MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2558 「カネがないから結婚できない」は本当か?

2024年03月18日 | 社会・経済

 MBCコンシューマーファイナンスが昨年12月に20代の男女(1000サンプル)に対して実施した調査によれば、「結婚しようと思える世帯年収」の額を「400万円あれば」と答えた割合は29.1%とのこと。これを「年収500万円」に拡大すると45.2%に広がり、「年収600万円」で(56.1%と)ようやく半数を超えるということです。

 「世帯年収」とはいえ、20代で年収600万円というのは少々ハードルが高いのではないかとも思うのですが、若い世代はそれだけ「家庭を持つ」ということに慎重だということなのでしょう。

 また、「年収がどんなに多くてもしたいと思えない」という回答も21.8%と2割以上あるようで、結婚に対して夢を持てない、積極的になれない若者の姿も浮かんできます。

 因みに、出産・子育て(1人)しようと思える世帯年収額について聞いたところ、「年収700万円あればイメージできる」と回答した割合が51.4%と半数を超えるなど、子育てへのハードルはさらに高いのが現実のようです。

 現代の日本で最大の社会問題と捉えられている少子高齢化。その原因となっている出生率の低下の原因が若者の「未婚化」にあることは、専門家の間でもしばしば指摘されるところです。

 「たとえ貧しい二人でも、愛さえあれば…」というのは、遠い昭和の世代の話。結婚なんかで生活のレベルを下げたくないというのが、Z世代の本音ということなのでしょうか。

 こうして時代を反映する結婚とお金の関係について、コラムニストの荒川和久氏が『「稼がないと結婚できない」と頑張って稼いだ挙句に訪れる「聞いてない」結末』と題する一文を一昨年9月24日のYahoo newsに寄せていたので、参考までに概要を小欄に残しておきたいと思います。

 「少子化の原因は婚姻減である」ということは、既に政府含めもう異論のない話として共有されつつある。それでは、なぜ婚姻が減少しているのか?…その原因として挙げられるのが「若者の経済問題」の存在、いわゆる「金がないから、給料があがらないから結婚できない問題」だと荒川氏はこの論考で話しています。

 確かに、メディアは若者の貧困問題を声高に取り上げ、少子化問題を巡る国会での議論も、子育て世代の経済的困窮や支援策の視点から語られることが多いのが現状です。(前述の)アンケートなどを見ても、収入の問題が結婚の条件のひとつと捉えられているのはおそらく事実でしょう。

 しかし、若者の結婚の障害となっているのは、本当に「お金がない」ことなのか。そこで気になるのが、アンケート調査において時折見られる調査結果だと氏は指摘しています。

 20-30代の男女とも年収に応じて結婚願望が右肩上がりに高まるわけではなく、むしろ400万円台をピークに(男女とも)それ以上稼ぐと「結婚したくない」が多くなる。「金がないから結婚できない」という部分にだけ注目されがちだが、「金があると結婚したくなくなる」という問題も注目すべきだというのが氏の認識です。

 特に女性の場合、20代においてはどの年収層でも「結婚したい」が多かったのに、50代未婚者になると、600万円以上稼ぐ女性の「結婚しくたない」割合がマックスとなる。「したくない」というと語弊がある。正しくは「しなくてもいい」と思うようになるのではないかと氏は言います。

 若いうちは「金がないから」と結婚を後回しにして一生懸命仕事に邁進し、気が付いたら年収はあがったけれど歳も40を超えてしまった。安定した生活に、「いまさらねぇ…」と結婚する必要性を失ってしまうというジレンマがここにはあるということです。

 晩婚化という人もいるが、実際初婚年齢の中央値は男女とも30歳未満であることに変わりはない(男29.8歳、女28.6歳~2019年実績)と、氏は現状を説明しています。

 平均初婚年齢でみてしまうと勘違いしてしまうが、初婚する男女の半分以上は20代のうちに結婚している。つまり、結婚している人は、年収より「結婚したい気持ち」を重視したからこそ結婚したのであり、「金がないから結婚できない」といった思考はそもそもないのだろうということです。

 身も蓋もない言い方になるが、「金がないから結婚できない」と言っている人は、「金があっても結婚できない・しない・そもそもしたくない」人なのかもしれないというのが、この論考における氏の見解です。

 実際、生涯未婚男性において最も人口が多いのは年収500万円以上の正規社員。結婚なのか?年収なのか?別に二択の話ではないが、少なくとも多くの人は加齢とともに「結婚したい」という気持ちがなくなっていくことは確か。もしも、結婚したいのなら年収とかなんとか(四の五の)言わず、なるべく若いうちに結婚を優先した方がいいというのが氏の指摘するところです。

 多くの人が「まだいいや…」と決断を先延ばしし、現状維持に甘んじているうちに結局「どうでもよくなってくる」ということでしょうか。

 40歳過ぎても仕事を充実させることはできるが、40歳過ぎたら結婚は困難となる。とはいえ特に男性に関しては、「結婚したいなら金を稼げ」という社会及び婚活女性からの圧があることも確かで、(彼らにしてみれば)「どうすりゃいいのよ」と言いたくなるかもしれないとこの論考を結ぶ荒川氏の指摘を、私も興味深く読んだところです。