精神世界と心理学・読書の旅

精神世界と心理学を中心とした読書ノート

日韓いがみあいの精神分析

2010-02-21 21:45:30 | 心理学全般
◆『日韓いがみあいの精神分析 (中公文庫)

『日本がアメリカを赦す日』にしても、この本にしても、私が興味をもって読むのは、心理学や心理療法への関心の延長上で歴史や社会を読み解くことができるからだ。こういう視点からズバリと社会現象をえぐる著者はあまりいないし、その分析力も鋭く興味深い。

日本列島にひろく縄文人が分布していたところへ、稲作技術をもった弥生人が大陸から九州へ、そして徐々に東進して関東地方にまでいたった。そして大和朝廷が成立する。私たちはみな多かれ少なかれ縄文人と弥生人の混血であり、日本国家成立 の基盤において朝鮮半島から渡来した人々と文化が密接にからんでいるであろう。

にもかかわらずそれを打ち消そうした無理が、日本人の心理にゆがみを与えている、とくに韓国人に対する心理に。日本人の差別意識についての岸田の分析をまとめよう。

キリスト教は、ユダヤ教の一分派だが、キリスト教徒はユダヤ人を長く憎み続けている。誰しも自分の本当の起源が嫌いなのである。自分の独自性を損なうからである。

日本人は、建国の時以来、朝鮮とのつながりを否認し、純粋な日本人という幻想をもつことで日本を建国した。そのような幻想と否認によって、自己のアイデンティティを保とうとするとき、否認する相手への差別意識が必要となる。

しかし、差別意識には時代によって強弱の波がある。外圧のなかった江戸時代には、外に向かってアイデンティティを強調する必要もないから、差別意識が強まったとは考えにくい。韓国人への差別意識が強まったのは、明治以後ではないか。ペリーに開国を責められて屈したために、ヨーロッパ人への劣等感が生まれ、その補償として自分より劣等と思える存在が必要となった。それが韓国人やアジア人全体への差別意識につながったのだ。韓国人に対しては、自分の起源を否認したいという心理も働き、二重の意味で差別 意識が強くなったのだろう。

我々の心のなかには、欧米人への劣等感と、その裏返しとしての、非欧米人への優越意識とが共存する。自分がアジア人であることも忘れて、経済的な発展などを背景に優越感に浸る。これは、個人心理が、そのまま集団心理ともなる、きわめて普遍的な心理現象だろう。

民族差別の問題は、個人の差別意識がそのまま国家レベルの差別意識に連動し、歴史の流れに影響していると考えて間違いない。いや、国家レベルの経験が個人の意識に反映していると言うべきか。

岸田の分析は、全体として日韓関係や、日本の対アジアへの姿勢を考えるうえで大いに参考になると思う。それだけではなく、我々一人 一人のなかにある差別意識を自覚化し、その根元にどんな経験が横たわっているのかを知るうえでも貴重な分析だと思う。個人個人が、自分の無意識に根ざす差別意識を自覚化し、解消していかない限り、国家レベルの問題の解消も困難だろう。岸田の仕事は、もっともっと議論されてよい。