沖縄では戦時中、一切の歌と踊りを禁じられたそうだが、
オジイとオバアたちは兵隊に隠れて、歌って踊って、
過酷な状況の中でみんなで励ましあったという。
それから60年以上。
沖縄特有の歌と踊りは固有文化として、今も息づいて、
そして日本中の人々の心に染み込んできている。
そんな中、6年前に沖縄ミュージックの重鎮でもあるBIGINが、
6月24日を「うたの日」と定めて沖縄地方でイベントを行うようになり、
6年を経て、ついに東京でも「うたの日」が行われることになったのです。
本日、CLUB QUATTROで行われた「東京うたの日」2日目に
行ってきました。
目的は「向井秀徳アコースティック&エレクトリック」だったんだけど、
正直、渋谷に着くまではそれほど楽しみってわけでもなかったんだけど、
結果として、今年参加したイベントの中でも確実に5本の指に入る、
素晴らしいライブでありました。
整理番号が20番台ということもあり、
頑張って1時間前の開場時から乗り込んだおかげで、
前から3列目の真ん中というベストポジションに座ることが出来ました。
…そもそもクアトロで椅子席を用意していること自体、
今までほとんどなかったとおもうのだけど。
それだけで何だか今日のライブの「いつもと違う感覚」に満ちてき始めて。
1時間ボーっと待ってたら、ついに開演。
今回は4人のアーティストが参加しました。
そのうち知ってるのは向井秀徳だけで、あとは全然知らないアーティスト
だったんです。エンケンも名前は聞いたことあるけど…程度。
・トップバッターは、下地勇
宮古島出身のアーティストで、ほぼ全ての極を宮古島の方言
「宮古口(ミャークフツ)」で歌い上げてました。
…ミャークフツ、全然日本語に聞こえない…。
沖縄地方でも、沖縄と石垣と宮古で全然方言が違うそうで、
特に宮古は文字表現しづらい発音もあるらしい。
で、そのうたはもう完全に異国の言葉。
フランス語っぽくも聞こえるし、モンゴル系な感じもあり、
一方でラテンのような感じもあって。
特に、ギターをかき鳴らして宮古口を立て続けに奏でるその姿は、
まるでメキシコのマリアッチのようにも見える。
そのあたりの源流は同じなんじゃないかと錯覚してしまう。
決して洗練されている訳じゃないけど、
歌詞はほとんど全く判らないんだけど、
歌詞とか意味とかを超えたものがストレートに、
ダイレクトに私の心に突き刺さってくるような、そんな感覚。
それはある意味「うたの原点」を聞かされているような感覚で。
だからこそ、唯一歌った標準語の歌「息子よ」が、その歌詞もあいまって
余計観客に突き刺してきて、
たった1曲ですすり泣く声があちらこちらから。
これこそうたのちから、なんだろうな。
かなり「ミャークフツ」に感動してしまった。
心なしか、海の匂いと波の音が聞こえるようで。
外に出ればすぐに沖縄の渚なんじゃないかと思ってしまうほど。
宮古島。
ぜひ一度行ってみたいものだと、強烈な欲求を感じている。
・2番手は、イノトモさん
…出てくる直前まで、男の人だと思ってました。
だって、「イノトモ」って名前の響きが男系じゃん?
出てきたのは可愛らしい女性で、
ウクレレとエレアコっぽいアコギを使って歌うのは、
これまたちょっと不思議な感じの、ホンワカとした男の子女の子のうた。
あったかーい感覚で、こういううた凄く久しぶりに聞いた気がする。
ちょっと春先のぽかぽかしたときとかに聞いたら、
少年時代とか思春期の思い出にすぐにTRIPしちゃいそうな。
なので、結構目を閉じて聞き入ってしまいました。
ただなんとなく歌詞が想像力お任せな感じだったような…。
歌手活動の中で、幼稚園や保育園でライブ?もやってるそうな。
NHK教育の番組のEDテーマも歌っているという。
なるほど、よく判る歌風。
だけど、一方で、そのギターの弾き方には確実にロックの響きが。
意外とこの人も「かき鳴らして」いたような。
全くうたの方向性が違う二人が終わり、いよいよ待ちに待った人が登場。
・3番目はようやく来ました、向井秀徳アコースティック&エレクトリック
向井秀徳アコエレはこれで2回目。
今回は4組の中の1人ということで、
前回見た秋葉原GOODMANの時よりも短く、
期待していた自問自答もKIMOCHIもなく、
そういう意味ではあっさり終わってちょっと残念。
だけど、何よりもこんな間近で向井のうたを聞ける!
