森本光☆ラグビーが好きやねん

関西エリアで活動する森本光のブログ

小学生のための音読教室

2012-01-13 22:46:08 | ちょっと聞いてくれる

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 先週、枚方市内の学習塾で冬休み期間中の子どもたちを対象にした音読教室を開いた。参加したのは小学4年生から6年生までの児童6人。男の子3人、女の子3人だった。実は、この試みは昨年春からずっとあたためてきた内容だった。

 僕が週に一度、朗読の指導をしている塾講師の男性。この先生は、小学生の音読に力を入れたいとの思いから、まずご自身が、本を声に出して読むコツを学ぼうと僕のところに問い合わせてこられた。去年の春から9カ月、個人レッスンを行い、最初の頃は長時間にわたって声を出して読むことにかなり疲れていらっしゃったが、今では集中力が途切れることなく、毎回それぞれの箇所で僕がアドバイスした内容を見事に読みに反映させておられる。この講師の男性は、塾で本を読むときの子どもたちのいきいきとした姿が大好きだそうだ。なかにはうまく読めない児童もいる。逆に上手に読む小学生もいる。そうした子どもたちに的確なアドバイスや指導をして、うまく読めない子には本を読むのが好きになるように、そして上手に読める児童には、より豊かな表現をしてもらおうと、僕のレッスンを受けてこられた。そうしたつながりの中で、今回、子どもたちを集めて、僕が直接音読の指導をしてみて、その変化や反応を見ようということになったのだ。

 音読教室で子どもたちが読んだ作品は「茂吉のねこ」と「三年とうげ」だ。「茂吉のねこ」の学習ガイドにはこんなことが書いてあった。

『音読のしかたに工夫を加えてみましょう。

 ・声や言葉の調子を使い分けて、茂吉、ねこ、化け物を表現してみる。

 ・効果音を入れるとしたら、どこに入れたいか考える。

 ・声を合わせて読むといいところを考える。』

 さて、はたして何人の小学校教諭がこの教科書に書いてある『音読の仕方の工夫』について指導できるだろうか?昨今の教育現場での詳しいことは知らないが、僕が小学生のとき、この内容を指導できる先生はひとりもいなかった。今は、国語の教員をめざす学生はみんな音読を学んでいるのだろうか?また、教師になってから、そういったワークショップで勉強しているのだろうか?残念ながら僕はそんな話を一度も聞いたことがない。あくまで推測ではあるが、きちんと音読の仕方について説明できる先生はほとんどいないだろう。また、教科書にもいい加減なことが書いてある。「効果音を入れるとしたら、どこに入れたいか考える」、「声を合わせて読むといいところを考える」。こんな内容は、音読の仕方の欄を埋めるために無理やり記載したもので、これを考えたり試したりしたところで、国語力も表現力もアップしない。しかも、「茂吉のねこ」で声を合わせるべき箇所は「ころすべし」、「死ぬべし」である。わざわざこのような言葉を子どもたちに言わせる必要はない。

 とにかく、現在の小学校において音読の指導については、教員は無知、そして教科書もいい加減。僕の印象ではほぼ誰も手をつけていない領域である。でも、人前で本を読むことを楽しめたり、一歩進んで、文章にふさわしい表現ができるようになったりすると、その後の人生においてはプラスの側面が多いと思う。だからこそ、僕はこれまでの仕事などで身につけたことをどんどん子どもたちに伝えていきたいのである。

