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MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2811 「お小遣い制」の問題点

2025年04月29日 | 社会・経済

 内閣府が「家計調査」などを基に分析したところ、大人の「小遣い」の減り幅はこの20年でおよそ7割とのこと。働き手が1人の世帯で2003年に24万8千円だったお小遣いが23年には7万2千円に、働き手が2人以上の世帯でも35万円から9万1千円に減っていると2月25日の日本経済新聞が報じています。(←「大人のお小遣い、20年で7割減 消費不振の犯人説」2025.2.25)

 内閣府は、別の統計も併せて(それらは)「外食や交通・通信、教養娯楽などに消費されたと推察」している由。コロナ禍後も在宅勤務する人が増え、飲食機会が減ったことや、地元からオンラインで授業を受ける学生が増えたことなどが影響している可能性も高いということです。

 内閣府によれば、「20年代以降、食料品などを中心に物価上昇に直面する中で、消費者が節約意識を高め、教養娯楽関連や衣料品を中心に選択的支出を相対的に減らしているとみられる」とのこと。長寿化が進むなか、医療や介護費用をどれだけ準備すればいいか判断が難しく、収入を貯蓄に回す世帯が増えていることなども影響していると見ています。

 月々のお小遣いが3分の1以下になってしまった可哀そうなサラリーマンたち。実入りが減れば、財布の紐が一層かたくなるのも致し方のない所でしょう。そうした折、昨年12月10日の(言論プラットフォーム)「アゴラ」に、ビジネスジャーナリストの黒坂岳央氏が『「お小遣い制」の真の問題点』と題する論考を寄せていたので、参考までに小欄に指摘の一部を残しておきたいと思います。

 お小遣い制の最大の問題点、それは「収入が一生変わらず低いままになる」ということだと、黒坂氏はこの論考の冒頭に記しています。お金の最も価値ある使い方は「貯金」ではなく「投資」で間違いない。(だからと言って「インデックス投資」とか「不動産投資」をしろというのではなく)自由になるお金があるのなら、何よりも自らの価値を高めるためのビジネススキルへの投資を優先すべきだというのが氏の見解です。

 資産運用は、元手が小さければ大したリターンもなく、複利効果を生むには時間がかかる。一方、ビジネススキルへの投資は、「未来の値段」がしっかり見えているのだから、とにかく手元のお金はドンドン自己投資にまわして収入を増やしていくべきだといのが氏の見解です。

 そこで問題となるのが、(こうした費用の)家計の中での位置づけだと氏は言います。氏によれば、お小遣い制とは、「この先も安定的に収入が維持できる」という砂上の楼閣のような極めて脆弱な前提条件の下に作られた戦略とのこと。「お小遣い制」で(例えば)月3万円のやりくりになると、自己投資にかける資金を捻出するのは至難の業だということです。

 お金というのは、使えば使うほど熟練して使い方が上手になっていくものだと氏は話しています。ところが、お小遣い制になるととにかくお金を使わなくなる(「使わないのがエライ」となる)ので、お金を使うスキルが錆びついていく。その結果、待っているのは「節約」ということしか考えられなくなる未来だというのが氏の指摘するところです。

 例えば、年を取るともう「友達を新しく作る」ということが難しくなる。なので、人によっては既存の旧友を大事にメンテナンスする…という機会も必要になるワケだが、ところがお小遣い制でお金を自由に使えず旧友との再会も出費で渋るようになると、完全に孤立していく人も出てくると氏はしています。もちろんこれは、人間関係だけに限った話ではない。思い切った自己投資、若い頃にしかできない年齢相応の思い出づくりなどあらゆる活動をケチケチしてしまうと恐ろしいことになるということです。

 お小遣い制のリスクはそれだけではない。お小遣い制は、日本円の通貨安、インフレという局面に極端に弱いという特徴を持つと氏は併せて指摘しています。これまでの30年間、日本はずっとデフレ経済だった。デフレということは通貨高を意味するので、日本国内での運用方法としては余計な投資などせず、投資スキルに優れた人を除けばとにかく貯金が最適解だったということです。

 しかし、今や環境は大きく変わろうとしている。インフレ下で10年、20年、人によっては30年スパンで貯金などしてしまえば、貯金のお金の価値は無視できないレベルでどんどん下がっていくと氏は言います。そうした中、長期的な資産運用で最も価値が減るのが貯金なので、(むやみな節約は)最も分の悪い戦略だというのが氏の懸念するところ。そう、必要なのは、「貯める」のではなく何かに「投資する」こと。自分のために「今使う」のが、最も効率がいい場面がこれからどんどん増えて来るということになるでしょう。

 お金は迷わず自己投資に使って己のビジネス単価を高め、高めた収益性を資産運用にまわす。そして余剰資金をその時にしかできない思い出づくりに使いたいものだと、氏は最後に綴っています。個人的にお小遣い制は、(「刹那的な安心感」を除けば)何一ついいことがないように思える。そして多くの場合、その安心感は全くの幻影であるとこの論考を結ぶ黒坂氏の指摘を、私も(「なるほどねぇ…」と)興味深く読んだところです。



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