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美しい農村-イギリス・コッツウォルズぶらり旅

2008-04-09 23:51:03 | 日記・エッセイ・コラム

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  3月下旬にイギリスに出かけた。ロンドンには10年前に訪れたことがあったが、昨今の欧州サスティナブルシティの議論や農村部のコッツウォルズに関心があり、思い付いていつものように駆け足で訪れた。ロンドンへの人口の一極集中。歴史的市街地を抱える中心部の交通渋滞は小型車が多いとはいえ、大都市共通の悩みだ。中心部には赤字に白い「C」(Congestion Charge)の標識。渋滞課金の区域に入る車は、原則1日8ポンド(約1700円)を払わなければならない。タクシーやハイブリッド車は全額免除、区域内住民は9割減額。自動車から公共交通に転換させ、CO2削減効果は上がっているという。Img_0075_edited

 イギリスの都市と農村は緑地空間で明確に区分されており、都市の分散的拡大をグリーンベルトで制限する手法が、ロンドンをはじめ各都市で取り組まれている。オックスフォードは、12世紀からの著名な大学都市だが、市街地を囲むグリーンベルトやパーク&ライドによって自動車の流入を抑制しており、田園風景のなかに中世のカレッジやヨーロッパ最古のボドリアン図書館、シェルドニアン・シアター(1669年建築)が静かに立ち並ぶ。1546年に設立された格式あるカレッジ、クライスト・チャーチは映画『ハリー・ポッター』の撮影場所となり、近年観光化や住宅人気も高まっていると聞いた。Img_0134_edited

 ストラトフォード・アポン・エイヴォンは、シェイクスピアの生まれ故郷として有名である。生家は16、7世紀のこの地方を代表する木造建築物の文化財として保存・公開がされている。オーク材を使った木骨造り、組み立てには釘やボルトは使われず、噛み合わせや木釘で固定する日本と同じ伝統的手法だ。壁や煙突や床には灰青色の石灰岩を使い、壁は漆喰で塗り固められている。Img_0149_edited ストラトフォードの町のあちこちには、地元の大工や石工たちの技を誇らしげに伝えるように、数多くの木造建築物が残されている。曲がりくねった木骨を黒く塗り、壁を白くしてコントラストを際出せる。わざと傾いたままで組み立てた家・・。美しい伝統的な農家建築群は、世界的芸術家を生み出した職人の町・ストラトフォードらしさを十分楽しませてくれた。Img_0090_edited

 最近、コッツウォルズの名は日本でもよく聞くようになった。農村回帰・ナチュラル志向の雑誌など紹介記事が増えた影響と思われるが、イギリスでは普段着のままでグリーン・ツーリズムを満喫する土地らしい。ロンドンから約200km、南は世界遺産のバースから、北はストラトフォードまでの丘陵地帯。広大な草原に小さな村々が点在し、イギリスの美しい原風景が残されている。産業革命の原動力となった紡績業は、羊を放牧するこの丘陵があったからなのだと、車窓からの農村風景をずっと眺めていた。Img_0120_edited コッツウォルズのそれぞれの村の中心には教会があり、昔ながらの茅葺の家も見かける。街道沿いの石造りの町並みにはアンティックな雑貨屋が並んでいる。16、7世紀の農村集落をそのままの形で維持しており、農村の生活を楽しむ滞在型のツーリストも多いと聞いた。ロンドンなど都会から古民家を求めて別荘にする人も増えているようで、SOLDの看板や不動産の店にはSALE AGREED1000万円~2500万円クラスの物件も紹介されていた。Img_0312_edited_2

 約2千年前、ローマ人がバースにたどり着き、緑豊かな渓谷・バースに魅了された。湧き続ける温泉地に浴場のある複合神殿を築き、4世紀にわたりこの地にとどまったという。1987年には世界遺産に登録されたバース。Bath(浴場)はこの地名が由来なのか、それとも逆なのだろうか。1617年に建築された中世の教会・バース寺院と大広場、1774年に建築された114本のイオニア式円柱を並べた三日月型テラスをもつロイヤル・クレッセント、1880年に再発見されたローマ浴場の複合建築を修復・再生した浴場跡など、建築家たちが技を競った数々の歴史的建築に魅了される。Img_0274_edited ショッピング街など観光地としても発展しているが、歴史的景観と調和した中世の市街地が歴史の重みを感じさせる。

 イギリスの歴史環境や自然環境の保全は、地方計画庁である地方政府の開発規制によって維持されている。指定建築物保全制度によって、指定登録された建築物の取り壊し、改築、改変が規制されているが、登録指定は①デザインなど建築的価値 ②社会経済史との関連性など歴史的価値 ③歴史的に著名な人物・事件との関わり 、④集団としての価値のいずれかにより、政府系機関であるEnglish Heritageが行う仕組みとなっており、イングランドでは44万3千件(93年時点)の指定建造物が登録されているという。Img_0055_edited ちなみに日本の重要文化財の指定2300件、登録文化財6000件というレベルとは比較にもならない。歴史的建築的な価値を有する「保全区域」の指定も地方自治体が行い、イングランドで約8千地区、ロンドン都心のウェストミンスターでは51地区、ケンジントンでは33地区、行政面積の約4分の3にもあたるというから驚いてしまう。コッツウォルズなど優れた田園風景保全のための特別自然美観地域も、政府系のエージェンシーであるEnglish Natureによって指定され各自治体の開発規制に反映されることになっている。Img_0316_edited 約5千年前の謎の石造物・ストーンへイジにも、English Heritage Sitesがあり、ヘリテージ・ツーリズムのための案内ガイドが常駐していた。いただいたサイトマップにはイギリス全土の地図にマークがつけられ、「400を越える歴史サイトと年間を通じた歴史アトラクションで新しい発見を」と呼びかけていた。イギリスの都市と農村の美しさは、持続可能な都市づくりのための制度的仕組みにしっかりと裏付けられている。成熟した「美しい国」づくりは、やはり分権社会の実現しかないのだ。あらためてそんな思いを強くした旅となった。

 


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