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MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2835 誰かが黒字なら誰かは赤字(自由貿易とはそういうもの)

2025年05月25日 | 国際・政治

 日本と欧州連合(EU)の閣僚が貿易や経済安保を話し合う「日・EUハイレベル経済対話」が5月8日に東京都内で行われ、米国のトランプ政権が進める相互関税などの保護主義的な動きに対し、自由貿易体制を維持するため相互の協力関係を確認したと報じられています。

 会合にはEUのシェフチョビチ貿易・経済安全保障等担当委員と岩屋毅外相、武藤容治経産相が出席。シェフチョビチ氏は「日本とEUは経済と安全保障で同様の課題に直面している」と述べ、ルールに基づく貿易の重要性を強調した由。「経済安全保障」が注目される昨今、保護主義への傾斜が相互安全保障の障害になると捉えられていることは注目に値します。

 しかし、もともと「グローバル経済」や「自由貿易」と、「地域安全保障」との相性は、それほどいいものではなかったはず。日本で言えば、「食糧安保」然り、「エネルギー問題」然り、「防衛資材」然り…国内において一定量が確保できなければ「心配」と考える国民も依然多いことでしょう。

 もちろん、地政学的なリスクが高まる昨今では、同じ価値観を持った国同士がネットワークを構築し、必要な部分を補い合うという集団安全保障や集団的自衛権の確保が主流となっています。しかしその一方で、(だからこそ)一旦、国家間の信頼関係が失われたり緊張関係が高まったりする事態が生じると、地域の安全保障環境も同時に大きく損なわれる環境も生まれがちのようです。

 そうした折、5月14日の総合情報サイト「Newsweek日本版」に経済評論家の加谷珪一(かや・けいいち)氏が、『トランプ関税を批判しながら、「国産」にこだわる日本は矛盾している? 自由貿易が「限界を迎えた」理由』と題する一文を寄せているので、参考までに指摘の一部を残しておきたいと思います。

 米トランプ政権の相互関税政策への対応に各国が苦慮している。しかし、(見方によれば)トランプ氏は各国が潜在的に持っている保護主義的価値観を前面に押し出したにすぎず、「アメリカだけが貿易赤字を気にしない」ことで成り立っている戦後の自由貿易体制の矛盾を顕在化しただけとも言えると、加谷氏はこの論考の冒頭に綴っています。

 各国からの輸入品に「高関税をかける」という保護主義的な動きを強めるトランプ氏。氏によれば、(日本を含めた)各国メディアはトランプ氏に対する批判を繰り返すが、多くは「トランプ氏は無知であり、保護主義を実施すればアメリカも損することを分かっていない」という話に集約されるということです。

 しかし、トランプ政権が掲げた政策は、本当に(それほど)メチャクチャなのか?…と、氏はこの論考で(敢えて)疑問を呈しています。氏によれば、自由貿易体制を前提として運営されてきた戦後の国際社会において、理論的根拠となっているのが(イギリスの経済学者)リカードが提唱した「比較優位説」とのこと。その重要なポイントは、「各国が相対的に得意な分野に特化したほうが全体にとって利益になる」という部分だと氏は説明しています。

 一国で全てを賄うよりも、各国が分業を行い、不得意なものは輸入したほうが全体の生産性は上がる。自由貿易体制における貿易黒字・貿易赤字は役割分担の結果として生じた現象にすぎず、それ自体に良い悪いという意味はないというのが(比較優位説における)標準的な解釈だということです。

 こうした自由貿易の理論に従えば、「不得意なモノを生産するのは非効率なので、政策として選択すべきではない」ということが合理性を持つ。しかし、人間というのは感情を持つ厄介な動物であり、現実はそうなっていないと氏は言います。自由貿易体制で大きな利益を得てきた日本ですら、保護主義的価値観は社会に広く浸透している。例えば航空機や半導体の分野はその象徴だということです。

 航空機産業には、航空機本体の製造と、部品・素材という2つの分野がある。日本は航空機を製造するのが不得意であり、部品や素材の製造を得意としている。逆にアメリカは航空機本体の製造が得意だと氏は説明しています。

 そうであれば、日本が航空機本体を開発・製造するのは非合理的で、部品や素材に特化すればよいとの結論になる。高性能半導体も同様で、日本が最も不得意とする分野の1つであり、必要な製品は輸入したほうが圧倒的に効率的だということです。

 しかし、それでも日本はジェット旅客機の国産化にこだわり、国費まで投入してメーカーを支援した(→プロジェクトは失敗)。高性能半導体についても、数兆円の国費を投入して国産品を開発し、世界市場に打って出ようとしていると氏はしています。

 こうした輸出振興策は、自由貿易の理論に従えば無意味ということになるが、「日の丸を世界に」という一連の政策を支持する国民は多い。そして同様に、貿易赤字についても「デジタル貿易赤字」が「問題だ」と指摘されるケースが増えているが、「問題だ」とする言葉の裏には、貿易赤字は悪とのニュアンスが強くにじみ出ているということです。

 このように、(例え頭ではわかっていても)各国は「貿易を黒字にしたい」という無意識的な価値観を持っており、これまで赤字を気にしていなかったアメリカもその意向を前面に押し出すようになった(のだろう)と氏はこの論考で推測しています。

 しかし、誰かが黒字になれば、その分誰かが赤字になっているのは小学生でもわかること。双方が黒字を主張する状況で(このまま)自由貿易体制を維持するのは困難だろうと話す加谷氏の指摘を、私も興味深く受け止めたところです。



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