もう一夜だけ時間が欲しいんだ。僕はいつまでも待つから。

あんなに暑くて魘された夏は、
狂乱の宴のようにあっという間に過ぎていって、
跡形もなく消えてしまったかのよう。

そしていつの間にか気温は下がり、世界は紅く、
メランコリックとロマンティックに彩られ、
夜は長くなっていく。


そんな夜のざわめきから。


ふとしたきっかけでつけてしまったＦＭラジオ。
そこから流れてきた懐かしい曲。
私は不意をつかれて聞き入ってしまう。


「もう一夜だけくれないか？
　せめてもう一夜だけ、
　あと一夜だけ一緒にいたいんだ。
　いつまでも僕は待つから。」
　　　　　　　（Phil Collins "One More Night")


さまざまなことに対して、私は涙を流す。

私に向けての涙であり。
あなたに向けての涙であり。
誰かに向けての涙であり。


それでも私は、ただ待つんだ。
ひたすら。


「だって今夜こそ何かが起こるような気がするんだ。
　僕はずっとこの瞬間を待っていたんだから。
　ほら、今夜こそ何かが起こりそうな気がするだろ？
　この瞬間をずっと待ち構えていたんだから。」
　　　　　　　　（Phil Collins "In The Air Tonight")


空気を震わさない声を使って、私は叫ぶ。
意味のない単語を羅列して。
感情のこもらない抑揚を使って。

待つことに慣れ過ぎて、
あきらめて、
退屈で、
もてあまして。

それでも夜はゆっくりと過ぎていく。
秋は始まったばかりだから。


夜は怖い。
窓の外の自分を映し出す。
昼間は隠しているはずの、
独りになってる自分を映し出すから。

だから私は涙をこらえなくてはならない。
窓の外の自分に笑われないために。
窓の外の自分を笑ってやるために。


好きだと言う言葉は未だ宙ぶらりんのまま、
言霊のたどり着く行き先が見つからないまま、
中途半端な愛情と欲情を抱えたまんまで、
今年も秋が始まります。




そしてたぶん、すぐに冬。