 そんな思いを胸に開いた小学生のための音読教室。保護者の方々も見守る中、およそ1時間半、子どもたちに声を出して作品を読んでもらった。僕がこの日いちばん伝えたかったポイントは、作品に出てくる言葉を、その意味どおりに表現すること。「痛い」は痛いように、「熱い」は熱いように、「うれしい」はうれしいように、「悲しい」は悲しいように素直に表現すればいい。音読でそれを学べば、日常生活でも自分の感情をストレートに表せるようになるだろう。何に悩んでいるのか、なぜ元気がないのか。そういったことを内に秘めることなく、どんどん出せるようになれば、親が気づいてやれず状況が悪化し、子どもたちの悩み、苦しみが増すようなこともなくなるのではないだろうか?音読教室では、漢字のたびにつまってしまって思うように読めない児童もいた。いっぽうで、僕の一言のアドバイスで保護者のみなさんが驚くような豊かな表現のできた小学生もいた。うまい、へたは関係なく、なにより声を出して読む楽しさを感じてほしいを一生懸命指導した。反省点としては、普段小学生に何かを教えるということをしていないので、アドバイスするときの言葉が少し難しかったかな?もっとやさしい単語にすればよかったかな?というような点があるが、音読教室に参加した女の子が「楽しかった」とか「少しのことで変わるんだなあと思いました」などとうれしい感想を話してくれたので、まずまずの手ごたえを感じている。また機会があればぜひ小学生のための音読教室を開いてみたい。


花園アフターマッチFANクション~大阪ダービー~

2012-01-11 01:58:44 | ラグビー

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 トップリーグ第9節、花園ラグビー場の第2試合は初の大阪ダービー。ともに大阪を本拠地とする近鉄ライナーズとNTTドコモレッドハリケーンズの一戦だった。見ごたえのあるゲームでどちらが勝ってもおかしくないゲーム展開の中、ラスト5分でにトライを重ねた近鉄が勝利。トップリーグの先輩として経験の差を見せた。

 試合後は、恒例となった花園アフターマッチFANクションが開催された。観戦直後のファンが集まり、ビールを飲みながらラグビー談義に花を咲かせ、交流を深めようというイベントだ。そして、今回も試合を終えてシャワーを浴びたばかりの選手たちがイベントにかけつけてくれた。

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 まず登場したのはNTTドコモの緑川昌樹選手。試合について、逆転した場面で「もっとトライを取りにいこうよ」と思った反面、「これで勝てる」と慢心した選手もいたのではないかと、高校・大学でキャプテンをつとめてきた経験を生かして冷静に分析。フィジカルよりもメンタル面での差が出たと話していた。緑川選手はこの日が今シーズン2試合目めの先発出場で、トップリーグの公式戦で80分間グラウンドに立ったのは初めて。「疲れはどうですか?痛いところはないですか?」と僕が質問すると、「勝てば痛みなんて感じないんでしょうけど、負けて何より心が痛いです」と悔しさをにじませていた。

 続いて会場にかけつけてくれたのはNTTドコモの中矢健選手。とにかくディフェンスで抜かれないようにと、近鉄の大西選手とイエロメ選手には激しくタックルに入ったことを語っていた。特に、同志社大学、ワールドで先輩だった大西選手には負けたくないとプレーしていたそうだ。でも試合で敗れてしまい、大西さんはやっぱりすごいと先輩を立てていた。また、敗因については、緑川選手と同じくチームのメンタル面での未熟さを挙げていた。

 NTTドコモの選手たちに続いて、近鉄の選手たちも会場へ。タウファ統悦選手は、「しんどかったねぇ」を連発。あいかわらず僕とのトークは噛みあわず、でも統悦選手はしゃべっているうちにどんどんテンションが高くなり、会場の雰囲気を一気に盛り上げてくれた。そして、金哲元選手は、「ペナルティーが多かった」と丸刈りの頭で反省。僕があえて「反則してましたっけ?あっ、してたわ」と言うと、試合中の気迫あふれる表情とは違ったかわいらしい笑顔を見せていた。

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 この日の主役は、トップリーグ100試合出場を達成した大西将太郎選手。グラウンドにお子さんと一緒に入場したことについて、お父さんから選手へとスイッチを切り替えるのはたいへんじゃなかったですか?と僕が尋ねると、「いえいえ、海外ではよく見られる光景で、僕がこんなふうに入場することで、いいなぁって憧れを抱いてもらえたら」と大西選手。たしかに、僕も夢を持った。トップリーグの試合に100試合出て、わが子と一緒にグラウンドへ。そんなふうになりたいなぁ。いやいや、越えないといけない壁が多すぎるやん。プレーヤーとしてその偉業を達成するのはたいへんなことやし、ましてや嫁も子どももおりましぇん。将来有望な選手たちはぜひ大西選手のように素敵な入場シーンを夢見てラグビーに打ち込んでください。

