響関係にかなり触れながらブッダの思想を紹介していることだ。私自身そうした関心が深いので興味深く読める。

たとえば、「無我」説は、仏教の中心思想のひとつといってもよい。しかし、もし仏教が「無我」説を積極的に主張するのであれば、では輪廻の主体は何であるのか、という大問題が生じ、事実、その後の仏教思想は、この問題をひとつの中心として展開したといってもよいという説があるくらいだ。

ところが著者によると、もともとブッダには、哲学的、形而上学的な議論はせずに、解脱への実践を重視するという姿勢がある。これはよく知られた事実だ。「無我」についてもブッダ自身は、哲学的な議論はしていない。初期の無我説は、「執着、とくに我執を捨てること」を意味するという。

また「アートマン」についても、真実のアートマンを追求することを積極的に勧めているという。それゆえ、「アートマン」の存在を否定するという意味での「無我」が主張されるのは、ブッダよりも後の時代の議論であるという。ということは、少なくともブッダその人に関しては、「無我」説と輪廻思想との矛盾というような問題自体がそもそも存在しなかったということか。とても興味深く読んだ。


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