森本光☆ラグビーが好きやねん

関西エリアで活動する森本光のブログ

全国高校ラグビー大会 準々決勝

2012-01-04 13:01:49 | ラグビー

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 取材者としては失格だと思う。選手や監督の思いをおしはかると、取材しながら涙が出てしまうから。全国紙の記者たちは、試合を振り返り「おもしろかったですねぇ」とサラッと言い放つ。そんな簡単な言葉だけで片付けてほしくない。1月3日の花園ラグビー場にいた選手や関係者は、1年の、あるいは何十年もの思いをそれぞれの試合にぶつけていたのだ。

 全国高校ラグビー大会準々決勝、ベスト8に進出したチームによる4試合が行われた。第1試合は桐蔭学園と東福岡が激突。過去2大会、決勝で顔を合わせた両チームによる対戦だ。試合は、東福岡がリードする展開。エースの藤田慶和選手が躍動感のあるダイナミックな走りで何度も桐蔭学園の防御を切り裂いた。後半9分、藤田選手がゴールライン手前に蹴りこんだボールを桐蔭が後ろにそらしてしまい、それを東福岡が押さえてトライ。スコアは19-6。相手のミスによる得点。東福岡がこのまま勢いに乗るかと思われたが、ここからの桐蔭学園の逆襲が素晴らしかった。バックスの展開を軸に連続2トライを奪って19-18の1点差に詰め寄り、後半18分にPGを決めてついに逆転。花園の女神はヒガシと桐蔭のどちらに微笑むのか!?しかし、その女神の力を借りることなく試合を決めたのは、東福岡のエース藤田選手。サイドアタックを絡めたシンプルなサインプレーからボールを受け、相手ディフェンスを振り切りインゴールに飛び込んだ。その後も追加点をあげた東福岡が29-21で桐蔭学園をくだしベスト4に駒を進めた。試合後、大粒の涙を流しながらグラウンドを後にする桐蔭学園の選手を見て、僕も涙ぐんでしまった。3年分の思いをぶつけた試合、立派な戦いぶりだった。

 試合後、東福岡の藤田選手は、逆転された場面を振り返り、「いつもリードされているときの準備をしているので、みんなで楽しもう、笑顔で」と仲間に声をかけたことを話してくれた。テレビ画面で見るよりもカッコよくてさわやか、そして礼儀正しい藤田選手。さわやかさとハニカミ具合は、ゴルフの石川遼選手とイメージが重なる。その姿とプレーとのギャップがとてもいい。

 第2試合は常翔学園と佐賀工業の対戦。常翔学園がプランどおりのゲーム展開を見せ、31-14のスコアで佐賀工業を退けた。試合後、常翔学園の野上友一監督は「先制できたのが良かった。フォワードの強い相手にも対応でき、大会を通じて成長したのかな」と話した。2トライをあげたスクラムハーフの岡田一平選手について、「こういうときにがんばってくれるのがエース」と期待通りの活躍を見せていることを語ってくれた。去年5月に野上監督にお話を伺ったときに、真っ先に名前の出たのがこの岡田選手。センターを経験してきた選手で、「ボールを持ったら何かしてくれる楽しみなプレーヤー」とそのときに話してくださったのだが、、従来のスクラムハーフのような相手のスキをついて前進するのではなく、豪快なハンドオフで力強い突破を見せるのが最大の魅力。「行きたがりなんです」と野上監督は岡田選手の特長を茶目っ気たっぷりに教えてくれた。準決勝は大会3連覇を狙う東福岡と対戦。常翔はエースが活躍する展開に持ち込みたい。

 京都成章と御所実業が対戦した第3試合はここ4大会で3度目の顔合わせとなった。成章は伏見工業に勝つために、御所は天理に勝つために、そして花園で頂点に立つために両校は多くの時間を同じグラウンドで過ごし、互いの力を高め合ってきた。手の内を知り尽くした相手との対戦で、試合は両チームともここまで花園で見せてきたプレーができず、なかなか得点できない。御所は、エースでキャプテンの竹田祐将選手の動きが封じ込まれ、さらには、ラインアウトでも思うようにボールを確保できない。先制したのは京都成章で、前半26分にラックからキャプテンの坂手敦史選手がインゴールに飛び込んでトライ。7-0として折り返し。後半も互いに譲らないゲーム展開。しかし、20分を過ぎてから御所が敵陣深くまで攻め込みトライのチャンスをうかがう。ひたすら攻める御所、守る成章。モールでじわりじわりと前進をはかるが、成章のディフェンスは崩れない。ならばと、御所が得意なインゴールへのハイパント。しかし、これも得点につながらない。ラスト10分以上、御所はボールを支配し続け、時計の針は30分を過ぎロスタイムに。黒いかたまりとなって成章ゴールだけを見つめ押し続ける御所。愚直なまでにモール、そしてまたモール。よく堪えた成章だったが、モールを崩す反則を繰り返したとして認定トライ。反則がなければ御所はトライを奪えたというレフリーの判断だ。コンバージョンも決まって7-7の同点でノーサイド。試合後、両チームのキャプテンはすぐに花園ラグビー場の事務室へ。抽選で準決勝進出チームを決めるためだ。事務室の前には報道陣が集まり、緊張感が高まる。先に出てきたのは御所の竹田主将。目に涙をにじませ、足早にロッカールームへ。そのあと成章の坂手主将。御所の竹田監督と抱き合い大きな声を上げて泣いている。準決勝に駒を進めたのは、どちらのチームなのかわからない。そして、ロッカールームから1度だけ「やったー!」という声が響いた。御所だ。御所実業が準決勝進出だ。しかし、すぐに「やめろ、喜ぶな」と声がかかり、ロッカールームがシーンと静まり返った。そのあと聞こえてきたのは、低く大きな男泣きの声。京都成章のロッカールーム。誰にも遠慮することなく、彼らはあふれる感情を涙にした。すべてを出しきった。負けてない。