 大西選手に話を聞いていておもしろかったことは2つ。まずNTTドコモの箕内拓郎選手が試合中に「100試合を迎えた試合で負けた選手は誰もいない」と言ってプレッシャーをかけてきたそうだ。元プロ野球・広島東洋カープの達川光男さんのようなベテランならではの攻撃。プレーだけでなく口撃も要注意の選手だ。そして、もう1つはマン・オブ・ザ・マッチに選ばれた近鉄のプロップ成昂徳選手についてのコメント。マッチコミッショナーに選考理由をたずねたところ、「かつての強い近鉄の頃のスクラムを思い出させてくれた。またあのときのようになってほしい」という将来への期待を込めて成選手が選んだとのこと。激しいぶつかり合いで体力を消耗し、統悦選手が言っていたように「しんどい」試合。その中で成選手ははっきりわかるぐらいバテバテだった。光るプレーはなかったが、そうした状況でもしっかりとスクラムを組んだところが評価された。目立っていたのは、トライにアシストにと大活躍だった重光泰昌選手、そして、100メートルを10秒6で走る韋駄天・李陽選手。いつもバックスばっかりチヤホヤされて…、と思っているプロップの選手はたくさんいるはず。今回マン・オブ・ザ・マッチに成選手が選ばれたことで希望を持つプレーヤーも増えるのではないだろうか。

 花園アフターマッチFANクションは、近鉄のルーキー、才田修二選手に話を聞いてそろそろシメの時間に。東福岡高校の2年のとき、今月7日に3連覇を達成したメンバーの一人である弟の智さんの影響でラグビーを始めた才田選手。それ以前はソフトテニスをやっていた。180センチ、117キロの体格でソフトテニス。「軟テ」である。その頃は70キロ台でしたと才田選手。ラグビーのために40キロ以上体重を増やしたらしい。高校から始めてもトップチームで活躍できるのがラグビー。まだまだ才能のある人材はいろんなところに眠っていそうである。

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 イベントのラストは、集まったファンが寄せ書きした色紙を大西選手にプレゼント。あたたかくて楽しくて素敵な時間だった。激しい試合で疲れている中、かけつけてくださった選手のみなさん、ありがとうございました。次回の開催は未定ですが、ラグビーファンなら楽しめること間違いなしのこのイベント。今後は、初めてラグビーを観戦した人たちも参加できるように、さらには女性のファンも増やしていきたいなと考えています。


ミスターラグビーにならって穴を掘ろう!

2012-01-07 21:52:38 | ラグビー

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 サイン会に参加したファンがその有名人に話しかけた言葉は…。

「うちの息子がケガをさせられたんです」

「一生懸命、穴を掘ってます」

「あんた日本一や。わしはあんたのことが大好きや!」

 思わず苦笑いしたり、「えーっ、ほんまかいな」と驚きの声が出たり、「ありがとうございます」と握手をしたり…。その有名人はサイン会で実に様々な表情を見せてくださった。神戸製鋼コベルコスティーラーズ・アドバイザーの元木由記雄さん。日本代表79キャップを誇るミスターラグビーこと元木さんのトークイベント&サイン会が近鉄花園ラグビー場に特設されたトップリーグPRブースで1月5日に開催された。

 中学入学直後にこわい先輩に誘われてラグビーを始めた元木さん。もし、誘われなかったらテニス部に入ろうと思っていたそうだ。「ウィンブルドンめざしたいなぁって本気で思ってました」と笑顔を見せたミスターラグビー。でも、こわい先輩のおかげで日本ラグビー界の宝が生まれた。

