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愛語

閑を見つけて調べたことについて、気付いたことや考えたことの覚え書きです。

「Interzone」――イアン・カーティスとウィリアム・バロウズ(3)

2013-06-09 20:55:28 | 日記
 イアンの歌詞を読んでみたいと思います。
 邦訳本『タッチング・フロム・ア・ディスタンス』所収の詩集を参考にした拙訳です。


I walked through the city limits,            僕は街の境界をくまなく歩いた
Someone talked me in to do it,             誰かにそうするように言われて 
Attracted by some force within it,           何かに強く惹き付けられ
Had to close my eyes to get close to it,        近づくには目を閉じなければならなかった
Around a corner where a prophet lay,         予言者が横たわる角の辺り
Saw the place where she'd a room to stay,      彼女が泊まった部屋を見た
A wire fence where the children played.        鉄条網で子供たちが遊んでいた
Saw the bed where the body lay,             彼女の横たわるベッドを見た
And I was looking for a friend of mine.          そして僕はある友人を探していた
And I had no time to waste.                無駄にする時間はなかった
Yeah, looking for some friends of mine.         そう 何人か友人を探していた


The cars screeched hear the sound on dust,       車が砂ぼこりをあげ キーと音を鳴らした
Heard a noise just a car outside,              ノイズを聞くとちょうど外で車が
Metallic blue turned red with rust,             メタリック・ブルーは錆びて赤くなっていた
Pulled in close by the building's side,            ビルの近くまで引き寄せられ
In a group all forgotten youth,                忘れられた若者たちのグループの中         
Had to think, collect my senses now,            今こそ気持ちを集中して考えなければならない
Are turned on to a knife edged view.            研ぎ澄まされ興奮する
Find some places where my friends don't know,      友人たちが知らない場所を見つけた
And I was looking for a friend of mine.            僕はある友人を探していた
And I had no time to waste.                  無駄にする時間はなかった
Yeah, looking for some friends of mine.           そう 何人か友人を探していた


Down the dark streets, the houses looked the same,    暗い道を下りて行くと住居はみんな同じに見えた
Getting darker now, faces look the same,           どんどん暗くなり顔の見分けがつかない 
And I walked round and round.                  僕はぐるぐる歩き回った
No stomach, torn apart,                     食欲がなく 心がかき乱れる
Nail me to a train,                         僕を列車に釘付けにして   
Had to think again,                         もう一度考えなければ
Trying to find a clue, trying to find a way to get out!    手がかりを探して 脱出する方法を見つけようとして
Trying to move away, had to move away and keep out.    立ち去ろうとして 立ち去って進み続けなければ


Four, twelve windows, ten in a row,              4つ 12の窓 一列に10
Behind a wall, well I looked down low,              壁の後ろで僕は下を見下ろした
The lights shined like a neon show,              光がネオン・ショーのように輝いた 
Inserted deep felt a warmer glow,               深く差し込み暖かい喜びを感じた
No place to stop, no place to go,               止まる場所もない 行く場所もない
No time to lose, had to keep on going,            失う時間はない やり続けなければならない
I guessed they died some time ago.              彼らはもう死んだのかもしれない
I guessed they died some time ago.              彼らはもう死んだのかもしれない
And I was looking for a friend of mine.             そして僕はある友人を探していた
And I had no time to waste.                   無駄にする時間はなかった
Yeah, looking for some friends of mine.            そう何人か友人を探していた 

 気になるところ、わからないところ、注意したいところを順に書いていきます。
 まず、第1連から。「僕」は「境界」(インターゾーン)にいます。それは、何かによってそこに引き寄せられているためです。近づくには目を閉じなければならない、とありますが、境界の先にあるのは意識下の世界でしょうか。詩には意識下にあるものが表れている、とインタビューで語っているところから、そんな考えが生じます。
「予言者が横たわる角」「彼女が泊まった部屋」など、具体的な情景が出てきます。「予言者」「彼女」に関する描写は、寓話的なようにもみえますが、何を象徴しているかはよく分かりません。
「友人を探す」という、詩全体を通じて繰り返されるフレーズが出てきます。この友人ですが、「a friend of mine」「some friends of mine」とあり、一人なのか何人かいるのか、はっきりしません。とにかく、「友人を探す」というのは重要な目的で、「無駄な時間がない」というように切迫しています。

