昨年度(2021年度)の国の一般会計決算によれば、国税収入は67兆円と前年度から約10%増え、2年連続で過去最高を更新しているとされています。
新型コロナウイルス感染症の拡大により様々な形で社会がダメージを受ける中、給付金・交付金・協力金などによる消費テコ入れの効果などもあって、日本経済が何とか踏みとどまっている様子が見て取れます。
とはいえ、次々と繰り出される経済対策に国の財政は音を上げているのも事実です。国の債務残高はGDPのおよそ2.6倍、国債の発行残高だけでも1026兆円に達しようという現在、財政規律の確保は政府にとって喫緊の課題と言えるでしょう。
こうした状況を踏まえ、7月8日の日本経済新聞は「増えた税収のバラマキは禁物」と題する社説を掲げ、国による今後の無秩序な歳出規模の拡大に警鐘を発しています。
2年連続で過去最高を更新した国税収入は、悪化した財政状況の改善につながるものとして期待されるが、一方で歳出を膨らませる圧力にも依然根強いものがある。特に、税収増をバラマキ的な政策に充てるのは禁物だと、記事はその冒頭で指摘しています。
21年度は国の「基幹3税」が軒並み伸びた。新型コロナウイルスの影響は残るものの、世界景気の復調や行動制限の解除、円安による収益改善で法人税収は21%の大幅増収。所得税も給与所得や配当の増加で11%増えたと記事は言います。
一方の消費税収は前年度より4%増えて21兆8800億円と、所得税を引き続き上回り最大の税源となった。年度の後半に資源や食品などの価格が上昇したため、それに伴って税収が増えた面もあったということです。
毎年度、多額の国債を発行してやりくりを続ける国の財政にとって、収入の増加はプラス要因となる。しかし、今回の税収増は、力強い経済成長で賃上げが進み、家計が増えた所得で消費を拡大するという「好循環の産物」とはいえないというのが記事の認識です。
そうした中、(一方で)国の支出は大幅に伸び続けている。一般会計の歳出額は当初予算の107兆円から、コロナ対策や岸田政権が実施した経済対策の影響で142兆円に膨れ上がり、税収の2倍を超えていると記事はしています。
予算に計上したのに使わなかったり、執行を22年度に繰り越したりした「使い残し」も21年度には28兆円に達した。コロナの感染状況が不透明だった事情はあるが、(まずは)規模ありきの発想を改めるべきだというのが記事の指摘するところです。
足元では、税収増を今後の経済対策の規模を膨らませる財源に充てようとする思惑もあるようだが、それは適切とは言えない。物価高の国民生活への影響に目配りは必要だとしても、財政出動で大幅に需要を追加すれば、物価をさらに押し上げ、逆効果となる懸念もあるということです。
ウクライナ危機に端を発するエネルギー価格の上昇に外国為替市場における空前の円安基調などが加わり、国内におけるインフレ懸念は徐々に高まっている。そうした中、国内総生産(GDP)の2倍を超す長期政府債務を抱える政府は、今回の税収増をできるだけ財政の改善に充てる姿勢を堅持すべきだと記事は言います。
国政選挙を気にする必要のない「黄金の3年間」。MMT理論などを口にする政治勢力もあるだろうが、岸田政権がポストコロナの政権運営に向けて採るべき道は財政規律の確保だということです。
さて、岸田政権の誕生まで、10年近くにわたった安倍・菅両政権による(いわゆる)「アベノミクス」がもたらした負の遺産として、この「財政規律の劣化」を挙げる人は多いでしょう。
普通に考えれば、67兆円しか税収がない中で100兆円を超える歳出を許し続ければ、残りは国債発行に頼るしかない。こうした予算を平然と組んでいるようでは、いつまでたっても借金が返せる見通しは立ちません。
いったん市場に出た国債を日銀がほぼ無制限に引き受けるという現在の手法は、最後の貸し手である日銀にすべてリスクを背負わせる(いわゆる)「禁じ手」そのもので、財政規律に対する国民の感覚を麻痺させる麻薬のような手法だと言っても過言ではないでしょう。
アベノミクスの「三本の矢」のうちの2本、「異次元の金融緩和」と「積極的な財政出動」により円高は是正され、株価もいったんは底値を付けました。これにより、輸出製造企業や投資家は一息ついたようにも見えますが、それを上回る副産物が積み上げられている現状から目を背けるわけにはいきません。
企業収益は内部留保に回っただけでトリクルダウンせず、勤労所得も伸び悩んだすえ格差は拡大。国家財政と日銀の信用は大きく低下し、国債の格付けも先進国で最下位の24位に下落しています。そして日銀は、GDPを大きく超える金額の国債を背負わされ、金利上昇と国債価格の下落による債務超過におびえる毎日を過ごしています。
欧米先進諸国の政府や中央銀行が、こぞって長期金利の引き上げや金融の引き締めに動く中、政府・日銀としてもこれ以上(現状を)見て見ぬふりはできないのではないかと、私も改めて受け止めているところです。
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