星月夜に逢えたら

[hoshizukiyo ni aetara] 古都散策や仏像、文楽、DEAN FUJIOKAさんのことなどを・・・。 

フールフォアラブ  観劇メモ

2007-03-02 | 観劇メモ(演劇・ダンス系)

 公演名 フールフォアラブ
 劇場 シアター・ドラマシティ
 観劇日 2007年2月28日(水) 
19:30開演 21:00終演
 座席 8列


朧からまだ頭が切り替わらない。どうしよう・・・。
でも、そこに行けばサム・シェパードに逢える!! 
とにかくそう思って28日、劇場に向かった。
サム・シェパードっていったい何者? 
それは・・・昔、あたしが好きだったオ・ト・コ(爆)。
「フールフォアラブ」はモーテルの一室で男と女がうだうだしているお
話なんだけど、そこはサム・シェパードの作品らしく、激しく、二人が
ヨレヨレのメロメロなのにカッコよくて、でも心の中ではダラダラ血を
流している、みたいな。最後にはたまらないほど切なくなってしまう、
そんなお芝居。
しかも、役者さんが生身だけで勝負する超ガチンコな舞台だった。

以下、全面的に、最初から最後までネタバレです。ご注意ください。
(もう公演が終わったからネタバレちゃっていいのかな?)

<作、演出、キャストなど>
作:サム・シェパード  演出:行定 勲   訳:伊藤美代子
キャスト:香川照之(エディ)、寺島しのぶ(メイ) 
甲本雅裕(マーティン)、大谷亮介(老人)

<あらすじ>
舞台は地の果て、さびれたモーテル。そこにたどり着いた男と女。
あるときは、修羅場のごとく罵倒しあい、あるときは、子供同士の
じゃれ合いのように…。
そしてこの二人を見守る一人の老人と来訪者。
乾ききった砂漠に展開される憎しみと禁断の愛。
(シアター・ドラマシティ 公演案内より引用)

<舞台装置など>
上演前から劇場ではずっとカントリー・ウエスタンがかかっていた。
幕が開いて、アメリカ西部のモーテルの一室を想定したセット。
舞台中央に簡素なベッドが1つ。(ベッドの下にはトランクが1個。)
上手にチープなテーブルと数個のチェア。下手にはロッキンチェア。
舞台奥にはブラインドのかかった窓がある。窓に反射する車のライトに
よって、窓のすぐ外側に駐車場があることや、駐車場側にもう一人、見
えない登場人物(伯爵夫人)の存在を効果的に臭わせていた。

<感想>
パルコ劇場「新」スタンダードシリーズってことで、前回観た「トーチ
ソング・トリロジー」のように、これも"愛"あふれる作品だった。
ただし、今回は洒落た都会のお話ではない。
舞台の台詞には出てこなかったけれど、映画版の「フールフォアラブ」
にはこんな会話がある。
女「荒馬を乗りこなすのが"男"なのね?」
男「カウボーイ以外は男じゃねえ」

エディとメイは男と女というより、私の感覚的には<オトコとオンナ>。
動物的本能で結びついた二人、という感じがする。
エディが別の女性のところから自分のところに戻って来たのに、素直に
喜びを表せないメイ。そんなメイに取り入るきっかけをエディが探って
いるところから舞台は始まる。
二人の押したり引いたり、抱きついたかと思うと突き放したり、ケンカ
ともじゃれ合いともつかない激しいやりとりがしばらく続くのが、見せ
場でもある。
香川さんのエディと、寺島さんのメイの丁々発止が面白い。

ただ、始まりのシーンがすっごく映画の一場面と似ていたので、お芝居
が始まってすぐに香川さんとサム・シェパードを比較してしまい、あま
りの違いに引いてしまった。ゴメンナサイ~、香川さん(笑)。
逆に、寺島さんはキム・ベイシンガーと雰囲気が似ていてビックリ。
そのうちサム・シェパードもキム・ベイシンガーも私の中から消えて、
いつのまにか舞台上のエディとメイになっていった。
たぶん、メイを訪ねてきた男、マーティンにエディが絡むあたりから。

