広島に原爆投下されてから、今日でちょうど70年目となる。毎年8月6日は式典がTV中継され、メディアは追悼と反戦平和の誓い一色となる恒例行事の日でもあるのだ。日本の反核平和運動が実は、中韓朝と連帯する左翼の擬態であると見なす日本人もいるが、反核平和運動家のスローガンは決まって、「ヒロシマを世界へ」。
では、ヒロシマを世界がどう見ているのか?『イスラーム世界の論じ方』(池内恵著、中央公論新社)の第1章はズバリ「アラブが見たヒロシマ」というコラムで始まる。このコラムは元は『日本はどう報じられているのか』(石澤靖治編著、新潮選書)に収録されていたもので、原題は「アラブは「ヒロシマ」をどう理解したか」。執筆されたのは2003年11月7日だが、池内氏の考察や分析は全く古びていないと感心させられた。
先ず、アラブで日本はどう報じられているのか、と問われれば、「殆ど報じられていない」というのが池内氏の回答である。アラブ諸国の新聞・雑誌が日本に割くスペースや、ТVが日本について放映する時間は微々たるものでしかない。アラブの新聞で日本に関する言及を探すためには、目を皿のようにして何日分も見続けなければならないという。イラクへの自衛隊派遣を巡ってさえ、派遣の実際の規模や目的、日本の政治的・歴史的経緯などを伝えてくれる報道は極めて少ないそうだ。
日本への言及が一般的に少ない中で、例外的に継続してメディアに登場するのが「ヒロシマ・ナガサキ」。アラブ世界で道行く人と話してみれば、先ず「何処から来た?」と問われるが、「トーキョーか、それともヒロシマか、ナガサキか?」と問われるのが普通と池内氏はいう。一般庶民が知っている日本の都市名というと、ほぼこの3つに限られるとか。
結果からは広島と長崎への原爆投下について、中東諸国全般で関心が高いようだが、民族主義によるクーデターや革命を経験、政権が反欧米のスローガンを国内外に掲げ続けている諸国の新聞報道では、特に頻繁に取り上げられるらしい。池内氏は顕著な例として湾岸戦争後のイラクを挙げており、国営ТVでは連日アメリカの非道、残虐さを訴えるビデオが延々と流されており、その中心となり、クライマックスとなるのが原爆映像だったという。
同時期、対外政策として親米路線を取っていたエジプトでさえ、政府系の最有力紙『アフラーム』ではほぼ毎年、8月6日の広島の「平和記念式典」を報じている。例えば2002年には長めの記事に加え、原爆ドームを背景に鳩が放たれる写真、小泉純一郎首相(当時)が花輪を供える写真が付されていた。
「ヒロシマを世界へ」は日本の知識人の大半が賛同する、戦後の平和運動の主要スローガンであり、この意味では「ヒロシマ」という言葉は確かにアラブ世界に伝わった。だが日本人が「ヒロシマ」を通じて訴えているものとされてきた平和主義が伝わっていたかというと、かなり疑わしい、と池内氏は断言する。その根拠として様々な例を挙げていく。顕著な例として、ビン・ラーディンの有名な発言を取り上げている。彼が2001.9.11テロ事件に先立つ時期、インタビューに答えたものだ。
「アメリカこそ核兵器を保有し、極東のナガサキとヒロシマで人民を攻撃したのだ。既に日本が降伏し、世界大戦が終わりかけていたにも関わらず、子供も女も老人も一緒にした、人民全体の攻撃に固執したのである」
ビン・ラーディンはこれを以って、アメリカ人に対するジハードを行うことを正当化する根拠とする。「ヒロシマ」はここで、好戦的主張への批判を退け、躊躇を取り去るための切り札として使われている。「これは特殊に好戦的で異常な精神状態に置かれた人物の発言であって、アラブの民衆はこのような議論を支持していない」と言った解説は、9.11事件以降の日本では支配的なものだった。
