銀河夜想曲   ~Fantastic Ballades~

月が蒼く囁くと、人はいつしか海に浮かぶ舟に揺られ、
そして彼方、海原ワインのコルクに触れるを夢見、また、眠りにつく……

BWV.853

2015年04月27日 03時45分14秒 | 散文(覚書)
揺れるロウソクの向こうに
ピアノを弾くあなたの影が見える
二時を過ぎても眠れぬ私のために
あなたは俯いたまま
バッハを奏でてくれる

吐息は月を隠し
群青やら青紫色に縁どられたメロディーが
静けさを嘆くように
仄かに香る

旋律は幾重ものカーテンとなって
あなたと私とを遠ざけては
また透かしてみせる

揺らめく炎はあなたの影を刻み
その心臓に
音を失ったメトロノームを植え付ける
バッハだけがこの部屋の看守なのだ

古の旋律の行方は泉の中でも
月の昇った丘の上でもない
楽譜と共に
作曲した主の森へと帰るだけだ

バッハを弾き終えたあなたは楽譜を開いたまま
ピアノもそのままに立ち去った
何かの焦げる気配だけが鍵盤を滑る

馬車が迎えに来たのだ
彷徨い人を乗せた馬車が
森を燃やしながら迎えに来たのだ

風に楽譜がはためいて
ロウソクの炎が移っていた
私の瞳に
あなたの影法師が写っていた




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