銀河夜想曲   ~Fantastic Ballades~

月が蒼く囁くと、人はいつしか海に浮かぶ舟に揺られ、
そして彼方、海原ワインのコルクに触れるを夢見、また、眠りにつく……

星々の回廊

2007年07月30日 02時45分30秒 | 散文(覚書)
もし君に星がつかめるのなら

寝ているあの子の耳元に そっと置いてやるといい

ドングリを妖精の帽子だと思っている 

あの子にね

下らぬ喧騒に巻かれていた あの子はもう

きっともう

泣かなくて済むだろうから



その小さい耳たぶに

星の生んだ

風の瞬きを受ける度に

あの子は しゅんしゅんと寝返りを打って

ひとつひとつの

新しい夢と握手するだろう



そのにじんだ汗の

喜ぶ歌が聴こえた時

また星をつかんで

あの子に持たせてやってほしい

掌に刻まれた若いシワを水路にして

星はまた

巡るだろうから



しかし やがて

少女は

「あたし」という言葉を捨てて

「わたし」になるだろう

少年は

「裸足」という力を捨てて

「寡黙」になるだろう



この足元に転がる砂と

あの天に散らばる星と

一体

どちらが多いのか 考えた事はあるかい

全体

どちらが尊いのか 考えた事はあるかい



砂は

夢を見終えた星の

亡骸さ

手に入れたくても入れられない夢に憧れている時 胸を踏まれると

砂は

キュッと泣くのさ



そうやって心の間に間に巡らせていくだけで

君は大きくなる

今君が見ている あの子は

君にとってかけがえのない

星の砂時計なのだから



あの日吊るした てるてる坊主は

降るはずだった雨の

無上の単旋律を

この海の底に降らしている

あの日からずっと

人知れず

これからも



それを知っているのは

君の胸の中にある

逆さのてるてる坊主だけだ

それを痛感してばかりなのは

波打ち際で漂うしかない

君の

てるてる坊主その人さ



夢を見終えた星を目にしたら

あの子の輝かんばかりに匂い立っていた唇は

キッと真一文字に結ばれてしまうだろう

奇跡的に晴れたあの日の

一瞬一瞬の想いの嵩を忘れてしまうだろう



深く時の刻まれたその手で

どうぞ拾い上げ

光の指南する欄干に

吊るしておくれ



いいや

今はまだ

そんな贅沢は言わないでおこう



どうか

つまらぬコショウを振りかけて

目を醒まさないで

迷妄と化した雨を避ける傘は

波と戯れるてるてる坊主の足元に

これからも

その砂の中に埋まっているのだから



ごらん

あの子の手の中で

君の差し出した星が生まれ変わっているよ



けだし

空に海が移され

そうして海に

恒久の空は映されるだろう

あの子の瞳に

語り継がれながら




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6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (夜毎屋)
2007-07-30 21:21:39
今日の詩は何だかとってもロマンチックですね♪

>あの日吊るした てるてる坊主は
降るはずだった雨の
無上の単旋律を
この海の底に降らしている
あの日からずっと
人知れず
これからも

改行詰めてすみません、このあたりに音楽的なフレーズを感じました。
夜毎屋はちゃんと詩の読めない人ですが、ショパンⅢ世さんの言葉の選び方には何か豊かなものを感じます。
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夜毎屋さんへ (ショパンⅢ世)
2007-07-30 23:48:49
この散文は以前より部分的にはできていたのですが、なかなか完成に至らず、昨夜、“ 星をかった日 ” というアニメ作品(ジブリ美術館でのみ上映される短編映画)のサントラを聴きながらようやく仕上げました。ですので、当初僕がほんのり思い描いていたものとは様相が変わり、それでいて、その映画とは違った世界観が表出できたのでは、と自負しています。


>このあたりに音楽的なフレーズを感じました。

そのような感想を頂けると、とても嬉しいです♪
僕がクラシック音楽を愛聴する理由の1つに、文字と文字の隙間に音を潜ませる、あるいは文章そのものに音楽を宿したいからというものがあります。今回は、サントラを聴きながら書いた効果もあったかもしれませんが…。
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Unknown (Minnesingerin)
2007-07-31 21:35:30
>もし君に星がつかめるのなら
>寝ているあの子の耳元に そっと置いてやるといい

まず、冒頭の二行に引き込まれました。
凄くインパクトが強くて素敵な出だしだと思います。

>砂は
>夢を見終えた星の
>亡骸さ

も、素敵です。

ただ、「星」と「砂」のモチーフが強烈なので、さらに「てるてる坊主」「雨」「傘」というモチーフが次々と現われると、読み手(少なくとも私)の意識が拡散していくように思いました。
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Minnesingerinさんへ (ショパンⅢ世)
2007-08-01 23:03:56
コメント、ありがとうございます♪


>読み手の意識が拡散していくように思いました。

そうですね。長めの文になってしまったために少し焦点が定まっていないかな、と書きながら思いました。本文は後々、2つに分けて書き直すかもしれません。


mixi で即興の物語を載せた時もそうでしたが、こうして素直な感想を頂戴できると僕も嬉しいです☆
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お誕生日、おめでとうございます♪ (ciapooh)
2007-08-02 17:43:34

 > 少年は 「裸足」という力を捨てて 「寡黙」になるだろう

 寡黙になった青年は、こうして詩を綴る?
 ついショパンⅢ世さんと 重ねてしまいました。
 
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ciapoohさんへ (ショパンⅢ世)
2007-08-02 19:16:04
コメント、ありがとうございます♪


>少女は
>「あたし」という言葉を捨てて
>「わたし」になるだろう

>少年は
>「裸足」という力を捨てて
>「寡黙」になるだろう

この辺りもまた、そのまま捉えて頂いても隠喩として捉えて頂いても構いません。


僕のようなタイプは、歳を経る毎に寡黙にならざるを得ないかもしれません(笑)。
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