漫筆日記・「噂と樽」

寝言のような、アクビのような・・・

11月11日の山頭火

2020年11月11日 | しみじみした話

昔は、
私の育ったような山村にもよく乞食坊主が回ってきた。

門口に立ち、
チンチーンと鈴(りん)を鳴らしお経らしきものを唱える。

米を小皿に掬い、
頭陀袋に入れると片手拝みに一礼して去ってゆく。

自由律の俳人、
種田山頭火もそのようにして旅をしたらしい。

 ※【頭陀袋】ずだぶくろ
    僧が修行の旅をするとき首にかける袋。

そんな日々を記した日記、
「行乞記」昭和五年11月11日の条から抜粋してみる。

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山峡は早く暮れて遅く明ける、

九時から十一時まで行乞、

かなり大きな旅館があるが、
こゝは夏さかりの冬がれで、
どこにもあまりお客さんはないらしい。

 枯草山に夕日がいつぱい

 しぐるるや人のなさけに涙ぐむ

 山家の客となり落葉ちりこむ

 夜半の雨がトタン屋根をたたいていつた


今夜は飲まなかつた、

財政難もあるけれど、
飲まないでも寝られたほど気分がよかつたのである、

それでもよく寝た。

繰り返していふが、
こゝは湯もよく宿もよかつた、

よい昼でありよい夜であつた
(それでも夢を見ることは忘れなかつた!)

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山頭火は、
大地主の家の長男として生まれたのに無一物で生涯を閉じた。

享年58。

彼が今のように有名になったのは、死後数十年も経てからである。

 

 


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