川柳作家の
時実(ときざね)新子さんのお母さんは、
長らく姑からいじめ抜かれ、散々に苦労を重ねた人だそうですが、
ある時、その姑さんが倒れて動けなくなった。
当時女学生だった新子さんは、
「さぁ、これからはお母さんの仕返しが始まるぞ」と思ってドキドキした。
処が、お母さんは、真心こもった看護で義母に接する。
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勤めから帰った父が襖(ふすま)を開ける。
たまにオムツ替えの場に行きあわせたりすると、
「ただいま」より先に
「うっ」と鼻をおさえて逃げ出すしまつである。
父は母に「すまん」と言い、
「それにしてもあんたはあの臭さによう辛抱できるなあ」と感に堪えないふうであった。
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お母さんは、
子供の新子さんが照れるぐらい、
お父さんを「死ぬほど愛していた」のだそうで、
「夫の喜ぶ顔が見たくて」
看護をしていたのかもしれない、と、時実さんは書いている。
そのお母さんが亡くなったとき、
お父さんは遺体を抱いて号泣し、
「仏前の座布団が凹むほど」恋い慕ったすえ、
10ヵ月後にお母さんの処へ旅立たれたのだそうである。