星月夜に逢えたら

[hoshizukiyo ni aetara] 古都散策や仏像、文楽、DEAN FUJIOKAさんのことなどを・・・。 

海辺のカフカ(再演) 観劇メモ

2014-07-27 | 観劇メモ(演劇・ダンス系)
公演名  海辺のカフカ
劇場   シアターBRAVA!
観劇日  2014年6月14日(土)18:00~
座席  B列

●スタッフ
原作      村上春樹
脚本      フランク・ギャラティ
演出      蜷川幸雄


●キャスト
宮沢りえ:佐伯・少女
藤木直人:大島
古畑新之(新人):カフカ
鈴木杏:さくら
柿澤勇人:カラス(カフカの分身)
高橋努:星野
鳥山昌克:カーネル・サンダーズ
木場勝己:ナカタ




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再び体が発熱し、全身感応した。
ハート丸ごと掴まれたまま汗ぐっしょり、やっぱり力一杯見てしまった。
ラスト近く、舞台に降る雨の向こうから風が吹いてきて顔に当たった瞬間、
ふっと緊張がゆるんだ。
美しくて、可笑しくて、怖ろしくて、もの悲しくて・・・とびきりロマン
ティックな舞台。私は原作も舞台版もどちらも好き。
(観劇当日のメモより)
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<初演との違いなど>
1カ月半前に観た舞台の感想をいまごろ。
2年前に初演を観たので基本的な感想は同じ。
透明ボックスはモジュールのような使われ方をし、複数の時間・空間の
出来事を単体で見せたり、関係あるものどうし並べたり、配置をずらして
登場させたりするのがやはり面白い。

細かい部分で前回と違うところが幾つかあったと思うが、それが初演で観た
ものだったか、あるいは自分の読書中の妄想の産物だったか、今はもう区別
がつかない(苦笑)。
ナカタさんと会話するオスネコは前回も関西弁だったっけ?

一番大きく変わったのは、佐伯さんの印象。
「身毒丸」の白石加代子さんと大竹しのぶさんぐらい違っていた。)
今回は少女時代と現在を宮沢りえさんが一人で演じ分けていたこと。
こんな切り替えが違和感なくできるのは宮沢りえさんだからでしょう。
それってスゴイ!
初演時は二人の女優さんが演じていたし、全くイメージが違っていたので、
最初に歌う少女が登場した時、若き佐伯さんだとはすぐに気づかなかったほど。

ついでに書くと、初演の田中裕子さんによる佐伯さんは生気を失い、生きな
がら死んでいる人、というイメージだった。
宮沢りえさんによる佐伯さんは、美しさを隠さず今も生きている、少女時代
の恋を抱えたまま過去と今を行き来しながらなおも生き続ける人、という
イメージだろうか。
(たとえそれが過去に向けてのものであっても)女性としての色気を発して
いるため、カフカ少年が惹かれるのも無理はないし、二人の間に何かが起き
たとしても納得できるものがあった。

<「記憶」について>
あちら側の世界から一瞬舞い戻り、佐伯さんがカフカにこんなふうに言う。
「私はまもなく記憶がなくなる。自分ではなくなる。お願いがあるの。私を
覚えていてほしい。あなたにだけはずっと覚えていてほしい。」
これってある意味、究極の愛の表現じゃないだろうか。
ずっと忘れない、とは決して言えない者にとって、いま「愛している」と
伝えるより切実で哀しく、もっと深く、激しい言葉。

こんなふうに考えてしまったのは、りえさん演じる佐伯さんのせい。
初演時、この言葉はカフカ少年ではなく昔の恋人に言ったのかと思っていた。
今回、佐伯さんはこの台詞を母として告げたようでもあり、同時に目の前の
恋人に告げるような甘い響きを帯びていたように思う。
あれは、母親かどうかカフカが確認した後だったか? だとすれば、母として
我が子の内にずっと生き続けたい、とは女の本能なのかもしれない。
あるいはやはり我が子に別の愛情を抱いたのか?
最後まで禁断の匂いを感じさせるところは宮沢りえさんならではだった。

