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愛語

閑を見つけて調べたことについて、気付いたことや考えたことの覚え書きです。

「She's Lost Control」について――(2)

2010-04-21 21:07:12 | 日記
「She's Lost Control」には、「Atmosphere」のような深層心理の描写や、「Love will tear us apart」のような私生活を彷彿させる言葉はありません。

Confusion in her eyes that says it all.             彼女の瞳の混乱
She's lost control.                         コントロールできない
And she's clinging to the nearest passer by,         近くの人にしがみつく
She's lost control.                         コントロールできない
And she gave away the secrets of her past,         彼女は秘密を話す 
And said I've lost control again,                  “私 また制御不能”
And a voice that told her when and where to act,      行動を命じる声
She said I've lost control again.                 コントロールできない

And she turned around and took me by the hand and said, 僕の手をつかみ
I've lost control again.                       “私 また制御不能よ”
And how I'll never know just why or understand,       僕にはわからない
She said I've lost control again.                 “私 また制御不能よ”
And she screamed out kicking on her side and said,      叫び 勝手に動き
I've lost control again.                      “私 また制御不能よ”
And seized up on the floor, I thought she'd die.        急に動かなくなり
She said I've lost control.                     コントロールできない
(対訳は映画「コントロール」より)

というように、何故かわからないけれども《彼女が自分をコントロールできなくなってしまった状態》が抽象的に描写されています。一見、非日常的で空想で創った詩のようにも思えます。しかし、「She's lost control.」「She said I've lost control again.」というフレーズが淡々と繰り返される中、陰鬱な曲調とも相俟って、逼迫感や緊迫感のようなものが次第に感じられてきます。実体験を元に書かれたと言われると納得させられ、これは幻想ではなく、発作の描写なのだと実感します。
 そして、イアン自身も癲癇患者だったので、少女の姿は自身を映す鏡のように切実に捉えられていると思います。しかし、そうした心情や少女への同情、悲しみは表されていません。情感の無い無機質な言葉の中に、一体どれだけの思いが、自身の生命に対する切実な不安や恐怖がこめられていたのでしょうか。

 イアン・カーティスが書いた詩のいくつかの中には、次に挙げるように、とても率直な心情の吐露が見られます。

Mother I tried please believe me,           母さん 僕は頑張ったよ どうか信じて
I'm doing the best that I can              できる限りのことはやっているよ
I'm ashamed of the things I've been put through, 僕が成し遂げてきたことを恥じている
I'm ashamed of the person I am            僕という人間を恥じているんだ
(「Isolation」)

Try to cry out in the heart of the moment     突然心の底から叫びたくなる
Possesssed by a fury that burns from inside     内側から燃え上がる激情に駆られて
(「The Eternal」)
※「Isolation」と「The Eternal」の訳は『タッチング・フロム・ア・ディスタンス』をもとに、若干手を加えました。

 こうした表現は目につきやすく、わかりやすく印象的だったので、私は、詩はイアンにとって、心情を吐露するものだったとまず思いました。
 しかし、「She's Lost Control」のような詩の場合、詩の中では、内に秘めた激しい感情は表には表れず、まさに「制御」されているように見えます。イアンは、「彼女」と、そして自分自身の危機的な状況をひたすら冷酷に凝視しているように見えます。こうした詩を読むと、彼と詩の創作の関係は、単に自分の心情を吐き出すだけのものではなく、自分の感情、自分の存在を客観的に見つめるためのものでもあったように感じます。

 「She's Lost Control」には、12インチシングルの延長バージョンがあります。イアンの死後、1980年の9月に発売されています。この延長バージョンに付け加えられたフレーズには、イアンの心情が少し表れています。

I could live a littlt better with the myths and the lies,
    僕は作り話や嘘をついて 少しだけうまく生きることができた
When the darkness broke in, I just broke down and cried.
   心の闇が迫ってくると 僕はただ泣き崩れた 
I could live a little in a wider line,
    僕は好きな活動をして ちょっとだけ生きることができた
When the change is gone, when the urge is gone,
    変化が去ってしまうと 強い衝動がなくなってしまうと
To lose control. When here we come.
    抑えがきかなくなる ここに僕たちが来ると
(訳は『タッチング・フロム・ア・ディスタンス』より)

 最後の2行がよくわかりません。「To lose control.(抑えがきかなくなる)」は、発作が起こっている状態で、それは、《変化と衝動がなくなる時》――時間が止まっていて、自分の意志が無くなっている時だ、ということなのかな、と思うのですが、解釈に苦しみます。「When here we come」にいたっては、さっぱり分かりません。ただ、最初の3行までは、イアンの心情がよく伝わってきます。「彼女(癲癇の少女)」と「僕」は強い糸で結ばれているように感じます。「She's Lost Control」は、彼女とイアンの魂を歌った詩だと思うので、最後の1行の「we」は、イアンと少女なのではないでしょうか。


3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
lost control (tomk)
2014-10-07 22:14:52
私も彼(彼女)の、気持ちがわかります。精神病の発作が3年余り続きました。これは、発作を持っている者にとって、(私は、なんとかよくなりましたが)切実な問題です。歌詞の内容も、私は、とても人間的だと思いました。彼女に対する、思い、また彼女が彼(イアン)になっていたという恐怖感に似たものを感じます。面白いのは、彼女の友達に電話して、彼女の状態を伝えなくては、、、     のくだりです。  これには、複雑なものを感じます。どう複雑か、、、?彼女を助けたい気持ちと自分との比較?だから、He's lost control かもしれませんね?長々すみません。このブログはおもしろいので、ぜひ続けてください。
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Unknown (管理人)
2014-10-13 11:42:54
tomkさん

長期間更新が滞っているブログにこのようなコメントをいただき、ありがとうございます。考えさせられる内容で、とても参考になりました。

もともと英語に自信がなく、ブログを書いているうちにいよいよ 「これでいいのか」 という気持ちになり、そうこうしているうちにすっかり時間がたってしまいました。

ブログを放置している間にもいろいろと……なんというか生老病死だとか無常だとか、そんなことを身近に感じさせられる経験があったりして、そんな時にふとイアン・カーティスの詩が思い浮かび、「ああ、あれはこういうことを言ってるんじゃないのかなあ」 なんて考えたりすることがありました。 まとまった形にできれば、また読んでいただきたいと思います。 
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lost control 2 (tomk)
2014-10-14 01:31:09
返事、ありがとうございます。アマゾンのレビューにも、書いたのですが(かなりくだけて」)。イアンは、普通の感覚と、普通ではない感覚(自分しかわからない)で、いきてきたのではないか、と(あくまで推測)。あと、she"s lost control の、歌詞カードを読んで書いたので、ちょっと、説明不足でしたね。
わたしは(笑い)が、大好きです。しかし、イアンには(あくまで僕のイメージ)だと、笑っているイメージがないです。なぜでしょう?彼の人生が?笑うのは、日常からの(解放)だそうです。イアンが、馬鹿笑いしているのを、想像できないのは、辛い、、、。書きたことは、いっぱいありますが、ここらで。ほんとに長々すみません。また書きます(こんどは、くだけた文章で。)。
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