私の足の親指と第二指の間には豆粒ほどの空間がある。
これは、幼いときは、
ワラぞうりや鼻緒のあるゴムぞうりを履き、
長じてからも、下駄など、
鼻緒のある履物を多く履き続けたからである。
日本人なら皆そうだと云えばそれまでだが、
高齢者ほどその特徴は顕著だと思う。
きょう、
現代から戦前戦後へタイムスリップする小説を読んでいたら、
「千日履き」と云う文言に、突然のように出会った。
その瞬間、サーッと幼い記憶がよみがえり、
「ああ、そうか」と気がついた。
幼いころ、
「センニチバキ」と呼んでいたカチカチに堅いゴムぞうりは「千日履き」だあったかと。
もうそんな言葉も鼻緒付きゴムぞうりのことも忘れていたのに、
その言葉ひとつで、
川遊びや田舎の風景が脳裏に浮かぶのだから、
幼いときの記憶と云うものは、
シャツに沁みこんだ醤油の跡のようにしぶといものらしい。
それにしても、
浅田次郎さんの小説には、
惚れ惚れするほど「いいおんな」が出てくるなぁ。
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「地下鉄(メトロ)に乗って」
浅田次郎/著
小さな会社の営業マン真次は、
長らく絶縁状態にある父が倒れたという知らせを受けたその日が、
若くして死んだ兄の命日だと気付く。
帰路を急ぐ真次が、
地下鉄の構内から地上へ出ると、
そこは、東京オリンピック直前の昭和の東京・・・。