「トーヨー新報」食客日記

豆腐などの大豆(加工品)、こんにゃくを中心に、日本・世界の食文化……その他諸々について、あれやこれやと夢想する日々です。

捻らない

2012-06-15 15:15:00 | 日記

迷惑メール対策に、またひとつフリー・ソフトを導入。
そういったタイプのソフトウェアは多々あるのだけれど、
今回選ばせてもらったのは、名は体を表す
POPサーバー上でウイルスメールを自動削除」。
何とも直截的なネーミングで、もう少し捻れよ!
とか思うんですけど、こういうセンス、嫌いじゃないですw。

日本語の特殊性

2012-06-15 12:24:33 | 文学的な

内田樹「昔は、中国の周辺地域って――韓国もベトナムもそうなんだけども――
表意文字表音文字、現地語と外来語っていうのが併存していたわけだよね。
(中略)
外来語と現地語のハイブリッドの形で残ってるのって、
世界でもう日本だけなんだよ。
現地語であるところの大和言葉の上に漢語をのっけて、1500年間やってきた」
       ☆
内田の発言も(本人も言うとおり)養老孟司の受け売りなんだけれども、
そうなると、なぜ、日本のマンガもまた“特殊”な表現として
海外に迎え入れられたのか?という問いが、頭をもたげてくる訳。
養老は「マンガとはルビのある漢字であり、日本人の脳は、
漢字を読む場所とカナを読む場所が違うことから始まり、
日本の国語教育を受けていると、マンガの読解力が進む
」と明言していて、
これは極めてクリアな意見なのだけれど、とある場で
同じことを(優しく)発言したつもりが、なかなか伝わらない人もいて……。
       ☆
その時には苛立ちもしたけど(人間が出来てないッす)、後から落ち着いて考えるに、
「日本語」の枠の中でのみ考える以上、異国の言葉との違いも見えてこない。
ただの印象や感想で、異文化・異言語の比較をされてみたところで
反例ひとつを挙げれば、すぐに破綻が見えるのだけれど、
中に安住している人間にはその自覚すらない。
「訳のわからん人が何や言うてはるわ」で本人は自己完結しているから、
投げかける言葉は宙に浮く。違ったふうに考えるのは、非常にむつかしいことなのだ。
       ☆
解剖学的にいうと、表意文字と表音文字、図像と音声などは
脳内の異なる2つの場所で処理をしていて、日本人は
日本語(~マンガ)を通して、それを日常茶飯事に行ってきたことになる。
そういう含蓄、陰影を日本語が構造的に伴うことがわかっていなければ、
「行間を読む」だとか「紙背に徹する」だとかの行為も無理なんではないか? 
いや、そこで、そういった(深遠な?!)読解に本来、価値はあるのか? 
と根源的な疑惑にぶつかってしまう訳なんだけれど……。

『舟を編む』から(4)

2012-06-15 09:39:20 | 文学的な

「玄武書房」が力を入れる辞書『大渡海』の編集工程もいよいよ大詰め。
だが、そこに来てトラブル。用例採集カードに入っていた単語のひとつが
抜け落ちていたことが発覚! 冗談ではなく、血潮の凍る事態。
(この事件の原因で、もう少し何か盛り上がるのかと先読みし過ぎてしまう)
辞書編集部は四校の途中で、再度の徹底見直しを図り、
1か月の泊まり込み「玄武書房地獄の神保町合宿」へと至る。
渦中の馬締光也は、着替えを取りに香具矢と住まう自宅へ帰る。
(タケおばあさんは既に亡くなっている)
       ☆
着替えとシェーバーを旅行鞄に詰め、一息ついた馬締は、
仏壇に線香をあげ手を合わせた。
料理を載せたお盆を手に、香具矢が居間に入ってくる。トラオさんも一緒だ。
「お待たせ」
「ありがとう。いただきます」
「いただきます」
卓袱台を挟んで座り、二人は箸を手にした。
焼き鮭や卵焼きやほうれん草のおひたし。
ネギと油揚げと豆腐のみそ汁は、ほどよく出汁がきいている。
「なんだか朝ご飯みたいな献立になっちゃったけど」
「いつもながらおいしいよ」
馬締がしみじみ言うと、香具矢は照れたようにうつむき、箸の運びを速くした。

『舟を編む』から(3)

2012-06-15 08:53:06 | 文学的な

辞書編集部にも歳月は流れ、いつしか荒木公平に代わって
馬締光也が主任に就き、『大渡海』の編集作業も続いている。
畑違いの女性誌から配属された新編集部員、岸辺みどりも
仕事仲間や“辞書”に愛着を覚え始めている。
ところで、辞書には辞書に特化した用紙が必要で、
製紙会社との摺り合わせも延々と続いていたのだが、
ようやく念願の本文用紙が完成。見本紙にOKを出した岸辺と
製紙会社の営業、宮本慎一郎は2人で祝杯を上げる。
場所は神楽坂に店を構える『月の裏』――
馬締光也の妻、林香具矢が板前として独立した店だ。
       ☆
香具矢は仏頂面のまま、カウンターのなかで立ち働いている。
温度や厚さにまで気を配っていることがうかがわれる刺身の盛り合わせや、
油揚げに納豆をたっぷり詰めてオーブンで軽く焼いたものなどが、
タイミングよくカウンターに並ぶ。
「おいしいなあ」
宮本はうれしそうに料理を食べる。「いいお店ですね」
納豆油揚げも、自宅にある食材ですけど、とてもこんなふうに
カラッとは焼きあがらないですよね」

『舟を編む』から(2)

2012-06-15 08:52:13 | 文学的な

馬締光也の暮らす「早雲荘」に、大家・タケおばあさんの孫、
林香具矢が京都から越してくる。彼女は板前修業の身だが、
魅かれてしまう馬締(まじめ)。事情を知った辞書編集部の面々は、
彼女の勤める湯島の『梅の実』へ冷やかしに出る。
       ☆
香具矢は、一番奥まったテーブル席に四人を案内した。
ほかほかのおしぼりで手を拭き、和紙に筆でしたためられたメニューを眺める。
値段はそう高くない。手のこんだものから煮物のような家庭料理まで、
さまざまな品が並んでいた。
注文を通し、まずはビールで喉を湿らす。荒木が口火を切った。
「ちょっと驚いたぞ」
「とてもきれいなお嬢さんですねえ。まじめさんも隅におけない」
松本先生も、お通しの「揚げ出し豆腐、しめじのあんかけ」を食べながらうなずく。

『舟を編む』から(1)

2012-06-15 08:51:47 | 文学的な

2012年「本屋大賞」を受賞した三浦しをん舟を編む』から
豆腐や納豆にまつわる文章を抜き書きしてみる。
主人公(の一人)、馬締光也は「玄武書房」の辞書編集部に属する。
彼が学生時代から住まう下宿「早雲荘」の大家、
タケおばあさんも同じ下宿の2階に居しており、中秋の名月の夜、
馬締の気落ちした気配を察すると、夕飯に誘ったりする。
       ☆
タケおばあさんにうながされるまま、馬締は小さな卓袱台に向かって正座した。
卓上にはほうれん草のおひたしや、鶏肉と里芋の煮物、
キュウリの浅漬けなどが並んでいる。
「こういうのもあるよ」
タケおばあさんは、肉屋で買ったらしきコロッケも卓袱台に載せた。
「若いひとは、煮物だけじゃものたりないだろう」
そう言いながら、新聞紙を下敷きにした鍋から豆腐のみそ汁をよそってくれる。
ついで、茶碗にご飯をこんもりと。どれも湯気を立てている。