「Love will tear us apart」は3時間で書き上げた。ある夜、僕らがあのリフを思い付くと、イアンが言ったんだ――僕にアイディアがあるんだ、って。彼が目の前で歌ってくれた時、僕らはあれがデビーとアニークについてのものだとは思わなかった。ただこう思ったんだ――なんて素晴らしい曲だ――「Love will tear us apart」、いいぞ、イアンがまたやってくれた、って。
(ピーター・フック『クローサー』コレクターズ・エディション所収の、バーナード・サムナー、スティーブン・モリスとの鼎談)
無理からぬことだが、この歌詞はメディアには、うまく行かなかった恋愛関係についての歌であると解釈された……火葬場で、私が墓石に刻むために選んだ語句をロブ・グレットンに伝えた時、彼は茫然としたが、その言葉は変えるところはほとんどなさそうで、私が言いたかったことすべてを要約しているように思われた。「愛が私たちを引き裂いていく」という表現は、私たちみんながどのように感じたかをとてもうまく表していた。
(デボラ・カーティス『タッチング・フロム・ア・ディスタンス』)
「Love will tear us apart」は、イアン・カーティスと妻デボラ、愛人アニックとの間の三角関係についての詩だと言われています。この曲はカーティスの死の翌月、1980年6月に発売され、全英チャートの13位に入り、ジョイ・ディヴィジョンの最大のヒット曲となりました。
When routine bites hard 日常がつらくなり
and ambitions are low 野心も消え失せて
And resentment rides high 怒りが高まっても
But emotions won't grow 感情がついてこない
And we're changing our ways, 僕たちはやり方を変え
taking different roads 別の道を歩み始める
Then love, love will tear us apart again 愛は――愛はまたしても僕たちを引き裂く
Love, love will tear us apart again 愛は――愛はまたしても僕たちを引き裂く
Why is the bedroom so cold なぜ寝室はこんなに寒いのか
You`ve turned away on your side. 君は背を向けて眠る
Is my timing that flawed? 僕のせいでひびが入り
Our respect run so dry. 尊敬し合う心も乾くけど
Yet there's still this appeal that まだ惹かれているから
We've kept through our lives 僕たちは共に暮らしている
But love, love will tear us apart again けれども愛は、愛はまたしても僕たちを引き裂く
Love, love will tear us apart again 愛は、愛はまたしても僕たちを引き裂く
You cry out in your sleep 君は眠りの中で叫んでいる
All my failings exposed 僕の失敗をことごとく暴露した
And there's a taste in my mouth 口の中に苦味が残る
As desperation takes hold 自暴自棄に陥ると
Just that something so good just うまくいっていたことが それ以上機能できなくなる
can't function no more.
But love, love will tear us apart again けれども愛は、愛はまたしても僕たちを引き裂く
(※2連までの対訳は映画「コントロール」の字幕から、それ以下は『タッチング・フロム・ア・ディスタンス』から引用しています)
「Why is the bedroom so cold」など、うまくいっていない家庭生活の雰囲気が表されていて、「love will tear us apart 」というフレーズは、事情を知れば、そこに割って入っている愛人の存在を、当然のように連想させます。
しかし、「僕らはあれがデビーとアニークについてのものだとは思わなかった」というピーター・フックの発言の背景には、メンバーたちがカーティスの詩についてあまり気にとめていなかった、という事実が指摘されます。『クロ-サー』コレクターズエディション所収の三人の鼎談で、それぞれ次のように語っています。
「僕らは彼の詞に耳を傾けたことはなかった。それはとても奇妙なことだ。……自分たちの演奏に必死だったんだ。理解しようとしたけど、ついていくだけで精一杯だったんだ。」――バーナード・サムナー
「そこにはたしかに多くの感性が宿っていたけど、当時は、彼は自分の仕事をしているってことにすぎなかった。彼は作詞家だった。歌詞にはドラムを叩くことより意義があるのも事実だけど、それも仕事の一環だったんだ。」――スティーブン・モリス
「結局は、僕は自分の仕事にあまりに没頭していたから、彼が日常は言わなかった何かを必死で僕らに伝えようとしていたことに気付かなかったんだ。」――ピーター・フック
イアン・カーティスは1980年4月のアニック・オノレ宛の書簡で、「僕は個人的な感情を自分の中に閉ざしてしまう。……僕が本当はどう感じているのかを理解することは、誰にとっても(きっと)難しい」と書いています。(“Torn Apart -The Life of Ian Curtis”)
おそらく、彼はその「理解してもらうのが難しい彼の感情」を詩の中にこめていた、ということなのでしょう。「彼の意志と感情はすべて歌詞の中にあった。生きている間は彼の詩はどちらの意味にも取れるような表現だったが、亡くなったことによってはじめて、あと知恵ですべてが明らかになったのだ」(デボラ・カーティス『タッチング・フロム・ア・ディスタンス』)。しかし、「彼は僕らにシグナルを送っていたんだ。だけど僕らは気付かなかった」(バーナード・サムナー)「おそらく彼は僕らに何か言おうとしていたんだろう」(スティーブン・モリス)というように(以上前掲の鼎談)、死後はじめて、周囲は詩と彼の感情について理解したようです。
「Love will tear us apart」が、彼の私生活での感情を歌った、私小説のような詩であることは、疑いようがありません。しかし、NME誌のライター、ポール・モーリイが、「初めて聞いた時、これは自分の歌だと思った」というように、単に個人的な感情であることを超え、多くの人の感情に訴えられなければ、単なる「私情」であって「詩」とは言えません。この詩にはそうした「詩」としての可能性があるかどうか、考えてみたいと思います。
