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MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2831 人口構成の変化と労働市場 ㊦

2025年05月22日 | 社会・経済

 人口構成の変化による日本の労働市場への影響について、昨年12月9日のビジネス情報サイト「現代ビジネス」に、リクルートワークス研究所アナリストの坂本貴志氏が『これからの日本は高齢者も女性も「みんな働く社会」になるという「避けられない未来」』と題する興味深い論考を寄せています。

 生産年齢人口の急激な減少が始まる中、人手不足の深刻化に伴う賃金水準の上昇は、労働者の行動を変化させると同時に企業の行動にも変化を促すだろうと氏はこの論考で予想しています。個別企業にとってみれば賃金上昇は単純に人件費の上昇を意味し、コストの増加は利益を圧迫する要因になる。これからの局面においては、あらゆる企業が労働市場からの賃金上昇の圧力にさらされ、企業はそれを受け入れざるを得なくなる(だろう)というのが氏の認識です。

 従業員の報酬はあくまで労働市場の均衡価格で決まるため、利益が増えているからといって必ずしも従業員への配分が増えるわけではない。しかしその一方で、労働者の賃金が労働市場の需給関係で決まる以上、人口減少局面では、労働市場からの圧力が企業利益を縮小させる方向に働くことは必至だというのが氏の指摘するところです。

 人口調整局面において、(これまで日本の)企業は安い労働力を活用して多額の余剰資金を蓄えてきた。しかし、労働市場がひっ迫して賃金上昇圧力が強まれば、今後の資金循環の構造はこれまでとは異なるものになる可能性があると氏は言います。

 人口減少局面では、企業がこれまで蓄えてきた利益を(人件費=コストとして)吐き出していく局面が訪れると予想されるところ。それでは、そうして吐き出された費用は、人件費のうちのどこ(誰?)に向かうのでしょうか。

 雇用形態別に賃金の推移を見てみると、正規雇用者よりも非正規雇用者の方が賃金上昇のスピードが速いことがわかる。データをみると、名目時給が最も上昇しているのは「パート労働者」で、2013年の1067円から2023年には1318円まで上昇している(10年間の増加率:23.6%)と坂本氏はここで指摘しています。

 そして、次に賃金が上昇しているのは「一般労働者かつ非正規雇用者」で、2013年の1316円から2023年には1539円に増えている(同:16.9%)。一方、最も賃金が上がっていないのが正規雇用者で、2013年の2370円から2023年の10年間で2537円、わずかに7.0%しか上がっていないということです。

 非正規雇用者から先に賃金が上がっているのはなぜか。それは非正規雇用の領域ほど労働市場の需給が賃金にダイレクトに影響を及ぼすからだと氏は説明しています。正規雇用者よりも契約社員や派遣社員、契約社員や派遣社員よりもパート労働者の方が需給への感応度が高い市場となっている。つまり、労働市場の需給が緩んだときに真っ先に雇用を調整されるのが非正規雇用者であるのと同時に、労働市場の需給がひっ迫したときに先行して賃金が上がるのが非正規雇用者だからだということです。

 労働市場の需給が緩ければ、企業は労働市場から安い労働力を大量に確保することができる。一方、需給がひっ迫した状態にあれば、(労働者としてはほかにも求人がいくらでもあるわけだから)企業の都合で働かせるような求人には見向きもせず、より条件の良い求人に応募することになると氏は説明しています。

 そして、非正規雇用者と正規雇用者の賃金格差は、企業側の従業員の雇用形態の選択にも影響を及ぼすだろうと氏は(予想を)続けます。非正規雇用者の賃金上昇や社会保険の適用拡大によって、正規・非正規間の格差が小さくなれば、非正規雇用者の人件費が高騰する。企業としては従業員を非正規雇用の形態で雇うメリットが少なくなるので、非正規雇用の従業員を正規転換するなどして戦略的に正社員を増やしにいくことになるということです。

 さて、坂本氏の論理を前提とすれば、詰まるところ生産年齢人口の減少に伴う日本の雇用のひっ迫は、まずは(流動性の高い)非正規を中心に賃金の上昇を招いていくだろうということ。そして、そうした状況を契機として、労働市場そのものが正規雇用中心主義に戻っていくということでしょう。

 労働需給のひっ迫によって、安定雇用や労働条件の改善、職場環境の向上なども期待できるはず。しかし、さりとてその体系は、(従来のような)メンバーシップ制に裏打ちされた新卒終身雇用の形態から大きく様変わりし、ジョブ型・能力給制の厳しいものになるのはいた仕方のないことでしょう。

 終身雇用はもはやオワコン。これからは、自らの人的資本を磨き「働きた時に働く」…という自由な働き方を選択する人が(ますます)増えていくということでしょうか。

 実際、現在でも、大卒の新入社員の就職後3年以内の離職率は32.8%に及んでいるとのこと。「転職上等」の若者を中心に、売り手市場を背景に企業を渡り歩くキャリア志向の状況が一段と強まるのだろうなと、氏の指摘を読んで私も改めて感じたところです。



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