MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2598 「国民年金」納付期間延長の論点

2024年06月21日 | 社会・経済

 厚生労働省が公的年金の将来の給付水準を見通すために実施する、5年に1度の「財政検証」。この夏に行われる検証では、国民年金保険料の納付期間を5年間延長し20歳から65歳になるまでの45年間にした場合や、厚生年金の加入要件を緩和した場合の影響などを試算するとされています。

 公表される試算結果を踏まえ、政府は年末までに具体案を詰め、来年の通常国会に法案を提出するとのこと。「100年安心」を目指す年金制度を維持するためとはいえ、試算の結果が保険料に直結するだけに、メディアを中心に既に様々な指摘が行われています。

 そうしたものの中でも、今回最も注目されているのは、納付の5年延長であることは論を待ちません。少子高齢化が想定以上に進む中、高齢でも働ける人は働き、なるべく「支える側」に回ってもらおうという理念はわかります。しかし、自営業者など5年間で約100万円の負担増になると聞けば、「話が違う」「納得がいかない」とする人も多いようです。

 そうした折、5月15日の総合情報サイト「Newsweek日本版」、経済評論家の加谷珪一(かや・けいいち)氏が『総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長」案はなぜ避けて通れない議論なのか?』と題する一文を寄せていたので、参考までに小欄にもその概要を残しておきたいと思います。

 まずは、国民年金の納付期間を65歳まで延長する案について。多くの国民が勘違いしているのだが、(確認しておけばこれは)平均的なサラリーマンにとっては(ほぼ)関係のない制度改正だと、氏はこの論考の冒頭で説明しています。

 日本の公的年金は、全国民共通の国民年金とサラリーマンだけに適用される厚生年金の2階建てとなっており、今回、議論の対象となるのは国民年金の部分。現在の国民年金は20歳から60歳までの40年間保険料を納める仕組みとなっており、これを5年延長して65歳までにしようというのが主な変更点だということです。

 一方、企業で働くサラリーマンは、本人が希望すれば65歳まで継続雇用することが義務付けられている。このため、現在でも多くのサラリーマンが65歳まで働き、厚生年金と併せ国民年金の保険料を自動的に納めていると氏は言います。

 なので、国民年金の納付が65歳まで延長になったとしても、もともと65歳まで働いて保険料を納める予定だった人の負担増にはならない。そこで(純粋な意味での)負担増となるのは、①60歳で国民年金の納付が終了する自営業者と、②60歳で引退し、その後は働く予定のないサラリーマンだということです。

 さて、この人たちは、60歳以降は保険料を納めないはずだったので、延長になった分だけ納付額は確実に増える。現在、国民年金の1カ月当たりの保険料は1万6980円なので、5年間納付が延長されると総額100万円ほどの負担増となると氏は話しています。

 一方、この人たちが受けている国民年金の給付額は、現時点で月当たり約6万6000円とのこと。厚生年金に比べてかなり低く見えるのは、この金額は仕事を続けて収入を得ることを前提にしているためで、自営業者などには定年がなく、一定の収入は継続的に確保できていることを前提としているからだということです。

 しかし、国民年金のみの給付対象として急増が見込まれている非正規社員などの場合、高齢になってから継続雇用される保証はなく、しかも経済的事情から保険料を満額納めることができない。今後はインフレが加速する可能性が高まっており、このままでは生活が成り立たなくなる高齢者が続出するのはほぼ確実だというのが氏の見解です。

 年金の底上げを実施しなければ、結果的に生活保護の支出が増えるので、政府にとっては(保険料が入る)年金を増額するほうが望ましい。さらに保険料の納付期間を延長すれば、その分だけもらえる額も増え、現時点では年間10万円ほど受給額が増えると予想されているということです。

 さて、国民年金の加入者は約1400万人。このうち低所得などを理由にした一部・全額免除が380万人いて、さらに学生など納付猶予されているものが230万人、未納者が90万人いるので、(結局のところ現在でも)保険料を満額支払っている人は全体の約半数の700万人に過ぎません。厚生年金などと違って社会的弱者が多く、全額納付者が半数に過ぎないため、国が2分の1を国庫負担して給付を支えているのが現状です。

 結局のところ、年金生活者全体の底上げを図るには、足りない財源を誰かが負担しなければならないということ。納付期間を65歳まで延長することで、そのほとんどが65歳まで保険料を納めるサラリーマンとの不公平感が少しでも解消されるのであれば、それ自体はやむを得ないことなのかもしれません。

 そして最も懸念されるのは、納付期間が(45年間に)延びることで、本当に65歳以降に受け取る受給額が増額されるかどうかという点でしょう。支払いが増えるからには受け取りも増えなければ、それこそ「騙された」ということにもなりかねません。

 「年間10万円と聞くと小さな額に感じる人もいるかもしれないが、わずかな年金しか受給できない高齢者にとって年間10万円は大きな違いだ」…そうこの論考を結ぶ加谷氏の指摘を、私も興味深く読んだところです。



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