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20周年を迎えた長浜「黒壁」のまち再生

2009-04-04 00:09:40 | 日記・エッセイ・コラム

 P1020258_edited 滋賀県長浜市にある「黒壁」。市民が設立した会社による中心市街地の再生の事例として広く知られている。3月の初旬、「黒壁20周年事業」特別常設展の見学をかねて、ぶらりと町を歩いてきた。「まちづくり三法」ができる十数年前から何度となく訪れている「黒壁」のまちだが、昨今の不況の影響か、やや寂れた印象があった。

 P1020339_edited 株式会社「黒壁」が設立されたのは1988年。バブル経済の真っ只中であったが、明治33年に建築された第百三十銀行長浜支店、「黒壁」の愛称のあったこの建物の保存運動からまちの再生がスタートした。市民有志で資金を出し合い、第3セクターの会社を立ち上げ土地・建物を買い上げ、世界のガラス製品を扱う「黒壁ガラス館」をオープン。旧北国街道沿いの空き店舗を次々と「黒壁」関連店舗や工房に再生した経験は、あまりにも有名である。当時の専務・笹原司郎さんに話しをお聞きしたこともあったが、「ガラス」と「国際性」というコンセプトとの出会いを熱っぽく語っていたことを思い出す。P1020265_edited 1980年の北陸自動車開通を前後したバイパス沿いの西友・平和堂などの郊外型ショッピングセンターの進出計画を背景に、長浜の旧市街地の活性化を模索した青年会議所やロータリークラブの会長、地元銀行など企業経営者のリーダーたちが動いた。笹原氏も倉庫業の経営者であり、町なかで商売を営んでいたわけではない。パトリオティズム(愛郷心)に燃える起業家たちだった。

 P1020316_edited 「まちづくり三法」は、「黒壁」の経験からTMOという事業手法を採用したものの、手厚い制度支援があった全国のTMOは行き詰まり、新しい「まちづくり三法」のもとでも中心市街地活性化の道のりは厳しい。市民ディベロッパーとしての先駆者「黒壁」から学ぼうとする視察者は、今でも全国各地から後をたたない。

 P1020320_edited 「黒壁」の成功を評価する視点として、西郷真理子氏らは、中心市街地における町づくり会社のビジネスシステムである「合意形成のシステム」(プラン)と「開発のシステム」(プログラム)が不可欠としている。合意形成やビジョン・プランづくりに時間がかかり実践に至らないケースは、とりわけ中心市街地の商業者・地権者の権利関係の複雑さに起因している。福川裕一千葉大学教授は、土地の所有と利用を分離し、合理的な土地利用を実現していくことが中心市街地活性化の成否を握るとしている。そのためにも地権者とともに一定の開発利益を保障しつつ再生を担うディベロッパーとしての町づくり会社が必要になる。「黒壁」では中核施設を市民資本で取得・経営し、その他の事業は借り上げ、テナントをシーリングして好循環をつくり、エリア全体を戦略的に開発した先進例だという。

 P1020314_edited 「黒壁ガラス館」入館者は、年間約300万人、借家法式による「黒壁グループ協議会」のネットワークは30をこえ、一種のテーマパークビジネスとして観光客を集客している。しかし、小売業を観光型に移行させても、地元の居住者を支援する商店街振興との関係は依然として課題が残されている。旧北国街道の東側にある二筋のアーケード街や大通寺の表参道も基盤整備事業がなされているものの、シャッターの閉まった店も目に付く。

 P1020273_edited そのなかでも「プラチナプラザ」というシルバー世代が経営する野菜工房・おかず工房・リサイクル工房、「まちづくり役場」という金物店の町屋を借り受けたインフォメーション・センターなど様々な市民主体のまちづくり活動が、空き店舗を活用して展開されているのも「黒壁」ならではである。「まちづくり市民事業」の創造性・自発性に支えられていることが、「黒壁」のまち再生の成功要因なのかもしれない。

 P1020256_edited 私は長浜「黒壁」の市民力には、歴史的な蓄積・伝統と自治的な起業風土を抜きに語れないと考えている。秀吉が築城した長浜城と「楽市楽座」、絹織物・浜縮緬の特産地として栄えた歴史、長浜八幡神社の曳山まつりや子供歌舞伎、江戸時代からの北国街道沿いの歴史的町並み。地域固有の歴史的文化的環境が今日の市民力を育んできたのだと思う。2008年4月からの「黒壁20周年事業」では、長浜城歴史博物館の学芸員による「長浜と黒壁」の出前講座が1年間にわたって開催されていた。

P1020377_edited  「黒壁」保存運動からまちの再生へ。長浜には1984年に市民が主体的にまとめた「博物館都市構想」がある。株式会社「黒壁」は、その実現をめざしているのだという。20年の節目を経て、これからも長浜「黒壁」の市民力の発展について定点観察の旅を続けてみたい。


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