一見、三角関係の様相を呈しているけれど、だんだん、ああこれは父と
子、家族のドラマなんだと思えてくる。
マーティンと乾杯する時、傍らにいる老人にもお酒をつぐシーンがある。
エディはマーティンに語りかけながらも、目だけはその老人を見たまま
自分の父との思い出を語り始める。その時、口を開く老人の台詞によっ
て初めて老人とエディの関係が明らかになる。
そこへメイが絡み、自分の両親の思い出を話し出し、そこに猛然と絡ん
でくる老人。
エディの父であり、メイの父でもある、その人。
初めは舞台の隅っこで、傍観者として二人のやりとりを笑いながら見て
いた老人が、いきなり物語の主役になる瞬間が圧巻だった。
観客の前に、突然、自分たちの父親を引っ張り出し、過去をさらけ出し
ておいて、二人はただ静かに見つめ合う。
そのままゆっくりと歩み寄り、優しく抱擁、キスする二人。
同じ血でつながっている二人が、体とか血とかを超えた部分で一つに溶
け合ったと思える、熱くて、哀しくて、美しいシーンだった。
ラスト。
再び別の女の元へ去ってしまうオトコ。
それをわかっていながら引き止めないオンナ。
父と息子、父と娘、母と息子、母と娘、家族、そして男と女。
血とか、断ち切れない絆とか、親が子に与える影響とか、因果とか、
人間なら誰でも持っている根深い部分に触れてしまった作品だった。

行定監督のおかげでサム・シェパード作品の舞台版を観ることができて
よかった。映画版はあれはあれで、サム・シェパードもキム・ベイシン
ガーももうめちゃめちゃカッコイイんだけどねー♪

<キャストについて>
香川照之さん(エディ)
シリアスものからコメディまで何に出てもうまくこなせる人だと思って
いたけれど、舞台で観るのは全く初めて。
今回はベッドの上で飛び跳ねたり、ベッドを蹴ったり、投げ縄をしたり、
ライフル銃を掃除したり、床に寝っころがったまま長々としゃべったり。
フツウの体勢で台詞をしゃべっているほうが少なかったかったと思う。
特に、床に腹這いになってグラスを持ち、酔っぱらいながらマーティン
に絡んでいるところがあまりに自然体で、面白い人だなあ~、と思い始
めたら最後まで、香川さんのペースに引き込まれていった感じ。
父親との回想を独白調で語る時の涙目が忘れられない。

寺島しのぶさん(メイ)
演技派女優という評価はもう当たり前なのかな。この人も舞台で観るの
は全く初めてなので楽しみだった。
冒頭の、体を二つ折りにしたあのポーズに、ああ、キム・ベイシンガー
だよと思った。舞台でバタバタ走る走り方だけは好きじゃないけれど、
エディの胸に100%素直に飛び込んでいけない不器用なふるまいに、エ
ディへの思いの深さをにじませるメイ、うまいなと思った。
細かいことだけど、舞台の上で赤いドレスに着替える時の服の着方がき
れいで、そういう繊細さも含めて素敵な役者さんだなと思えた。

甲本雅裕さん(マーティン)
元々は舞台の役者さんだというのにドラマでしか見たことがなかった。
でも、今回の作品で私の予想が一番裏切られたのがこの人。
エディが言うところの「男」ではなく、全く色気を感じさせない「人」
を演じているんだけど、これがウマイ!
会話の間や表情から生まれる絶妙のズレが観客の笑いを誘っていた。
いわば、観客に代わってマーティンがエディとメイの身の上を聞き出す
役割。野暮な質問もこのキャラだからゆるせるし、観客も安心して身を
委ねることができるんだなあと思った。

大谷亮介さん(老人)
最初は舞台の端っこのロッキンチェアにすわっていて、ほとんど気配を
消している。もしかしたらエディとメイの回想の中だけに生きている人
物なのかもしれないと思える、不思議な存在。
(3/3 パンフレットで確認。やはりエディとメイの想像上の人物。)
途中から話に入り込んできて、いつのまにかリアルな存在へと変貌する
時の、落差が凄いなと思った。
歳はとっても「男」でありたいと願っているのか、自らがまねいた辛い
現実に背を向けてしまったせいか、憧れのカントリーシンガーを「自分
の妻だ」言う時のうれしそうな顔が切ない。
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11 コメント

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観たかったんだなあ (しろう)
2007-03-03 01:51:18
(復活)めざましの友は、この舞台の公開稽古だったかの日の、行定監督と香川さん&寺島さんのインタビューを見たら、どーーしても観たくなってしまいました。(行定監督のお話にすごく惹かれちゃったんです~)
そこで『SHIROH』大楽以来の、ド平日大阪日帰り観劇強行策をかなり真剣に画策したのですが(「顔のない女」の社長夫人並みに!)息子の入塾初日と重なっており、時間的にかなり危ない賭けだったので、泣く泣く諦めましたよ。

どこかが放送してくれないかなあ。
返信する
めざましの友、しろうさんへ (ムンパリ)
2007-03-04 00:37:44
めざましTV見たよー!! 
行定監督が選んだこの作品、出演者にとってはキツかったんじゃないかなあと思いました。でも、香川さんと寺島さんはナマでも素敵でしたよ~。
今回、しろうさんは観に行けなくてザンネンでしたね。遠征には準備も必要だし、なかなかすぐには行けませんよね! 
私も平日公演の場合は行けるかどうかいつもギリギリまで賭けです。
いつか放送があるといいんだけど、これはムズカシイかも・・・。パルコ劇場にお願いしてみる?(笑)
返信する
オトコとオンナ (スキップ)
2007-03-09 01:44:46
ムンパリさま
こんばんは。
拙ブログへのご訪問ありがとうございました。作品と出演者への愛あふれたレポ、興味深く読ませていただきました。
私は映画は見ていないのですが、確かにサム・シェパードと香川照之ではギャップありますよね~(笑)。
でも二人のセリフの応酬は迫力も緊迫感も十分、それでいて色っぽくて、まさに“オトコとオンナ”でした。

