歴史書には、
過去に起こった戦いや政変、あるいは権力闘争などは豊富に記されているが、
普通に生まれて、普通に生きて、普通に死んでいく、
圧倒的多数である“普通の人々の暮らしぶり”を見ることはなかなかにむずかしい。
その点、外国から来た人々の記録を読むと、
日本人にはありふれた事と見過ごす内容まで、
こまごまと記されていて、貴重な日常の記録となっていることが多い。
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世界じゅうで、日本ほど流血に浸ってきた国はありません。
(中略)
人は恐ろしい火山の爆発や、地震や、破壊的な洪水のことを耳にします。
たとえば、たった今も、洪水が南国地方の村々を荒地にし続けています。
そのあたりではあまりの雨で酔わされた川という川が、すっかり発狂しているのです。
でも日本の農民たちは、悲嘆にくれることもなく、
土が固まればただちに、にこにこして自分の小屋を建て直しています。
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「英国公使夫人の見た明治日本」は、
当時の最先進国イギリスから、
夫の赴任とともにやってきた、
今で云う、大使夫人が、祖国の知人に送った書簡集です。
その中には、明治日本の自然風景や年中行事、
顕官は勿論、庶民の暮らし振りまでが、流麗で格調高い文章によって描かれている。
ことに日本の子どもたちへの描写は、
彼女のその優しいまなざしとともに、生き生きとしていて、楽しい。
上にあげた文章は、
災害国日本の悲惨に同情を寄せながらも、
人々がそれを「日常」として受け入れている逞しさに驚きと感嘆を示している。
この本では、
もはや、今の日本では見つけにくくなった人情や風俗が細密に描写されていて、
タイムマシーンに乗って、
見知らぬけれど、懐かしい、
「明治と云う日本」を訪れているような気持ちにさせてくれます。