 元木さんは中学時代から体格がよく、3年生のときには175センチ、体重も75キロあったそうだ。思いっきりぶつかっていって、相手がケガをしたり伸びたりすることもしばしば。中学、高校を通じて、いったい何人が病院送りにされたのだろう?元木さんは、相手にケガをさせてやろうなんて考えはいっさいなく、1対1で勝つことだけに集中してプレーしていたそうだ。僕は学生時代、元木さんとの対戦はなかったが、もしあのハードタックルを受けてケガをしていたらラグビーをやめていただろう。そんなことを話した後のサイン会で、「うちの息子、中学校のとき元木さんにケガをさせられたんです。そのあと、松葉杖になって」と話す女性があらわれた。どんな顔をしていいかわからず、困惑する元木さんに女性は続けて笑顔でこう言った。うちの孫もラグビーやってるんですよ。よかったぁ。息子さんはケガをしたあとも、ラグビーを嫌いにならなかったんだ。そして、自分の子どもにもラグビーをさせている。自慢話になっているかもしれない。「お父さんな、中学のとき元木にケガさせられてんで。いやー、あのときからアイツはすごかったわ」なんてね。ケガをさせられた本人のお母さんが、笑顔で加害者のサインを求めるなんて。さすがミスターラグビー。普通なら訴えられまっせ。ラグビーの試合中での出来事だから、そんなことはないか。

 元木さんにお会いして直接伺いたかったことは、グラウンドの隅でひたすら穴を掘っていたというエピソード。詳しく聞いてみると、高校1年のときにケガをしていた元木さんに、当時の荒川博司監督が「オールブラックスもやってるそうだぞ」とシャベルで穴を掘ることを命じた。荒川監督が亡くなった今となっては、オールブラックスが本当にやっていたかどうかはわからないが、元木さんはケガが癒えてからも1年間、練習のあとに毎日自分の背丈ほどの深さまで穴を掘った。最初は2時間かかったそうである。その後だんだんとコツをつかみ時間は短縮できたものの、硬い層にぶつかったり大きな石が出てきたりと、穴掘りのたいへんさを話してくださった。毎日背丈ほどの深さまで掘ってすぐに埋めるというこのトレーニング。部員の中でこれをしていたのは元木さんだけ。しかし、そのあと驚くべき効果があった。高校2年のとき、背筋力を初めて測定してみたら300キロを超えたのである。元木さんもその数値を見てビックリしたそうだ。上下や左右の直線的な動きの多いウエイトトレーニングと比べて、穴掘りは回転する動作が加わるので、なかなか鍛えることのできない部分の筋力アップに効果があったのではないかと元木さんは振り返っていた。そして、サイン会で列を作った小学生の保護者から衝撃的な言葉が!「この子も穴掘ってるんです」と話した小学生ラガーのお母さん。3年生ぐらいかな。大阪府内のラグビースクールで楕円球を追いかけているそうだ。照れながらもらったばかりのサインに目を向け、元木さんの顔を見られない小学生。「えーっ、ほんまかいな」と、嬉しさと驚きのまじる元木さん。まさか、こんな小さい男の子が元木さんにならって穴を掘ってるなんて。体を鍛えるために、それをラグビーに活かすために。元木さん、日本のラグビーの未来は明るいですね。

 何でも好きなことはとことんまでやるのがミスターラグビー。ここ1年はゴルフに夢中で、毎朝6時に起きて150球ほど打つのが習慣だそうだ。「現役時代よりも早起きをしてます」と語る元木さん。ドライバーの飛距離は300ヤード以上で、平均でも280ヤードは超えるという。好きなことは突き詰めるが、それ以外のことには全く興味がなく、まわりの人から「変わってるね」と言われることもよくあるらしい。そんな元木さんの嫌いなものは、昆虫などの小さな虫。幼い頃から生理的に受け付けないとのこと。クモやゴキブリの姿を見たら逃げまわり、後輩を呼んで捕まえるように指示を出す。「生かしたまま部屋の外に出せ」と。大嫌いな虫でも殺さないのが優しい元木さんらしい。セミもバッタも大嫌いで、昔バッタに100メートルほど追いかけられたことがあるそうだ。「力強いハンドオフで払えばいいじゃないですか」と僕が言うと、「そんなん絶対ムリ。逃げるしかないでしょ。あのときは100メートルを9秒台で走ったんちゃうかな」と元木さん。その現場にいたかった。ストップウォッチで計っていたら世界記録樹立の瞬間に立ち会えたのに。

