銀河夜想曲   ~Fantastic Ballades~

月が蒼く囁くと、人はいつしか海に浮かぶ舟に揺られ、
そして彼方、海原ワインのコルクに触れるを夢見、また、眠りにつく……

孤独

2015年05月12日 23時44分48秒 | 散文(覚書)
私達は別れる瞬間に固く握手した
強く握手をした
吹き付ける風雨が彼のがっしりとした手を
老いて尚若々しい手を
更に大きく見せる

タクシーは何かに拐われるように
私の知らぬ地へと走り去った

雨は容赦なく靴を濡らし
風は瞬く間に髪を逆立てる
生乾きの靴下を履くよりマシではあっても
胸のシャツが濡れゆくのは唾液を垂らした幼児のようで
私のこともいっそ何者かが拐ってくれればと
雨に紛れながら思うのだ

人は影のように私の前を
その後ろを静かに過ぎ去る
激しく降る雨の音だけが
先までの会食の記憶を呼び起こす

しかしそれもまた夢か
ひしゃげたポケットに彼との大切な会話をしまいこんだのに
もうどこかへ消えてしまった
たくさんの
たくさんの勇気をもらったはずなのに

左手に傘の全体重がのしかかる

孤独は所詮
自分のものでしかない
空の右手が虚空に浮かぶように

それでも私は風雨を睨みつけ
再び彼と会うのだと
一歩ずつ駅へと向かった
孤独が所詮
自分のものだけであったとしても



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