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MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2812 トランプ関税とグローバル資本主義

2025年04月30日 | 国際・政治

 米商務省が4月29日に発表した今年3月(財:モノ)の貿易収支(季節調整済み)は、赤字が1620億ドル(9.6%増)と過去最高に拡大したと各種メディアが報じています。報道によれば、その背景には関税の発動を前に企業が(いわゆる「駆け込み」で)輸入を急いだことがあるとのこと。貿易赤字を解消するためのトランプ関税が、(一時的なものであれ)赤字を大きく膨らませているのは皮肉な結果です。

 トランプ大統領の二転三転する関税政策が企業に混乱と不確実性をもたらしていることから、これから先、米国の経済成長がほぼ停止すると予想するエコノミストも多い由。国際通貨基金(IMF)も4月22日、2025年の世界の成長率見通しを前回1月時点の予測から0.5ポイント下げて2.8%としたところです。

 かつて米国自身が強く主導してきた自由貿易の流れに「竿を指す」トランプ政権の動きに、大きく戸惑う諸外国の指導者たち。そしてそんな彼らインテリの姿を尻目に、「我々はグローバル資本主義の被害者」「トランプ大統領よくやってくれた」と留飲を下げている米国民も多いと聞きます。

 そういえば、先日惜しまれて亡くなった経済評論家の森永卓郎氏が、「(格差の拡大や環境破壊など)すべての原因はグローバル資本主義にある」と説いていたのを今さらながらに思い出します。もしも彼が存命であったなら、グローバル資本主義を真っ向から否定するトランプ政権の動きにどのような評価を下すのでしょうか。

 そんなことを考えていた折、作家の橘玲(たちばな・あきら)氏が『週刊プレイボーイ』誌に連載中の自身のコラム(4月21日発売号)に、『「グローバル資本主義が諸悪の根源」なら、トランプ関税でよりよい世界になる?』と題する(多少アイロニカルな)一文を寄せているのを見つけたので、指摘の一部を小欄に残しておきたいと思います。

 あなたはある町でパン屋をやっていた。ところが隣町に新しいパン屋ができて、安くて美味しいパンを売るようになった。当然、大人気で、あなたの町の人たちも隣町にパンを買いに行くようになった…。町ごとの経済を考えると、あなたの町の富が隣の町に流出しているように見えるが、これが(件の)「貿易赤字」で、隣町は同じ額の「貿易黒字」を計上していると、橘氏はコラムの冒頭で例え話を切り出しています。

 店にお客さんが来なくなったあなたは、「これはきっと隣町の陰謀にちがいない」と考え、町の人たちに向けて「隣町の不正に報復すべきだ」と訴えた――(分かり易くいってしまえば)これが米国人から見た「トランプ関税」の姿だというのが橘氏の認識です。

 トランプ氏(やその支持者たち)は、貿易黒字は「得」、貿易赤字は「損」だと信じている。彼らの論理で言えば、アメリカが中国や日本に対して貿易赤字になっているのは、不正によって損させられているからだということで、こうして世界経済は、パン屋の寓話と同じになってしまったというのが氏の指摘するところです。

 実は、この誤解は、1980年代に入って深刻化した日米貿易摩擦でアメリカ政府が主張してから、半世紀近くにわたってずっと続いているものとのこと。国際経済学の初歩の初歩なので、トランプ政権の官僚たちも当然このことは知っているはず。それにもかかわらず、これがブードゥー(呪術)経済学であることを大統領に理解させることができず暴走を許してしまったことは、まさに経済学の敗北だと氏は話しています。

 高関税は経済活動を委縮させるので、アメリカでも日本でも、世界中で(早速)株価が反応、暴落した。これに対してトランプは、「株価の下落は望まないが、薬を飲まなければならない時もある」と強弁しつつも、米国債の価格が急落したことで景気の悪化を恐れ、関税の上乗せを90日間停止することを決めたということです。

 一方、皮肉なのは、国民の豊かさの指標である「1人当たり名目GDP(2023年)」は、世界7位の米国(8万2715ドル)に対し(目の敵にされた)日本は半分以下の3万3899ドルで34位に沈んでいること。トランプの妄想とは逆に、貿易赤字のアメリカはゆたかで、貿易黒字の日本は貧乏なのははっきりしていると氏は言います。

 さらなる皮肉は、高関税によってアメリカ人が貧乏になれば、輸入品を買うことができなくなって貿易赤字が縮小すること。(ほぼ)すべての経済学者が、トランプが唱える「関税による経済回復」を愚行だと批判するのもある意味当然だろうというのが氏の見解です。

 さてそこで、これまで左派(レフト)やリベラルが、「経済格差」の元凶として「グローバル資本主義」を諸悪の根源として批判してきたのは周知の事実だと氏はコラムの最後に記しています。ということは、つまり「米国一国主義」に端を発して世界経済の分断が広がれば、その元凶が失われ(もしかしたら)格差の少ない安定した社会がもたらされるかもしれないということ。

 そうした視点に立ち、もしも今回のドタバタ劇に意味があるとすれば、トランプ氏が関税によってグローバル経済を破壊しようとしたことで、(多くの「知識人」が主張してきたように)より公正で平等な世界になるかが事実によって検証できることくらいだろうとコラムを結ぶ橘氏の指摘を、私も興味深く読ませてもらいました。

 



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