初めて見る原稿を噛まずに読みながら、声や滑舌、磨き上げた表現力などパフォーマンスを披露する「噛んだら終了!2010」が、おととい大阪・中津のライブホールVi-codeで行われた。1分間読みきればクリア、噛めば即終了というこの大会。今回が3回目の開催で、主催は、三原徹司さん、そして、畑中ふうさんや前塚あつしさんといった関西の有名ナレーターを中心に構成される大阪SAMURAIナレーターズ。今、自分の持っている力がどの程度なのかを知りたくて参加してきた。
今回の出場者は、舞台俳優で朝日放送「クイズ!紳助くん」のナレーターとしても知られる川下大洋さん、ネットでイベントのことを知り東京から参加した声優の斧アツシさん、毎日放送アナウンサーの大月勇さんなど12人。僕が思う優勝候補は、名前を挙げたこの3人。ただ、うれしいことにスタッフとして参加したナレーターの野中政宏さんからは、「僕は森本さんに二重丸◎をつけてますよ」と声をかけてもらった。
イベントはトーナメント形式で行われ、1回戦は雑誌、2回戦はニュース、そして決勝は、法律や医療の専門用語がたっぷり詰まった「誰でも必ず噛む!」と主催者が自信を見せる原稿が用意されている。対戦相手は抽選で決まり、1、2回戦は誰がどの原稿を読むかはわからない。
僕の1回戦の相手は、優勝候補の川下大洋さん。知名度も技術も格段の差があることは明白な川下さんといきなりの対戦になるとは…。クジ運の悪さを恨んだ。こういうことがあると思って、会場に知人や友人をあまり誘っていなかったのだ。応援にかけつけてくれた朝日放送アナウンサーの藤崎健一郎さんと奥さんの桂子さん、事務所の後輩の清水理恵子さんに、ごめんなさいと心の中で謝った。
僕の出番は1回戦6組ある中で2番目のステージ。前の組では2.5秒で噛むという“神”業を披露され、何をやってもインパクトが残らない。そんな状況で先攻は僕だった。お題はビートルズ特集の雑誌。もうなるようにしかならない。裏向きに置かれた原稿をスタートの合図でひっくり返し読み始めた。
普段、調子のいいときは自分の声の響きを確かめながら読み進めることができる。しかし、そんな余裕はあるはずがなかった。なんとか20秒ほど読んだ段階で気づいたのは、声の響きではなく足の震えだった。原稿を読みながらも、震えていることが観客に伝わっていないかと不安になり噛みそうになった。このままではダメだ!よし、きっちり表現をつけていこう!と、意識を原稿に戻すことで、足はブルブルしていたが読みは大きくグラグラせずに1分間噛まずに読みきることができた。やった!勝った!2回戦進出だ!と思った1分後、川下さんも噛まずにお題をクリア。奈落の底に突き落とされた。
両者ともに1分間噛まずに原稿を読みきった場合、早口言葉で対決することになる。当然、噛ませるためのムズカシイ早口言葉が用意されているのだ。誰もが知っている早口言葉ならものすごいスピードで読む自信はある。この仕事をするにあたって過去にたっぷり練習してきた。ただ、練習したことのないお題が出てくると対処しきれない。この早口言葉対決だけは絶対にやりたくなかった。
挑戦した早口言葉は……
「超高速・増殖・小食・長足(ちょうそく)・緑色(りょくしょく)・草食恐竜型の車種3種類」
先攻の僕は、確実に読むことを意識しながら可能な限りスピードを上げて「超高速・増殖…」と読み始めた。3回続けて読むのだが、1カ所言葉が滑りかけただけでなんとか噛まずに読めた。そして、そのあと川下さんが、噛んだ!これは夢か幻か!僕が川下さんに勝った!2回戦への切符を手にした。川下さんはこのときのことを、僕が確実に読んだので、勝つためには速く読むしかないと思ったとブログに綴っている。
優勝候補を破って進んだ2回戦。対戦相手は高橋恵美子さん(Jプロダクション)。お題はニュース原稿だ。ニュースを初見で読むのには自信がある。これまで仕事で何度も経験してきた。1回戦では内容を全く理解できないまま、ただ読んだだけなので、今回はきっちり意味を理解して伝えようと挑んだ。先に挑戦した高橋さんが20秒で噛んだため、僕はそれ以上の秒数を噛まずに読めば勝てる。でも、絶対に1分間読みきって持っている力を発揮しようと読み始めた。今度は自分の声の響きを感じることができた。足の震えはもうない。原稿に書かれている内容を理解し、緩急をつけながらしっかりと1分間読み続けることができた。いざ、決勝戦へ!
決勝に進んだのは、東京からやってきた斧アツシさん(大沢事務所)と村上恵子さん(フリー)と僕の3人。2種類の同じ原稿を読み、噛まずに読んだタイムの合計で優勝が決まる。3人とも防音の控え室に入るため、どんな原稿が用意されているのかはステージに上がるまでわからない。クジ引きで僕、斧さん、村上さんの順番でお題に挑むことになった。
夢に見た決勝のステージ。ここに立つために参加した。自分の力を知りたかった。通用するのかしないのか。これまでの努力は間違ってなかったか。まだ足りないことはわかっている。でも毎年確実にレベルを上げてきた自信はある。10年間きっちり練習を積んできた。仕事で求められた以上の結果を残してきた。さぁ、すべてを今ぶつけるとき!
出てきた原稿は、????ぜーんぶひらがな!!パッと見ただけでは何が書いてあるのか、助詞がどれなのかわからない。でも、パッと見ただけですぐに読まないといけないのだ。まさかの原稿にパニックになっているところで、スタートの合図。
ほうそうほうの……
「終了!!」
1、2回戦をまったく噛まずにほぼ完璧な戦いぶりで突破してきたのに、決勝戦の1つめの原稿はわずか6秒で終了。なんちゅう原稿やねん!全部ひらがな、しかも内容は放送法って…。ハードすぎる。
「もっと難しい漢字の原稿を用意してください!」
そう言って、ひらがなだけの原稿にズタズタにされた悔しさをぶつけた。ならば!と出てきたのは本当に難しい漢字ばかりの原稿。しかも読んだことのない言葉が並んでいる!
決勝戦2つめの原稿は……
なに、これ?願いどおりの原稿のはずが、わずか3.9秒で噛んだ。
優勝したのは斧アツシさん。僕が10秒ともたなかったはじめの原稿を30秒以上読み、次の原稿は見事1分間読みきった。さらには、読みすすめながらキャラクターを変え、お客さんを楽しませた。あの状況でそんなことができるすごさ!読むのに精一杯、パフォーマンスまで気が行き届かない僕との差は歴然としていた。
斧さんにはクリスタルトロフィーが手渡され、僕は準優勝という結果に終わった。主催者の畑中ふうさんから敢闘賞もいただいた。力を出せたし、この結果には満足している。今の僕には上出来だ。イベントを楽しむこともできた。でも、もっともっとうまくなりたい。斧さんのように、いつでもどんな状況でも自分らしい表現ができ、お客さんを楽しませる技術を身につけたい。まだまだ努力が足りない。もっと頑張らなアカン!心からそう思える機会を与えてくれた今回の「噛んだら終了!2010」だった。みなさん、本当にありがとうございました。
『噛んだら終了!2010』リポート(RADIO HAAFUU~愛と礼儀!涙と感謝!)