
もう 記憶自体が セピア色になってしまったくらい
遠い 遠い 青い時代
土曜日 彼女の部屋で ぼんやりと 雨の音を聴いてた
雨の音ばかり 聴こえていたのは
たぶん 僕等が 黙ったままだったからだと思う
「どうしても 浜松に行くの?」
『うん でも 数年したら戻ってくる それから 迎えに行くから』
「たぶん 私 待てないと思う そばに居てくれないと」
『電話するし 手紙も書くからさ』
それから また しばらく 雨だけが はしゃいでた
僕等は 卒業後の進路で 少し もめていた
彼女は 東北の実家に帰るから
せめて 僕に関東にいて欲しい と言った
でも 僕は ピアノを造るために 浜松に行こうと思ってた
何年か修行して それから関東に戻ってきて
きっと いつか 結婚できると思っていた
僕は 夢を追いかけようとしていた
ピアノを極めたかった それから 彼女と一緒に生きたかった
でも その ほんの出だしから 道は 真っ二つになっていた
「たぶん 私 待てないと思う それでも 君はいいの?」
そうやって 土曜日は 雨にむせていた
・・・・・・・・・・・・・・・・・
秋になって 研修旅行で 僕等のクラスは 浜松のピアノ工場に行った
僕は 夏休みに 体験修行をしてきたので
研修旅行でも ある工場で 他の学生と一緒に 木工の体験をさせてもらった
次の工場へ 移動するバスの中で 彼女は言った
「やっぱり君は 浜松に行くべきだね」
『なんで? いいの?』
「おがくずにまみれてる君 悔しいけど 今までで 一番 キラキラしてた」
彼女は 少し 淋しそうに笑って 言った
『じゃあ 浜松に行くよ だから きっと待ってろよ』
あの時 彼女は 確かにうなずいた
・・・・・・・・・・・・・・・・・
浜松の 小さなピアノ工場に修行に行って
半年も経った頃 僕等は 終わってしまった
彼女は 東北の地元で 昔の彼氏と 付き合うことにした
「うさぎはね 淋しいと 死んじゃうんだよ」
最後の残酷な電話で 彼女は 泣きながら そう言った
淋しいのは 君だけじゃないんだ と 僕は言えなかった
僕は 大正生まれの 職人達の中に混ざって
毎日 毎日 おがくずに まみれていた
土曜日も 雨の日も おがくずに まみれていた
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
東京に戻って 数年経って 独立した
僕は 独立するという もうひとつの夢を果たした
無我夢中で 新しい日々を生きてる そんな25歳だった
そんな頃 同級生が 教えてくれた
“彼女 結婚したんだけれど 亡くなったんだって”
僕には ふたつとも 重すぎる 辛すぎる 情報だった
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
考えてみれば 僕は あの頃も 絶望してたんだ
浜松でも 東京でも
そっか 今だけじゃなく いつも絶望してたんだ
なんか そんな辛い日々を すっかり忘れてたことに
おかしくて ちょっと笑った
久しぶりに ちょっと笑った
今日は 雨 今日は 土曜日
そして また おがくずに まみれている
もう 僕は キラキラしていない
青い春 朱い夏 そんな時代を終えて 白い秋に生きてる
でも 黙って 頑張る価値を 知っている
この楽器が完成して コンサートで演奏してもらって
その響きが キラキラしてれば いいな
天国の君に 聞かせてあげたいな
僕には あいかわらず
雨の音しか 聴こえないんだけれど
君には キラキラ 響いて欲しいな
遠い 遠い 青い時代
土曜日 彼女の部屋で ぼんやりと 雨の音を聴いてた
雨の音ばかり 聴こえていたのは
たぶん 僕等が 黙ったままだったからだと思う
「どうしても 浜松に行くの?」
『うん でも 数年したら戻ってくる それから 迎えに行くから』
「たぶん 私 待てないと思う そばに居てくれないと」
『電話するし 手紙も書くからさ』
それから また しばらく 雨だけが はしゃいでた
僕等は 卒業後の進路で 少し もめていた
彼女は 東北の実家に帰るから
せめて 僕に関東にいて欲しい と言った
でも 僕は ピアノを造るために 浜松に行こうと思ってた
何年か修行して それから関東に戻ってきて
きっと いつか 結婚できると思っていた
僕は 夢を追いかけようとしていた
ピアノを極めたかった それから 彼女と一緒に生きたかった
でも その ほんの出だしから 道は 真っ二つになっていた
「たぶん 私 待てないと思う それでも 君はいいの?」
そうやって 土曜日は 雨にむせていた
・・・・・・・・・・・・・・・・・
秋になって 研修旅行で 僕等のクラスは 浜松のピアノ工場に行った
僕は 夏休みに 体験修行をしてきたので
研修旅行でも ある工場で 他の学生と一緒に 木工の体験をさせてもらった
次の工場へ 移動するバスの中で 彼女は言った
「やっぱり君は 浜松に行くべきだね」
『なんで? いいの?』
「おがくずにまみれてる君 悔しいけど 今までで 一番 キラキラしてた」
彼女は 少し 淋しそうに笑って 言った
『じゃあ 浜松に行くよ だから きっと待ってろよ』
あの時 彼女は 確かにうなずいた
・・・・・・・・・・・・・・・・・
浜松の 小さなピアノ工場に修行に行って
半年も経った頃 僕等は 終わってしまった
彼女は 東北の地元で 昔の彼氏と 付き合うことにした
「うさぎはね 淋しいと 死んじゃうんだよ」
最後の残酷な電話で 彼女は 泣きながら そう言った
淋しいのは 君だけじゃないんだ と 僕は言えなかった
僕は 大正生まれの 職人達の中に混ざって
毎日 毎日 おがくずに まみれていた
土曜日も 雨の日も おがくずに まみれていた
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
東京に戻って 数年経って 独立した
僕は 独立するという もうひとつの夢を果たした
無我夢中で 新しい日々を生きてる そんな25歳だった
そんな頃 同級生が 教えてくれた
“彼女 結婚したんだけれど 亡くなったんだって”
僕には ふたつとも 重すぎる 辛すぎる 情報だった
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
考えてみれば 僕は あの頃も 絶望してたんだ
浜松でも 東京でも
そっか 今だけじゃなく いつも絶望してたんだ
なんか そんな辛い日々を すっかり忘れてたことに
おかしくて ちょっと笑った
久しぶりに ちょっと笑った
今日は 雨 今日は 土曜日
そして また おがくずに まみれている
もう 僕は キラキラしていない
青い春 朱い夏 そんな時代を終えて 白い秋に生きてる
でも 黙って 頑張る価値を 知っている
この楽器が完成して コンサートで演奏してもらって
その響きが キラキラしてれば いいな
天国の君に 聞かせてあげたいな
僕には あいかわらず
雨の音しか 聴こえないんだけれど
君には キラキラ 響いて欲しいな