 第2連にも、具体的な情景が出てきます。「車」「ビル」など、ここはマンチェスターのような街のように見えます。「忘れられた若者たち」というのは、探している友人たちとは違うようですが、その中で「集中」して、意識を「研ぎすませる」というのは、やはり意識下の別世界に入っていくためでしょうか。そこで「友人を探す」というのです。

 第3連に「暗い道を下りて行くと住居はみんな同じに見えた」とあるのですが、このあたりまでの街の描写は、ドキュメンタリー映画『ジョイ・ディヴィジョン』の冒頭で描かれていたマンチェスターの光景を私に想記させました。参考までに記しておきましょう。
 まず、トニー・ウィルソンの発言です。「70年代のマンテェスターは、歴史に翻弄され、見捨てられていた。近代世界の中心的存在で産業革命も起こした街。だが最悪の状況も引き起こした。当時は本当にさびれてすすけた、汚い街だった。」
続いてバーナードの発言です。「いつもきれいなものを求めていた。9歳の時初めて木を見た。〈略〉周りは工場ばかりできれいなものは皆無だ。」
 さらに、スティーブンの発言です。「はじめて行った時、マンチェスターは家がびっしり並んでいた。次に行った時は瓦礫の山と化し、次に行った時はビルの建設ラッシュ。そして僕が10代になる頃にはコンクリートの要塞になってた。当時は未来的に見えた。でも“コンクリートの癌”が始まって醜悪になった。」
 これらの発言の背景に映し出される巨大なマンションは、まさに威圧感のある「みんな同じに見える住居」です。
 イアンが少年時代を過ごしたのは、マンチェスターの郊外にあるマックルズフィールドですが、マックルズフィールドの光景については、ジャン・ピエールターメルの記事「Licht und Blindheit」(「Heart and Soul」のライナーノートに所収)の次の箇所が参考になるでしょう。「イアン・カーティスは1956年7月15日に警察の輸送機関で働いている父親の長男として生まれた。10代の頃、彼の両親はマクレスフィールドの郊外にある、ハダスフィールドから、ヴィクトリア・パーク駅近くの、60年代の巨大なアパートに移ってきた。〈略〉(マクレスフィールドは)そびえたつペニン山脈が現実逃避と魔術的な虚しさを提供するような、小さな町だ。『丘に囲まれていて、実際、とてもいいところだよ。』とサムナーは言う。『でも、冬の夜にそのあたりをドライヴしてごらんよ、僕も以前やってみたんだけど、通りには命の気配がまったくないんだ。』」
 イアンの歌詞に出てくる都市の描写からは、こうした、イングランド北部の都市のイメージが感じられます。どこか無機質で、独特の翳りがあり、人情が表面的に表れてはこない――そんな街が、この詩の背景にはあると思われます。
そんな中、「ぐるぐる歩き回る」「食欲がなく心がかき乱れる」など、いよいよ切迫した状況になります。そこで分からないのが「Nail me to a train,」です。「train」は「列」と訳してもいいのかもしれませんが、「train」に釘付けにする、というのはどういうことなのでしょう。そうやって「もう一度考えなければ」というのは、これもやはり意識下に沈潜していくための集中のことを言っているのではないでしょうか。しかし、どうもこの「Nail me to a train,」は唐突でよく分かりません。続いて「手がかりを探して」「脱出する方法を見つけようとして」とあるので、「Nail me to a train,/Had to think again, 」は、やはり境界から別世界へ進入するための過程であるとは思います。

 最後の第4連の冒頭にも、具体的な情景が描かれています。何か建物の様子です。そこで「光が輝く」と、「深い喜び」の感情が生じてきます。するとそこで、「止まる場所もない 行く場所もない」という行き詰まりの状態が記されます。「彼らはもう死んだのかもしれない」という「彼ら」とは、探している友人のことなのでしょうか。
 以上、気になった点を挙げてみましたが、続いて、「僕」の状況を確認した上で、表面的にはほとんど無いと思われるバロウズの「インターゾーン」に通じるところについて考えてみたいと思います。