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MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2837 米価高騰の悪玉は農協か?

2025年05月28日 | 社会・経済

 「コメは買ったことがない…」との失言で辞任を余儀なくされた江藤拓前農林水産大臣。その後任として今回任命された小泉進次郎氏が打ち出したコメ価格引き下げ政策が、国民の支持を集めているようです。

 特に評価されているのはそのスピード感。小泉新大臣は就任後、間髪を置かず政府備蓄米の放出方法に大きな変更を加えることを発表。これまでのJA(農協)を中心とした大手集荷業者に競争入札で売り渡す方式をやめ、イオンやドンキ、アイリスオーヤマなどの(消費者に身近な)大手小売業者に直接、随意契約で(さっさと)引き渡しを始めています。

 掲げたのは、現在5キロ当たり4000円を超えている精米の販売価格を、わずか2週間で半額近くまで引き下げるという目標。もしもこの目標が達成され、本当に6月上旬に5キロ2000円台の備蓄米が大手スーパーの店頭に並ぶような状況が生まれれば、小泉氏に対する国民の評価は一気に高まり「次期総理」の椅子も見えて来ようというものです。

 一方、メディアなどで米価高騰の「犯人探し」が続く中、主流となりつつある意見の一つに(いわゆる)「農協悪玉論」というものがあるようです。悪者は誰なのか?…疑心暗鬼が高まる中で、「農業の売り惜しみが価格の高騰を招いた」「高値を維持するために、落札した備蓄米を卸や小売りに渡さない」といった主張は、確かに誰の目にも分かり易いものに映るでしょう。

 このような(「米価高騰に農協が関与し得ている」という)疑念を基に、「農協は解体すべきだ」という感情的な意見も聞こえてきますが、真偽のほどは(「敢えて」かどうかは分かりませんが)未だ藪の中。他方、今回、小泉新大臣が実行に移した市場の原理から離れた、政治的な意図をもって行われる価格への直接的な介入に関しては、(長期的に見て)日本の農業やコメ市場に歪みをもたらす可能性がある…と懸念の目を向ける農業関係者も多いようです。

 そうした意見を代表するものとして、5月28日の(農業関係業界紙である)「日本農業新聞」に、元農林水産省の官僚で東京大学特任教授の鈴木宣弘氏が、『令和の米騒動、農協は「悪玉」か?』と題する論考を寄せているので、参考までに指摘の一部を残しておきたいと思います。

 農水大臣の交代とともに、米価高騰を巡る「農協悪玉論」が再び「農協改革」につながりかねない様相が生まれているが、(そこは)実態からよく検証してみる必要があると、鈴木氏は記事の冒頭で指摘しています。

 まず、今年の米価高騰は「農協がつり上げたから」という指摘があるが、残念ながら農協に「つり上げる」ような力はないと氏はしています。氏によれば、農協は実際、米が集まらなくなって困っている現状にあるとのこと。米不足が深刻化して農家に直接買いにくる業者が増え、農協よりも高値を提示して買っていくため農協は買い負けているということです。

 「これまで(農協は)減反に協力して高米価を維持してきたではないか…」とも言われるが、高騰直前の米価は30年前の米価の半値以下の1万円前後にまで下がっていた。高米価を維持してきた実態はなく、減反の米価維持効果も既になくなっているというのが鈴木氏の見解です。

 食糧管理制度の下、政府が米を全量買い上げていた時代には、(確かに)農協が全量を集荷していた。しかし、流通が自由化されていくにつれ、小売りを中心とした取引交渉力に押されて米価は下り、同時に農協の集荷率も下がって、昨年はついに約3割にまで落ち込んだと氏は言います。

 農協による「共同販売」は、農家がまとまって強力な買い手と対等な取引交渉力を発揮できるようにする大切な機能。中間マージンを削減して、農家にはより高く、消費者にはより安く届ける効果があることを、自ら作成した計量モデルで氏も検証したということです。

 一方、かねてから「農協には政治力があり、与党と農水省と結託しているではないか…」との疑念の声も聞かれる。確かに、以前は確かに政治力があったかもしれないが、TPPに猛反対した際に与党から逆襲されて、要のJA全中の権限がそがれてしまったと氏は話しています。

 以前は、農林族・全中・農水省が「トライアングル」などと呼ばれ、農政を決定しているとされていたが、その力は既に失われている。小選挙区制で農業に強い議員も減って全中も力をそがれ、農水省も財務省と経産省に対する(以前のような)「拮抗(きっこう)力」を失っているというのが氏の認識です。

 そんな現状の下、一部で強く主張される「農協改革」の本丸は、

 ① 農林中央金庫の貯金100兆円とJA共済連の共済の55兆円の運用資金を外資に差し出すこと

 ② 日本の農産物流通の要のJA全農をグローバル穀物商社に差し出すこと

 ③ 独占禁止法の「違法」適用で農協の共販と共同購入をつぶすこと

の3つにあると、氏は記事の最後に指摘しています。過酷な市場に任せていては、(脆弱な)日本の農業や農家は生きていけなくなる。農協は、日本の食を支える農業者の最終的な拠りどころだということでしょう。

 (「…だから改革は必要ない」ということでもないのでしょうが)こうした氏の言葉のひとつひとつが、「日本の食糧生産を守りたい」という思いに満ちていることだけは私にもわかります。一方、コメに代表される農産物の高騰に苦しむ消費者は、農家の状況をどこまで理解できるのか。

 厳しい世論を背景に、米高騰問題を解決して一気に農協改革を進めたい小泉新農水相。そんな彼を念頭に置きながら、『「改革」の名を借りた「売国」に歯止めをかけねばならない』とこの論考を結ぶ(農協擁護者としての)鈴木氏の主張を、私も大変興味深く読んだところです。



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