全治１カ月のケガ。普通に考えれば試合に出られる状況じゃない。でも、最後の夏、４番バッターとしてチームのために彼は強行出場した。加古川南のキャッチャーUくん。３回戦ではレフトオーバーのホームランを放った。このとき、すでに足を負傷していた。そして、迎えた４回戦。３打数３安打。４打席めもエラーで出塁。さすがに痛みをこらえることができず、足をひきずるように１塁へ。そして、後続のバッターのライトフライを見届けて彼の夏が終わった。
「あいつ足ひねってケガしてんねん。あっ、でも、これは言わんといて。まだ次があるから」
監督さんから話を聞いて驚いた。２試合で６打数４安打２打点、ホームランも打っていたUくん。ポジションはキャッチャーで、他の選手に比べ大きく動くことはないが、それにしたって痛いに決まっている。ファールフライを追いかけるとき、何とか足の痛みをこらえながらボールをキャッチしようとしていた。当然、動きは鈍くなる。「U選手は足を痛めています」と言いそうになったが、ここは監督との約束を守らねばならない。Uくんはミートに専念して３打数３安打、そして最後の打席も鋭い当たりがエラーを誘って出塁。４打席連続出塁と４番の役目を充分に果たし、高校通算２２本塁打の記録とともに夏の舞台を去った。
試合終了後、ベンチ横のフェンスに寄りかかり涙を流すUくんの姿を見て、この夏、初めて泣きそうになりながら実況した。正直に言うと、泣きながらしゃべった。高校球児の３年間のうちの、わずかな時間だけ関わらせてもらった。それだけの関係だけど、中継では選手を支える家族からのメッセージを必ず紹介するから、すごく近くにいるように感じる。わずかな時間だけ近くにいる選手たちの一生懸命な姿を応援している実況中継。このあとの試合も心を込めて球児たちの一生懸命を応援したい。