 トークイベントは、楽しい雰囲気のまま終了。僕自身、いろんな話を聞けて憧れの元木さんのことがますます好きになった。そのあとのサイン会には100人以上のファンが列を作り、ペンを走らせる元木さんに声をかけたり、写真を撮ったりしていた。「あんた日本一や。わしはあんたのことが大好きや!」と話すおじさんもいた。それにしても、まさか元木さんにケガをさせられた選手のお母さんが笑顔でサインをもらいに来るなんて。まさか小学生が穴掘りトレーニングを実践しているなんて。嬉しい驚きがいっぱいのトークイベント&サイン会。2019年、日本で開催されるラグビーワールドカップでジャパンは8位以内に入ってほしいと元木さんは将来に期待を込めて話していた。日本代表として最多の79キャップを誇る元木さん。その記録を塗りかえるプレーヤーが一日でも早く出てきてくれれば、日本のラグビーはより強くなっているだろうという言葉に重みを感じた。さぁ、みんなきょうから穴を掘って体を鍛えよう!

 


全国高校ラグビー大会 準々決勝

2012-01-04 13:01:49 | ラグビー

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 取材者としては失格だと思う。選手や監督の思いをおしはかると、取材しながら涙が出てしまうから。全国紙の記者たちは、試合を振り返り「おもしろかったですねぇ」とサラッと言い放つ。そんな簡単な言葉だけで片付けてほしくない。1月3日の花園ラグビー場にいた選手や関係者は、1年の、あるいは何十年もの思いをそれぞれの試合にぶつけていたのだ。

 全国高校ラグビー大会準々決勝、ベスト8に進出したチームによる4試合が行われた。第1試合は桐蔭学園と東福岡が激突。過去2大会、決勝で顔を合わせた両チームによる対戦だ。試合は、東福岡がリードする展開。エースの藤田慶和選手が躍動感のあるダイナミックな走りで何度も桐蔭学園の防御を切り裂いた。後半9分、藤田選手がゴールライン手前に蹴りこんだボールを桐蔭が後ろにそらしてしまい、それを東福岡が押さえてトライ。スコアは19-6。相手のミスによる得点。東福岡がこのまま勢いに乗るかと思われたが、ここからの桐蔭学園の逆襲が素晴らしかった。バックスの展開を軸に連続2トライを奪って19-18の1点差に詰め寄り、後半18分にPGを決めてついに逆転。花園の女神はヒガシと桐蔭のどちらに微笑むのか!?しかし、その女神の力を借りることなく試合を決めたのは、東福岡のエース藤田選手。サイドアタックを絡めたシンプルなサインプレーからボールを受け、相手ディフェンスを振り切りインゴールに飛び込んだ。その後も追加点をあげた東福岡が29-21で桐蔭学園をくだしベスト4に駒を進めた。試合後、大粒の涙を流しながらグラウンドを後にする桐蔭学園の選手を見て、僕も涙ぐんでしまった。3年分の思いをぶつけた試合、立派な戦いぶりだった。

 試合後、東福岡の藤田選手は、逆転された場面を振り返り、「いつもリードされているときの準備をしているので、みんなで楽しもう、笑顔で」と仲間に声をかけたことを話してくれた。テレビ画面で見るよりもカッコよくてさわやか、そして礼儀正しい藤田選手。さわやかさとハニカミ具合は、ゴルフの石川遼選手とイメージが重なる。その姿とプレーとのギャップがとてもいい。