ムンパリさんのたくさんの観劇記、これからしばらくこれを読ませていただく楽しみが増えました。<また寝不足に拍車がかかりそう(>_<)>
またお邪魔させてくださいね。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
返信する
失礼しました (スキップ)
2007-03-09 01:48:39
ムンパリさま
失礼いたしました。コメントが途中で終わっちゃって(恥)・・・ヘンな顔文字入れたためと思われる・・・。

またお邪魔させてくださいね。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
返信する
ありがとうございます~♪ (ムンパリ)
2007-03-09 23:04:31
スキップさん、こんばんは。
コメント頂きどうもありがとうございます。
香川さんは好きな役者さんなんですよ~。サム・シェパードと比べちゃあイカンですね(笑)。
そして、ハイ、二人とも色っぽかったですね。
アメリカといっても日本とは最も遠い感覚のアメリカなので、役者さんたちも自分のものとして消化し、表現するのが難しかったのではと思いますが、私はこの公演、けっこう好きでした。

よさそうな作品が発表になると、大阪公演は?ってドキドキするのは私も同じです! 
スキップさんの過去の感想も読ませて頂いてます。
こちらこそ、これからもよろしくお願いしますねっ♪
返信する
ありがとうございました♪ (パーシャ)
2007-03-12 18:38:36
お越しくださって、ありがとうございました♪
わたし、まだ感想途中で。(^^ゞ

とっても好きな作品でした。 地味だけど。(^^ゞ
どの役者さんも とっても良かったですよね♪ ”演者が良いと こんなに良くなるんだなぁ~~~” と、感心しながら観ていました。

大阪公演される作品、沢山増えるといいですよね~~~(東京のみ、で見逃した作品 数知れず・涙)。
返信する
今回は1日違い。次は? (ピュアなムンパリ)
2007-03-13 00:46:24
パーシャさん。こんばんは。
パーシャさんはいつも、私が行こうかどうか迷ったあげく見送った公演をよくご覧になってるんですよー(笑)。でも、今回はピッタシ!うれしいです。
行定監督の演出が意外にシンプルだったぶん、役者さんのうまさが伝わってくる舞台でしたよね!
感想が更新されるのを楽しみにしてますねっ♪

> 東京のみ、で見逃した作品 数知れず・涙)。
ホントホント。私もいーっぱいあります。涙々・・・。

次はヘドウィグ、大阪楽に行きますよー!!
返信する
やっと (パーシャ)
2007-03-19 16:18:36
更新しましたので(笑)、ご覧下さいませ~~~。<(_ _)>
またまた 長いですっ。

見送られた公演を私、拝見しているんですか? あらら~~~。 なんでしょう(笑)?

ヘドウィグ、わたし すぐに買ったんですけど、手放しちゃいました。(^^ゞ
感想、楽しみに拝見させていただきま~す♪

私は今度は 『かぶき座の怪人』 → 『TOMMY』 です。(^^ゞ
返信する
はーい♪ (ムンパリ)
2007-03-21 01:22:45
パーシャさん。アップされたんですね!
ぜひぜひ読ませて頂きますね。 
それで、私が見送ったのは「AOI/KOMACHI」とか花組芝居「百鬼夜行抄・2」などです。
ヘドウィグは友人といっしょに観劇します。どうなんでしょうねえ! やっぱり、三上さんと比較してしまうんでしょうかねえ。初演、再演と観た舞台ですもんね。ううむ。
もちろん、ヘドの感想はアップしますよ。
「TOMMY」は4/22に行きます、私。
返信する
TOMMY (パーシャ)
2007-03-21 20:37:20
私は楽日です。 残念。 同じ日だったら良かったですね~。
またいつかご一緒ください。(^^

「AOI/KOMACHI」、花組芝居「百鬼夜行抄・2」などですか。
どちらも良かったですよ(と言う私は意地悪?w)♪

「AOI/KOMACHI」、これは どうしても凱旋公演を見たくて、4月に世田谷まで行ってきます。 とっても好きになっちゃって(作品自体)。(^^ゞ   
花組芝居「かぶき座の怪人」 は、ご覧になられませんか? 3月末に 新神戸オリエンタル劇場でありますよ~。 かなり良さ気なんですよ♪
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