MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2442 大赤字でも心配はいらない?

2023年07月18日 | 社会・経済

 財務省によれば、国債と借入金、政府短期証券を合計した「国の借金」は、3年間続いたコロナ禍の下、今年3月末時点で1270兆4990億円にまで積みあがっている由。前年同期から29兆1916億円増え、7年連続で過去最大を更新しているということです。

 しかしそれにもかかわらず、国会における議論は「子育て支援」や「防衛費」の大幅積み増しやガソリン代から電気代に至る価格抑制のための助成金と、新たな歳出事業のオンパレード。経済対策の名を借りたバラマキを求める国民の声も依然大きく、政府の歳出拡大志向は留まるところを知りません。

 一方の国税収入は年間でわずかに65兆円。それにもかかわらず、令和5年度の当初で過去最大の114兆円一般会計予算を組んでいる政府の辞書に、「財政規律」の文字は見当たらないようです。

 債務残高は国内総生産の2倍を超え主要先進国の中でも最悪の状況が続く中、「次世代へのツケ回し」といわれる現在の状態を放置していて本当に大丈夫なのかと心配になる向きも多いと思います。しかし一方で、一般人のこうした疑問に対し、「全然大丈夫」と答える経済の専門家も次第に増えてきているようです。

 例えば、積極財政政策を支えるMMT(現代貨幣理論)は、「政府は自国通貨を発行できるので、自国通貨建て国債はデフォルトしない」という主張で知られています。しかし、(そうは言っても)「借金は、できるうちは大丈夫」というこの話に今一つの「眉唾っぽさ」を感じているのは私だけではないでしょう。

 そんな折、5月14日の経済サイト『幻冬舎GOLD ONLINE』に経済評論家の塚崎公義氏が「世間にはびこる「財政赤字」にまつわる謎理論…〈世代間不公平〉思考は、正しくないといえるワケ」と題する興味深い論考を寄せていたので、その一部をここに紹介しておきたいと思います。

 しばしば不安視され、識者たちの間でも活発な議論が交わされている日本の巨額の財政赤字。「財政赤字は、我々の世代が使った金を子ども達に返済させるものだから、世代間不公平だ」という人がいるが、それは極めて狭い見地からの意見だと塚崎氏はこの論考で断じています。

 我々世代の家計の金融資産は約2,000兆円あり、(数年後か数十年後かは別にして)子ども達の世代はいずれそれだけの財産を手にすることになる。一方で政府の借金は1,270兆円しかないので、今後その分だけ増税されるようなことがあっても、差し引きすれば約700兆円の受け取り超過になるはずだと氏は言います。

 実際には、子ども世代は不動産等々も相続するので、遺産の額は2,000兆円を大幅に上回るはず。一方で、政府が所有する財産も巨額なので、将来の増税額は1,270兆円より少なくなり、子どもの世代の受け取り超過額は700兆円より大幅に大きくなるはずだというのが氏の見解です。

 もちろん、遺産が相続できる子とできない子のあいだの「世代内不公平」などが問題として残るだろう。しかし、そうした部分については相続税の見直しや固定資産税を増税する(東京一極集中を緩和するという副次的効果あり)などにより緩和することもできるはずだということです。

 一方、政府の借金については、「将来の増税を招くと子ども世代が可哀想だから財政赤字を減らそう」という論者がいる。しかし、子ども世代は喜ばないかもしれないと氏は続けます。

 政府が借金を返済するため、我々世代に対する増税が行われたとする。その場合、我々は預金を引き出して納税するかもしれないと氏は言います。そうなると(確かに)財政赤字は減り、政府の借金は減り、将来世代の増税額は減るだろう。しかし、我々親世代の預金高が減るので、結果、子ども世代が相続する遺産は増税額の分だけ減るため、子ども世代はよろこばないというのが氏の説明するところです。

 また、我々現役世代が増税された場合、預金を引き出して納税するかわりに「倹約」して納税すれば、我々の世代の預金は減らず子ども世代も喜ぶという意見もあるだろうと氏はしています。

 しかし、よく考えてみてほしい。我々が納税のために飲み会を我慢すれば、居酒屋の収入が減り、居酒屋店員が失業して預金を引き出して生活するかもしれない。経済全体で見ればその分消費が減退し、成長が損なわれることになり、結果的に子供世代が享受する豊かさに影響が出る可能性が高いというのが氏の認識です。

 しばしば「財政赤字は、我々世代が贅沢をした代金を子ども世代に払わせるようなものだからケシカラン」という声を聴くが、筆者(←塚崎氏)はそうは思わない。なぜなら、我々世代が倹約しすぎたから財政が赤字になっているのだから…と、筆者はこの論考に綴っています。

 景気対策が必要なのは、我々が倹約して消費をしないから。我々が贅沢をしていれば、景気対策としての財政支出は不要だったはずだと氏は言います。一方で、財政赤字の原因には、増税しようとすると「増税して景気が悪化して失業が増えると困る」という理由で増税を先送りしてきたという歴史がある。裏を返せば、増税されて財布の中身が減っても贅沢をやめなければ、政府は気楽に増税できたはずだということです。

 さて、経済全体の話に戻って、政府が国債を発行して減税をすれば国民の懐が潤うし、公共投資を実行すれば景気がよくなるので税収が増えるかもしれない。しかし反対に、政府が借金をやめて何もしないでいると国民が困ることになる。例えば、子ども世代が文句を言って公共投資をやめさせると、関連する産業の子ども達が困るといった事態も起こりかねないと氏は最後に指摘しています。

 そこまで言われると(なんだか)そんな気もしてくるのが不思議ですが、我々が生きている間には返しきれないような財政赤字を積み上げてまで経済を刺激し続けても、日本経済が「破綻」することは本当にないということなのか。

 本稿はわかりやすさを重視しているため細部が厳密ではない場合はあるとしても、(「将来世代へのツケ回し」として)財政赤字を一概に「悪者」と決めつけるような意見には与しないと考える塚崎氏の指摘を、私も興味深く読んだところです。



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