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ふぅん

闇閃閑閊 ≡ アノニモス ≒ 楓嵐-風

オジサンと ヤギさんと

2009-04-29 06:37:39 | 日々随想
「ヤギのなぁ エサのさぁ 草を刈ろうとしたんだけどさ・・・」


16時を過ぎた頃 作業が集中して 安定していく時間帯
隣のオジサンが 工房にやってきて 唐突に話はじめた
手には 草を刈る カマを持っている


「でもさぁ 刃が欠けちゃって 上手いこといかないんだよ・・・」


オジサンは 時々 やってくる
そして いつだって わずかにズレたコトを のたまう
初めて会う人は きまって 知的障害を勘ぐる


「それでさぁ これ どうにか出来ないかなぁ・・・」


僕は 鍵盤の作業を 中断して
オジサンの 刃が欠けたカマを 手にとって じっくりと眺める
つまり このカマを 治してくれと そういうコトらしい


『どうしたの? 石にでも ぶつけたの? 結構 ひどいコボれ方じゃん』
「うん そうだと思うんだけどさ ヤギのエサを 刈ろうと思ってさぁ」
『分かった ちょっと待ってて』


僕は グラインダーをセットして カマの刃を大きく削りだした
それから 2階に行って 荒い砥石から始めて 仕上げ砥石まで 
しっかりと刃がつくように 大胆に慎重に カマと格闘した


『たぶん これで大丈夫だよ』
「いやぁ ありがと 邪魔してゴメンネ」
オジサンは しきりに感謝と陳謝を繰り返し 弁解をして 去っていった


彼の話を ジグソーパズルのように 繋ぎ合わせてみると
どうやら 近所の幼稚園にいる ヤギのエサを 取ってきてやろうと
カマを借りたらしいのだが それを 使えなくしてしまったらしい


で さすがに 刃がコボれたままでは 返すに返せないので
隣人の工房を訪ねて 危機を脱したらしい
ふうん よかったね


2階から まだ 濡れてるカマを持って 階段を降りてきた時
オジサンは さっきと同じ場所で さっきと同じポーズで立ったまま
さっきと同じ 困惑した表情で 僕を迎えてくれた


たぶん 30分くらい かかったんだけれど
オジサンは その間 ずっと ポツネンと 
そこに立っていたんだろうな


僕は 鍵盤の作業を再開した
工房には オジサンの 煙草の匂いが かすかに漂っていた
なんだか ちょっと やわらかい気分になった


さ 今日も がんばっていこう!