MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2597 消滅自治体と地方創生の欺瞞

2024年06月19日 | 社会・経済

 有識者グループの「人口戦略会議」は4月24日、全体の自治体の約4割にあたる744自治体で2050年までに20代から30代の女性が半減、「最終的には消滅する可能性がある」とした分析を公表しました。

 この分析は、国立社会保障・人口問題研究所の推計をもとに「若年女性人口」の減少率を市区町村ごとに整理したもの。これらの自治体はこのままでは人口の急減が想定され、最終的に消滅する可能性があるとしています。

 安倍晋三首相(当時)の唱えた「地方創生」の名のもとで大きな話題を呼んだ、10年前の分析結果よりも「消滅可能性自治体」は152少なくなっているものの、少子化や人口減少といった大きな動きに変わりはありません。人口戦略会議の報告書には、「実態として、少子化の基調は全く変わっておらず、楽観視できる状況にはない」と記されています。

 また、今回の分析では、出生率が低くほかの地域からの人口流入に依存している25の自治体を、(あらゆるものを吸い込むブラックホールになぞらえ)「ブラックホール型自治体」として位置付けているのも特徴です。

 25の自治体のうち、東京都心に位置する(新宿区、品川区、渋谷区などの)特別区が16を占めており、こちらも話題を呼んでいます。若い女性を吸い込むだけ吸い込んでおいて(出産という)結果を残さない。ま、この調査自体、ずいぶん「上から目線」のような気もしますが、それだけ日本の将来に危機感を感じている(有識者の)おじ様たちが多いと考えれば、納得もいこうというものです。

 「消滅」だとか「ブラックホール」だとか、厳しい言葉で名指しで指定された自治体から反発の声も上がっている同報告に関し、5月25日の日本経済新聞のコラム「大機小機」に、『再びの「消滅自治体」論に思う』と題する一文が掲載されていたので、参考までに小欄に概要を残しておきたいと思います。

 全国の自治体の約4割に消滅可能性があると結論付けた「人口戦略会議」の報告書。2014年の前回(896)よりは減ったものの、744の自治体に消滅の可能性があると聞けば、誰もが「これはまずい」と思うだろうと、筆者はこのコラムに綴っています。

 消滅自治体論が、人口減少についての危機感を高めるという役割を果たしていることは確かだが、「消滅」という表現は刺激が強すぎて誤解を招きやすい。そもそも消滅可能性自治体は、人口減少が続く可能性の高い自治体をグループ分けしたもので、数十年のうちに消えて無くなるわけではないというのが筆者の認識です。

 そもそも、今後数十年かけて日本全体の人口が減ることは避けられない。なので、国内の自治体全てに消滅可能性があるとも言えると筆者は言います。

 思えば2014年以降、消滅自治体論に後押しされ進められた「地方創生戦略」は、地方創生と人口減少という2つの課題を同時解決しようとするものだった。政府が人口抑制策として各自治体に地方創生交付金を配ったのも、地域が人口減少を食い止めれば、日本全体の人口減も抑制される。また、地方からの人口流出が抑制されれば、人口の大都市圏集中も抑制されるはずだと考えたからだったということです。

 しかし、結果、その後も少子化の流れは止まらず、人口の大都市圏集中も続いている。つまり、(政府の画策した)地方創生と人口減少対策の同時展開作戦は失敗だったというのが筆者の見解です。

 その敗因はどこにあるのか。それは、国が担うべき人口減少対応策を、地方に割り振ってしまったことにあると筆者は指摘しています。

 確かに、転入人口を増やして人口減に歯止めをかけるのに成功した自治体もある。しかし、その多くは手厚い子育て支援に引かれた子育て世代または将来の子育て世帯が転入してきたため。勤務先はそのままで、子育てのしやすい地域を選んだ結果だと筆者は話しています。

 この場合、勤務先は変わらないので、移動は同一経済圏内にとどまり、大都市圏集中に変化は起きない。また、同一経済圏内での子育て世帯の数が増えるわけではないので、自治体間で子育て世帯の獲得競争というゼロサムゲームが行われるだけだということです。

 地域が自らの地域の人口をコントロールできる力は弱い。(また、そもそも論として)人口減対策は国の課題であり、国が責任を持つべきだというのがこの論考における筆者の見解です。

 結局のところ、自治に対応を「丸投げ」し、競わせることでいくら「やってる」感を醸し出しても、所詮はパイの奪い合いをさせているだけ。10年たっても結果が出ていないのは、政府の本気度が足りなかったと言われれば返す言葉もないでしょう。

 地域は地域で今いる住民たちのため、政府にはもっとやらなければならないことがある筈。地域は無理な人口目標の達成を目指すようなことをせず、子育て世帯に限らず地域住民全体のウェルビーイング(心身の健康や幸福)の向上を目指すべきだと結論付けるコラムの指摘を、私も「さもありなん」と読んだところです。



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