MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2510 ウクライナが勝利することの意味

2023年12月10日 | 国際・政治

 ロシア軍により占領された地域からの領土奪還を目指すウクライナの(いわゆる)「反転攻勢」が始まってから既に半年以上。しかし、当初、元気のよかったウクライナ軍も次第に思うような戦果を上げることが難しくなり、目標達成に見通しが立たない状況と伝えられています。

 国際的な関心がパレスチナ情勢の緊張に移る中、物量に勝るロシアは自軍に有利な消耗戦に持ち込む構えを見せています。一方、苦戦するウクライナは戦略の仕切り直しを迫られているとされ、各国に軍事支援の強化を訴えるゼレンスキー大統領も必死の様相です。

 12月1日に公開されたAP通信のインタビューでゼレンスキー大統領は、「我々は望んだ結果を得られていない。これは事実だ」と認め、「だからといって我々はあきらめるべきだ、降伏すべきだということにはならない」と、悔しさを滲ませたとされています。

 そんな中、ウクライナにおける人道状況の悪化に懸念を深める国連や安保理においても、ロシア批判を口にする国ばかりではないようです。多くがアジアやアフリカ、南米の「グローバルサウス」と呼ばれる新興・途上国の国々で、(例えば)ブラジルのビエイラ外相は政治解決の必要性を強調し、「一方だけの話を聞くのは対話ではない」と断じたということです。

 武器支援でウクライナを支える欧米に対し、欧米先進国は「戦争をエスカレートさせている」と主張する新興・途上国。その中には「即時停戦」やロシアとの交渉を求めている国も多く、欧米との溝は深いと言えるでしょう。

 膠着する戦況に揺れる世界の国々。混迷を深めるウクライナ情勢に対し、8月10日の総合情報サイト「PRESIDENT ONLINE」が、『サピエンス全史』で知られる歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリ氏へのインタビュー記事(『「プーチンはすでに負けた」歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリが、そう断言する理由』)を掲載しているので、参考までにその一部を小サイトに残しておきたいと思います。

 過去数十年、私たちは歴史上で最も平和な時代を謳歌してきた。1945年以降、国際的に承認されている国家で、外国からの侵略により地図から消えた国は1つもないのがその証左だと、ハラリ氏はインタビューに答えています。

 内戦のような別種の争いは減っていないが、21世紀最初の20年間で、人間の暴力により殺害された人の数は、自殺や自動車事故、肥満に起因する病の犠牲者数を下回っている。言うなれば、火薬は砂糖よりも死をもたらす存在ではなくなったというのが氏の指摘するところです。

 この平和の時代は、各国の政府予算にも明確に反映されている。過去数十年間、世界中の政府が自国は充分に安全であると感じたため、軍隊にかけられる予算は平均してたったの6.5%だったと氏は言います。

 さらに、EU加盟国のあいだでは、この期間の防衛費は平均して3%程度に過ぎなかった。一方、先進各国では教育・保健・ソーシャルワークに、はるかに多くの金額が投資されおり、これは驚くべき成果だというのが氏の認識です。

 さて、過去数千年の間、王、皇帝、スルタンたちは、予算の大半を軍隊に費やし、臣民の教育や保健にはほとんど投資することがなかった。そして、古い王たちと同じように、プーチンは予算の10%以上をロシア軍に費やし、社会サービスを疎かにすることで軍事力を築いてきたと氏はここで話しています。

 この先もしも、プーチンによるウクライナ侵攻が成功するようなことがあれば、世界中の国々が彼を真似ることになるだろうと氏はしています。実際、このような征服を夢見る独裁者は世界に大勢おり、彼らはプーチンと同じことをして幸福を感じるはずだということです。

 そうした独裁者に相対する民主主義国家も、(結果として)自衛のために軍事予算を2倍、3倍にするように求められるだろうというのが、このインタビューにおける氏の見解です。

 例えば、既にドイツは(一夜にして)国防予算の倍増えお決定した。教師、看護師、ソーシャルワーカーに充てられるべきお金が、戦車、ミサイル、そして「サイバー兵器」にかけられることになったということです。

 さらに戦争の新時代は、人類共通の緊急の課題をめぐる国際協力を衰退させることになるだろうと氏は予測しています。一方、プーチンが敗北すれば、平和な時代の継続が保証される。それは世界中の国が、暴力に勝ち目はなく、プーチンを真似れば罰せられるという教訓を学ぶからだということです。

 (そうなれば)国防予算は低く抑えられ、保健予算は高くなる。プーチンが敗北すれば、おそらく地球の住民一人ひとりがより良い医療と教育を享受できるようになるというのが、氏の期待する未来です。

 現在のウクライナの人々(の置かれた状況)は、全世界の未来の輪郭を描いているのだとハラリ氏は記事の最後に述べています。

 もしも、我々が(プーチンによる)圧政と攻撃の勝利を許したら、世界中のすべての人がその結果を被ることになる。そう考えれば、今ただの観察者に留まっている意味はない。今こそが、立ち上がり態度を示す時だと話すハラリ氏の指摘を、私も重く受け止めたところです。



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