愛語

閑を見つけて調べたことについて、気付いたことや考えたことの覚え書きです。

「Transmission」のテキストについて――(2)

2011-08-03 21:00:51 | 日記
 B2系統のテキストの最大の異同は第5連ですが、それ以外の異同については、聴き取りながら書き取るという歌詞カードの作成過程を考えると、lensesが relentless、timeが tideになっているなど、ある程度納得できる範囲のものです。B1系統の、詩集(A系統)との異同はそれで良いとして、B2系統のテキストでは、なぜここまで違ってしまっているのでしょうか。
 B2系統の録音のうち、この第5連のテキストに近い内容でイアンが歌っているのは、『スティル』所収のライブだけです。これは、1980年5月2日バーミンガム大学で行われたもので、イアンの最後のライブとなったものです。ここで歌われた「Transmission」を聞くと、B2系統の第5連と、ほぼ合っています。しかし、3行目についてはほとんど聞き取れないレベルです。
 シングル盤としてリリースされた「Transmission」の歌と聞き比べると、全く合っていません。『ザ・ベスト・オブ・ジョイ・ディヴィジョン』には、シングル盤とは別に、ライブバージョンが二つ収録されています(ジョン・ピール・セッションとBBCテレビ「サムシング・エレス」のもの)が、どちらもこうは歌っていません。第5連がこのバージョンで歌われているものが他にもあるかどうか、「Heart And Soul」、「Les Bains Douches 18 December 1979」「PRESTON 28 FEBRUARY 1980」に収録されているライブと、「Let The Movie Begin」に収録されているRCAのデモテープ(RCAからのデビューをみこして録音されたもので、「Transmission」の録音としては最も古いものになります。テンポは他と比べるとかなりゆっくりで、歌詞も聴き取りやすいです。そして、イアンの声はかなり高めです。「Let The Movie Begin」に収録されているインタビューの声はこれに近く、その後の“地を這うようなバリトン・ボイス”といわれる声との差がよく分かります)などで確認してみましたが、いずれも違います。
 実は、この1980年5月2日のバーミンガム大学でのライブですが、アニック宛ての書簡でイアンは「歌詞を間違えた」と書いているのです。

「ギグは最高だった、今まで見たことがない大観衆で、いつものミスがあちこちにあったことを除けば(僕が「Transmission」の最後の歌詞を忘れてしまったように)、みんな楽しんでいた。あの夜のナンバーは、僕たちの最近のギグの中では最高のものだったと思う。」(『Torn Apart――The Life of Ian Curtis』Chapter 20 p.251)

 バーミンガム大学のライブでは、イアンは「Transmission」の第5連の歌詞を間違えてしまったようです。たしかに、1行目と2行目は、第3連と殆ど同じ内容の繰り返しで、歌詞を忘れて戻ってしまったと考えられそうです。よく分からない3行目については、もしかしたらノリで適当に歌ってしまったのかもしれません。『スティル』は、そのライブを収録しているので、歌詞としてはそれを示す他ないでしょう。しかし、音源が違う(間違って歌っていない)『ザ・ベスト・オブ・ジョイ・ディヴィジョン』や『コントロール』のサントラ盤に掲載されるのは、明らかに間違いです。聴き取りによると思われる細かな歌詞の異同は、逐一示さなくても良いかと思うのですが(現在ネット上に出ている歌詞は詩集と合っているようですし)「Transmission」の歌詞カードに関しては、かなり大きな間違いなので、書き留めておこうと思った次第です。
 改めて、詩集のテキストを用いて「Transmission」を読んでみたいと思います。


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