(ピーター・フック『クローサー』コレクターズ・エディション所収の、バーナード・サムナー、スティーブン・モリスとの鼎談)
無理からぬことだが、この歌詞はメディアには、うまく行かなかった恋愛関係についての歌であると解釈された……火葬場で、私が墓石に刻むために選んだ語句をロブ・グレットンに伝えた時、彼は茫然としたが、その言葉は変えるところはほとんどなさそうで、私が言いたかったことすべてを要約しているように思われた。「愛が私たちを引き裂いていく」という表現は、私たちみんながどのように感じたかをとてもうまく表していた。
(デボラ・カーティス『タッチング・フロム・ア・ディスタンス』)
「Love will tear us apart」は、イアン・カーティスと妻デボラ、愛人アニックとの間の三角関係についての詩だと言われています。この曲はカーティスの死の翌月、1980年6月に発売され、全英チャートの13位に入り、ジョイ・ディヴィジョンの最大のヒット曲となりました。
When routine bites hard 日常がつらくなり
and ambitions are low 野心も消え失せて
And resentment rides high 怒りが高まっても
But emotions won't grow 感情がついてこない
And we're changing our ways, 僕たちはやり方を変え
taking different roads 別の道を歩み始める
Then love, love will tear us apart again 愛は――愛はまたしても僕たちを引き裂く
Love, love will tear us apart again 愛は――愛はまたしても僕たちを引き裂く
Why is the bedroom so cold なぜ寝室はこんなに寒いのか
You`ve turned away on your side. 君は背を向けて眠る
Is my timing that flawed? 僕のせいでひびが入り
Our respect run so dry. 尊敬し合う心も乾くけど
Yet there's still this appeal that まだ惹かれているから
We've kept through our lives 僕たちは共に暮らしている
But love, love will tear us apart again けれども愛は、愛はまたしても僕たちを引き裂く
Love, love will tear us apart again 愛は、愛はまたしても僕たちを引き裂く
You cry out in your sleep 君は眠りの中で叫んでいる
All my failings exposed 僕の失敗をことごとく暴露した
And there's a taste in my mouth 口の中に苦味が残る
As desperation takes hold 自暴自棄に陥ると
Just that something so good just うまくいっていたことが それ以上機能できなくなる
can't function no more.
But love, love will tear us apart again けれども愛は、愛はまたしても僕たちを引き裂く
(※2連までの対訳は映画「コントロール」の字幕から、それ以下は『タッチング・フロム・ア・ディスタンス』から引用しています)
「Why is the bedroom so cold」など、うまくいっていない家庭生活の雰囲気が表されていて、「love will tear us apart 」というフレーズは、事情を知れば、そこに割って入っている愛人の存在を、当然のように連想させます。
しかし、「僕らはあれがデビーとアニークについてのものだとは思わなかった」というピーター・フックの発言の背景には、メンバーたちがカーティスの詩についてあまり気にとめていなかった、という事実が指摘されます。『クロ-サー』コレクターズエディション所収の三人の鼎談で、それぞれ次のように語っています。
「僕らは彼の詞に耳を傾けたことはなかった。それはとても奇妙なことだ。……自分たちの演奏に必死だったんだ。理解しようとしたけど、ついていくだけで精一杯だったんだ。」――バーナード・サムナー
「そこにはたしかに多くの感性が宿っていたけど、当時は、彼は自分の仕事をしているってことにすぎなかった。彼は作詞家だった。歌詞にはドラムを叩くことより意義があるのも事実だけど、それも仕事の一環だったんだ。」――スティーブン・モリス
「結局は、僕は自分の仕事にあまりに没頭していたから、彼が日常は言わなかった何かを必死で僕らに伝えようとしていたことに気付かなかったんだ。」――ピーター・フック
イアン・カーティスは1980年4月のアニック・オノレ宛の書簡で、「僕は個人的な感情を自分の中に閉ざしてしまう。……僕が本当はどう感じているのかを理解することは、誰にとっても(きっと)難しい」と書いています。(“Torn Apart -The Life of Ian Curtis”)
おそらく、彼はその「理解してもらうのが難しい彼の感情」を詩の中にこめていた、ということなのでしょう。「彼の意志と感情はすべて歌詞の中にあった。生きている間は彼の詩はどちらの意味にも取れるような表現だったが、亡くなったことによってはじめて、あと知恵ですべてが明らかになったのだ」(デボラ・カーティス『タッチング・フロム・ア・ディスタンス』)。しかし、「彼は僕らにシグナルを送っていたんだ。だけど僕らは気付かなかった」(バーナード・サムナー)「おそらく彼は僕らに何か言おうとしていたんだろう」(スティーブン・モリス)というように(以上前掲の鼎談)、死後はじめて、周囲は詩と彼の感情について理解したようです。
「Love will tear us apart」が、彼の私生活での感情を歌った、私小説のような詩であることは、疑いようがありません。しかし、NME誌のライター、ポール・モーリイが、「初めて聞いた時、これは自分の歌だと思った」というように、単に個人的な感情であることを超え、多くの人の感情に訴えられなければ、単なる「私情」であって「詩」とは言えません。この詩にはそうした「詩」としての可能性があるかどうか、考えてみたいと思います。