しかし、このような解釈は外交的な友好関係を維持するための「タテマエ」としては適切かもしれぬが、アラブ諸国に広く浸透している常識的な「ヒロシマ」理解を持ち出して、自説を補強しようとしているものと理解するのが妥当だろう、と池内氏は述べる。
2013年8月、ダニエル・シーマンなるイスラエル高官が原爆追悼式典について、「日本による侵略行為の報いだ。独り善がりの追悼式典はうんざりだ」とフェイスブックに書き込んだことがあった。イスラエル知識人の原爆観の典型でもあるが、アラブ諸国のメディアで盛んに取り上げられていたこと、それへの苛立ちも背景にあったのだろうか。
その二に続く
◆関連記事:「核兵器とモサド」
「原爆とТVドラマ・ホロコースト」
短波放送でまともにきくにはけっこうちゃんとした設備が必要になります。
8月5日のログ(受信記録)を参考に。
イランイスラム国際放送 2015年8月6日 木 0550〜0650(前日8月5日の再放送) 11695kHz 44443
ヒスノイズがのっているのかややききにくい
0550くらいから音楽
0554 国歌 福本アナウンサー柴田アナウンサー 2015年8月5日 イラン歴1394年モルダード月14日 イスラム歴1436年シャンワール月19日
ラジオ日誌 ケーベリー・スタッフ 親族の急死
テヘラン 晴れ 36−25度
0557 コーラン 2章
0600 放送時間と周波数アナウンス
0601 ニュース
イタリア代表団がテヘランでイランの政府高官と会談
広島と長崎の原爆の日の式典の開催準備がおこなわれている。
日本の安倍主修がアメリカの日本に対する盗聴について調査をアメリカのバイデン副大統領に要求した。
イランの国会議長がイスラエルのアサド政権の基盤は人権に反するものだと非難した。
イランのジャハンギリー副大統領がイランは外国投資を受け入れる準備があるとのべた。
アフガニスタン東部へのアメリカ軍無人機攻撃により95名が死亡した。
ドイツ人720人がISISにくわわっていることをマイセン長官があきらかいにした。
パレスチナ捕虜問題委員会がイスラエルに200人18歳以下の少年を刑務所にいると非難
フットサルクラブ選手権で準々決勝でイラン ターシーサート・ダルウーイが名古屋オーシャンズに勝利
マサージリー氏が日本のアドバイザーコーチで活躍しているがイランの要請があればまっさきにもどるとのべた。
0613 ニュース解説
暴力のない世界 イランの原則とする政策
4日ローハニー大統領の発言
0618 本日のトピック
広島の原爆の日式典について
0621 おしらせ
メールアドレスの変更 japanese@irib.ir
0622
イランにつたわる民話と伝説
千夜一夜ものがたりのシャフルザードと女性の地位
アブジ
ールとアブシールの物語
0635
イスラムへの理解
経典をもつ預言者とその特徴
イランイスラム共和国が日本放送を行っているのは当然でしょうね。あの国も反米が国是なので、広島・長崎をクローズアップするのは想像がつきます。池内恵氏もイランのプロパガンダの上手さを指摘していました。イランはサファヴィー朝時代から対オスマン帝国プロパガンダを行っていたし、宣伝戦をしない中東諸国はないと思います。
そして8月5日のログ(受信記録)の紹介を有難うございました!ドイツ人720人がISISに加わったそうですが、池内恵氏によれば、ISISに加入した欧米人改宗者のことを組織が殊更強調する傾向があるとか。これも宣伝戦のひとつです。
「暴力のない世界」「イスラムへの理解 」を訴えるのは流石というか…コーラン2章にはこんな節があります。
2.それこそは、疑いの余地のない啓典である。その中には、主を畏れる者たちへの導きがある。
6.本当に信仰を拒否する者は、あなたが警告しても、また警告しなくても同じで、(頑固に)信じようとはしないであろう。
7.アッラーは、かれらの心も耳をも封じられる。また目には覆いをされ、重い懲罰を科せられよう。