一方、ナカタさんの「記憶」は本当に哀しく、空しい。
かつて同じ世界を覗いてしまった者として、佐伯さんに語りかける台詞。
「私の人生はなんだったのでしょう」とぽつりともらした言葉に涙が出た。
自分の境遇を嘆くのでもなく、誰を恨むわけでもなく、むしろ生活費が給付
されることに感謝すらしていた彼が、素朴な疑問として発した言葉に不覚
にもヤラれてしまった。
(木場さんがもうリアルナカタさんにしか見えない。)
子供時代の不可解な事故(事件)により記憶を失い、読み書き能力も失い、
代わりに猫と会話できるようになった。それだけの人生に見えたが・・・。
ある日、何かに導かれたように行動を開始。ふと気づくと、自分はただ一つ
のミッション遂行のためだけに生きてきたのだとさとる。
もしも原作の通りであれば、ナカタさんは別のものに体を貸していただけ、
事件以後の本人はカラッポ同然ってことになる。
でも、だからといって決して「生きていなかった」ことにはならないはず。
現に、こんな終わり方もわるくない、って星野青年が言ってくれたように。
ナカタさんの純粋さは、長距離トラックの運転手だった星野の人生観まで
変えてしまうほど魅力的だったのに違いない。

※再演で初めて気づいたナカタさんメモ
ナカタさんは「入り口の石」を記憶していたのではなく、透明ボックスの
中の歌う佐伯さんからキーワードとして受け取っていた。歌詞の中にハッ
キリと「入り口の石」という言葉があり、それを聞いた直後、星野にそれを
告げていた。

<カフカ少年>
田村カフカ役はオーディションで選ばれた新人の古畑新之さん。
フライヤーの写真で見ていた古畑くんは、髪型がとても個性的だった。
舞台上で見る田村カフカは、白いシャツを着てまだ何にも染まっていない、
まだ何も身につけていない男子という印象で、むしろその普通さに驚いた。
よくある、新人とは思えない堂々とした演技とか、それは全くなかった。
イケメンだとか、意外に上手いとか、そういった雑念に捉われることなく、
この子大丈夫なんだろうかと思っているうちに、とうとう最後までたどりつ
いてしまった。目の前の出来事を一つずつ体験しながらやり遂げていく。
あ、これが田村カフカなのか、これがこの役を演じる古畑くんのやり方だっ
たのか。等身大ってこうゆうこと? という感じ。
カテコの古畑くん、三度目にはける時くるっとこちらを向いてぴょこんと
お辞儀をしたのが微笑ましく、新鮮だった。生まれたての役者さん。
デビュー作でいきなりの主役。そうゆう舞台を見届けられるのは私たち
観客にとっても幸せなこと。古畑新之という役者さんに次回会えるのは
いつだろうか。ぜひまた違う役で見てみたい。

<その他のキャスト>
宮沢りえさんと木場勝己さん、古畑新之さんについては上に書いた通り。

藤木直人さんの大島さんは難しかったと思う。
というより、私自身の問題だ。初演時の長谷川博己さんがあまりに印象深く、
仕草や舞台上で醸成される雰囲気までパーフェクトだったので、どうやら
擦り込みができてしまったらしい。
少年が絶大な信頼を寄せる人物という感じは藤木さんももちろん出せていた
と思うし、それなりにがんばっておられたと思う。
が、ペンを回すところも含め、すべて長谷川さんによる大島さんの踏襲だっ
たので、初演を見た者にとってはオドロキがなかったのがチト残念。

鈴木杏さんによる、さくら。バスで出会った女性であり、旅先でカフカ少年
が混乱した際に助けてくれる重要な存在。サバけていて頼りがいがあって、
存在感もあった。この役も初演時の佐藤さんと大きな印象の違いはなかった。

高橋努さんによる星野さん(再演)。
ナカタさんに対する温かいまなざしは初演時と同じ。二人のコンビネーション
は安心して見られるし、カーネル・サンダーズおじさんとのやりとりも
面白く、再演でも飽きずに見られた。イマドキの長距離トラックドライバーは
どのようなものかわからないけれど、今回はキャップをかぶり、帽子の後ろ
の穴からちょろっと髪の毛を出してさらに個性が増していた。
ナカタさんの最後に接するときの台詞は、まるで自分の父親に言うような
味わいがあったと思う。

柿澤勇人さんによるカラス(再演)。
カフカの分身なのに、古畑新之さんと並ぶとコントラストが歴然。自信ありげ
で、世界のことをなんでも知っていそうで、今にもカフカをそそのかしそうな
誘惑しそうな雰囲気だった。指の動きがとても色っぽくて見とれてしまった。


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