それだけでも不満は消えるってもんでさ!!
最初の「Crazy days,Crazy Feeling」から、
もう心と身体が震えまくって、
そして今回はじめて聞いた「WaterFlont」のアコエレバージョンが、
もうひたすらカッコよくて!
落ち着いた曲から激しい曲まで、
この人は前二人と違ってエフェクターを使いまくりながら
色んな効果を用いて多面的にうたに彩りを加えて、凄くバラエティに飛んでて。
まさにThis Is 向井秀徳。
ほんと、こんな間近で聞けるのはまさにアコエレならでは。
(ZAZENじゃ、正直「コンサート」にならないと無理だしな)
わずか40分程度の短いライブの余韻に浸ってると、
いよいよやってきた伝説の御大。
・「東京うたの日」の大トリは、エンケンこと遠藤賢司
友人に今日のこのラインナップの話をしたら、
「エンケン出るの!すげー!!」と、
純粋にうらやましがられたのは記憶にあったんだけど。
その理由が、よぉくわかりました。
そして、彼が「純音楽家」と名乗っている理由も。
もう、音楽って言うか「奇跡の音の集合体」って感じ。
「荒々しい」なんて言葉でさえ軽すぎるし、
「乱暴」とか「暴走」とか、そんな言葉で語るべきじゃない。
相応しい言葉が見つからないわ。
凄すぎた。
それまで観たものが何度か吹っ飛んだからね。
向井秀徳さえも。
そしてこの人、まもなく60歳なんだよ!
全くそんなこと感じられなかったんだけど。
40代後半ぐらいかと思った…。
愛用のギターはピックのこすれがはっきりと目立ち、
あまつさえ最後の曲では3弦がぶちきれるほどかき鳴らし。
歌う歌はまごう事なき「ロック」!
絶対に放送なんか出来るわけないけど、これこそ「フォーク」で「ロック」!
「ド・素人はスッコンデロォ!」なんて、ある意味観客や世間全てに
けんか売ってるようなものだし。
その一方で「死んじゃったお母さんの夢」をピアノ弾き語りやったときは、
そのうたもピアノの音も美しすぎて、哀しすぎて、
あちらこちらからすすり泣く音がはっきりと聞こえてきた。
たった1曲の弾き語りなのに!
さっきの「息子よ」よりも少ない歌詞なのに!!
これこそが、うたのちから、なんだろうな。
まざまざと見せ付けられました。
総合司会をしていたバンバンバザールのボーカルの方が途中で語ってましたが、
「うたのちから」って、歌詞とか、言葉とか、音楽とか演奏って言うもの
だけじゃなくて、
「雰囲気」とか、演者と観客、送り手と聞き手との「関係性」、
なんだろうなと、私も思います。
だからこそ、20年近くの日々、毎年毎年飽きずに懲りずに、
コンサートやライブに一生懸命出かけてるんだろうなぁと。
たった数時間の間、数百対1とか、数万対十人とか、
その間に出来る奇跡的な「関係性」が楽しくて面白くて、
素晴らしいから、人はうたに憧れ、うたに恋し、
うたをを求めるのでしょう。
そんなことを改めて思い知らされ、うたがよりいっそう大好きになれた、
そんなライブでした。
アンコールは4組が全員出てきて、エンケンの「東京ワッショイ」を…
熱唱?
んー。
熱唱というより、もはや「音の洪水」でしたな。
エンケンと向井さんが飛び跳ね擦りあげ、舞台も飛び出してたし。
観客も全員スタンディングで盛り上がってたし。
あともう1曲ぐらい、やって欲しかった気もするけど。
それでも予想外に最高の、初夏の渋谷のライブハウスの4時間でした。
うん。
俺も「うた」、頑張ろう。