 第2試合は常翔学園と佐賀工業の対戦。常翔学園がプランどおりのゲーム展開を見せ、31-14のスコアで佐賀工業を退けた。試合後、常翔学園の野上友一監督は「先制できたのが良かった。フォワードの強い相手にも対応でき、大会を通じて成長したのかな」と話した。2トライをあげたスクラムハーフの岡田一平選手について、「こういうときにがんばってくれるのがエース」と期待通りの活躍を見せていることを語ってくれた。去年5月に野上監督にお話を伺ったときに、真っ先に名前の出たのがこの岡田選手。センターを経験してきた選手で、「ボールを持ったら何かしてくれる楽しみなプレーヤー」とそのときに話してくださったのだが、、従来のスクラムハーフのような相手のスキをついて前進するのではなく、豪快なハンドオフで力強い突破を見せるのが最大の魅力。「行きたがりなんです」と野上監督は岡田選手の特長を茶目っ気たっぷりに教えてくれた。準決勝は大会3連覇を狙う東福岡と対戦。常翔はエースが活躍する展開に持ち込みたい。

 京都成章と御所実業が対戦した第3試合はここ4大会で3度目の顔合わせとなった。成章は伏見工業に勝つために、御所は天理に勝つために、そして花園で頂点に立つために両校は多くの時間を同じグラウンドで過ごし、互いの力を高め合ってきた。手の内を知り尽くした相手との対戦で、試合は両チームともここまで花園で見せてきたプレーができず、なかなか得点できない。御所は、エースでキャプテンの竹田祐将選手の動きが封じ込まれ、さらには、ラインアウトでも思うようにボールを確保できない。先制したのは京都成章で、前半26分にラックからキャプテンの坂手敦史選手がインゴールに飛び込んでトライ。7-0として折り返し。後半も互いに譲らないゲーム展開。しかし、20分を過ぎてから御所が敵陣深くまで攻め込みトライのチャンスをうかがう。ひたすら攻める御所、守る成章。モールでじわりじわりと前進をはかるが、成章のディフェンスは崩れない。ならばと、御所が得意なインゴールへのハイパント。しかし、これも得点につながらない。ラスト10分以上、御所はボールを支配し続け、時計の針は30分を過ぎロスタイムに。黒いかたまりとなって成章ゴールだけを見つめ押し続ける御所。愚直なまでにモール、そしてまたモール。よく堪えた成章だったが、モールを崩す反則を繰り返したとして認定トライ。反則がなければ御所はトライを奪えたというレフリーの判断だ。コンバージョンも決まって7-7の同点でノーサイド。試合後、両チームのキャプテンはすぐに花園ラグビー場の事務室へ。抽選で準決勝進出チームを決めるためだ。事務室の前には報道陣が集まり、緊張感が高まる。先に出てきたのは御所の竹田主将。目に涙をにじませ、足早にロッカールームへ。そのあと成章の坂手主将。御所の竹田監督と抱き合い大きな声を上げて泣いている。準決勝に駒を進めたのは、どちらのチームなのかわからない。そして、ロッカールームから1度だけ「やったー!」という声が響いた。御所だ。御所実業が準決勝進出だ。しかし、すぐに「やめろ、喜ぶな」と声がかかり、ロッカールームがシーンと静まり返った。そのあと聞こえてきたのは、低く大きな男泣きの声。京都成章のロッカールーム。誰にも遠慮することなく、彼らはあふれる感情を涙にした。すべてを出しきった。負けてない。

 御所の竹田監督は「完璧な負けゲーム。手の内を知り尽くした相手だけに真っ向勝負を意識しすぎた」と話した。そして、ゲーム内容、抽選の結果を受け、「成章さんに申し訳ない」と言葉を絞り出した。その監督の4男である竹田祐将キャプテンは、「抽選で次に進めたことは運ですし、成章さんには悔いが残らないように戦っていきたい」と、負けずに姿を消すことになった相手チームの分まで全力でぶつかる決意を語った。