 御所の竹田監督は「完璧な負けゲーム。手の内を知り尽くした相手だけに真っ向勝負を意識しすぎた」と話した。そして、ゲーム内容、抽選の結果を受け、「成章さんに申し訳ない」と言葉を絞り出した。その監督の4男である竹田祐将キャプテンは、「抽選で次に進めたことは運ですし、成章さんには悔いが残らないように戦っていきたい」と、負けずに姿を消すことになった相手チームの分まで全力でぶつかる決意を語った。

 ベスト8のぶつかり合い、最後の試合は東のAシード優勝候補の國學院栃木と東海大仰星の対戦だ。國學院栃木は12年連続17回目の全国大会出場だが、過去の最高成績はベスト16まで。ベスト8進出は今大会が初めて。チームを24年間率いてきた吉岡肇監督は、「やっとここまで来ました」と感慨深げに話してくださった。僕が國學院栃木を取材した6年前は、いいチームを作っても強豪校と早い段階で対戦することが多く、「なかなか思うようにいかないんですよ」と吉岡監督はチームが花園で力を発揮できないことを悔しそうに語っていた。そして、今大会、高校日本代表候補5人を擁し、優勝候補として乗り込んだ花園だ。特に選手集めをしているわけではなく、高校からラグビーをはじめた部員も他の強豪校と比べて多い。そんな普通の高校生たちを優勝を狙えるチームに育てあげた吉岡監督。國學院栃木史上最強のチームだ。試合前、注目選手について伺うと「吉岡です」と即答が返ってきた。そう、吉岡監督の長男でウイング、國學院栃木の絶対的なエース吉岡征太郎選手。父は豊田自動織機監督、兄はトップリーガーというラグビー界のサラブレッド田村熙選手がマスコミに多く取り上げられ、花園で期待どおりの活躍を見せているが、吉岡選手が爆発すれば國學院栃木はもっと乗っていけるという。

 試合は、國學院栃木が田村選手のトライで先制。さらに前半14分、相手のキックをチャージしたボールを11番、監督期待の吉岡選手が拾い上げて中央にまわり込んでトライ。監督のおしゃっていた最高の流れで、國學院栃木が一気に東海大仰星を突き放す展開になるかと思われた。しかし、さすがは経験値で上回る東海大仰星。すぐにトライを1本返し、前半26分にもボールをつないでトライ。14-12と仰星リードで後半へ。後半は、國學院栃木が得意のバックス展開で活路を見出そうとするが、仰星のディフェンスを破ることはできず、逆に仰星がトライとPGで得点を重ね24-12でノーサイド。ベスト8に進出したチームの中で仰星だけは今シーズン練習試合などで対戦したことがなかったとのこと。試合後、吉岡監督は、今まで感じたことのない圧力に、選手たちはやや消極的になったと分析。「小さなことが少しずつ仰星のほうが上回った結果」とゲームを振り返った。しかし、今までの栃木県の高校ラグビーの歴史を塗りかえたチームで、栃木県初のAシードの名に恥じない戦いをしてくれたと選手たちを称えた。「栃木県だってこんなチームが作れるんだ。他の県の普通のチームの代表みたいな存在としてまたチャレンジしたい」と試合後すぐに新しい1年を見据えた吉岡監督。24年かかって大きく前進し、新しい歴史を刻んだ國學院栃木。これからも花園で注目したいチームの1つである。

 あすの準決勝は、東福岡と常翔学園、東海大仰星と御所実業が対戦。どのチームがファイナルに駒を進めるのか。熱さ、仲間、涙…。さまざまな思いがぶつかり合う高校ラグビーから目が離せない。ちなみにあす5日、12時から花園ラグビー場の正面入口の左にあるトップリーグPRブースで、神戸製鋼コベルコスティーラーズ・アドバイザーの元木由記雄さんのトークショーが開催されます。憧れの元木さんに高校時代のエピソードを中心にたっぷりとお話を伺います。淀川の河川敷グラウンドで練習のあと、毎日シャベルで穴を掘り鍛えていた元木さん。元木さんにまつわるエピソードは、多すぎて何がホントなのかわからないので、それらを全てはっきりさせようと思っています。そして、何より高校生ラガーたちに夢を持ってもらえる内容にします。第1試合は午後1時キックオフ。試合前に元木さんのトークイベント&サイン会、ぜひお越しください。