 ベスト8のぶつかり合い、最後の試合は東のAシード優勝候補の國學院栃木と東海大仰星の対戦だ。國學院栃木は12年連続17回目の全国大会出場だが、過去の最高成績はベスト16まで。ベスト8進出は今大会が初めて。チームを24年間率いてきた吉岡肇監督は、「やっとここまで来ました」と感慨深げに話してくださった。僕が國學院栃木を取材した6年前は、いいチームを作っても強豪校と早い段階で対戦することが多く、「なかなか思うようにいかないんですよ」と吉岡監督はチームが花園で力を発揮できないことを悔しそうに語っていた。そして、今大会、高校日本代表候補5人を擁し、優勝候補として乗り込んだ花園だ。特に選手集めをしているわけではなく、高校からラグビーをはじめた部員も他の強豪校と比べて多い。そんな普通の高校生たちを優勝を狙えるチームに育てあげた吉岡監督。國學院栃木史上最強のチームだ。試合前、注目選手について伺うと「吉岡です」と即答が返ってきた。そう、吉岡監督の長男でウイング、國學院栃木の絶対的なエース吉岡征太郎選手。父は豊田自動織機監督、兄はトップリーガーというラグビー界のサラブレッド田村熙選手がマスコミに多く取り上げられ、花園で期待どおりの活躍を見せているが、吉岡選手が爆発すれば國學院栃木はもっと乗っていけるという。

 試合は、國學院栃木が田村選手のトライで先制。さらに前半14分、相手のキックをチャージしたボールを11番、監督期待の吉岡選手が拾い上げて中央にまわり込んでトライ。監督のおしゃっていた最高の流れで、國學院栃木が一気に東海大仰星を突き放す展開になるかと思われた。しかし、さすがは経験値で上回る東海大仰星。すぐにトライを1本返し、前半26分にもボールをつないでトライ。14-12と仰星リードで後半へ。後半は、國學院栃木が得意のバックス展開で活路を見出そうとするが、仰星のディフェンスを破ることはできず、逆に仰星がトライとPGで得点を重ね24-12でノーサイド。ベスト8に進出したチームの中で仰星だけは今シーズン練習試合などで対戦したことがなかったとのこと。試合後、吉岡監督は、今まで感じたことのない圧力に、選手たちはやや消極的になったと分析。「小さなことが少しずつ仰星のほうが上回った結果」とゲームを振り返った。しかし、今までの栃木県の高校ラグビーの歴史を塗りかえたチームで、栃木県初のAシードの名に恥じない戦いをしてくれたと選手たちを称えた。「栃木県だってこんなチームが作れるんだ。他の県の普通のチームの代表みたいな存在としてまたチャレンジしたい」と試合後すぐに新しい1年を見据えた吉岡監督。24年かかって大きく前進し、新しい歴史を刻んだ國學院栃木。これからも花園で注目したいチームの1つである。

 あすの準決勝は、東福岡と常翔学園、東海大仰星と御所実業が対戦。どのチームがファイナルに駒を進めるのか。熱さ、仲間、涙…。さまざまな思いがぶつかり合う高校ラグビーから目が離せない。ちなみにあす5日、12時から花園ラグビー場の正面入口の左にあるトップリーグPRブースで、神戸製鋼コベルコスティーラーズ・アドバイザーの元木由記雄さんのトークショーが開催されます。憧れの元木さんに高校時代のエピソードを中心にたっぷりとお話を伺います。淀川の河川敷グラウンドで練習のあと、毎日シャベルで穴を掘り鍛えていた元木さん。元木さんにまつわるエピソードは、多すぎて何がホントなのかわからないので、それらを全てはっきりさせようと思っています。そして、何より高校生ラガーたちに夢を持ってもらえる内容にします。第1試合は午後1時キックオフ。試合前に元木さんのトークイベント&サイン会、ぜひお越しください。