MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯1331 労働生産性を上げるには

2019年03月26日 | 社会・経済


 現在の日本の経済が今ひとつ振るわない背景には、他の先進国などと比較して相対的に低い労働生産性があることがしばしば指摘されています。

 労働生産性を国際比較する際は、一国のGDPを国内の労働量で割りこんだ「付加価値労働生産性」を用いることが一般的です。つまり、勤労者一人あたり(労働時間当たり)のGDPの国際順位が労働生産性の世界ランキングになるわけです。

 もっとも、肝心のGDPは国ごとに算出方法が異なり、(ブラックボックスで)各国ともその詳細を明らかにはしていません。また、一人あたりのGDPと言ってもそれはあくまで「マクロ経済」の計算値であるため、個別の就業実態などを反映していないという指摘もあります。

 そうした中、日本生産性本部では1981年から毎年、OECDや世界銀行などのデータに基づいて世界各国の国民1人当りGDP、労働生産性、主要先進7カ国の産業別生産性トレンド・産業別労働生産性水準などの比較を行い、「労働生産性の国際比較」として発表しています。

 最新のデータによれば、2017年の日本の「時間当たり」労働生産性(就業1時間当たり付加価値)は、47.5ドル(4,733円/購買力平価(PPP)換算)で、米国(72.0ドル/7,169円)の3分の2程度の水準でしかありません。

 順位はOECD加盟36カ国中20位に相当し、名目ベースでは前年比で1.4%上昇したものの、主要先進7カ国でみるとデータが取得可能な1970年以降ずっと最下位の状況が続いています。

 次に、同じく2017年の日本の「1人当たり」労働生産性(就業者1人当たり付加価値)を見ると、OECD加盟36カ国中21位の84,027ドル(837万円)で、英国(89,674ドル/893万円)やカナダ(93,093ドル/927万円)をやや下回る水準です。

 一方、製造業の分野に限った労働生産性では、日本は99,215ドル(1,115万円/為替レート換算)と全産業平均を上回り、OECD加盟の主要31カ国中でも15位に当たります。こうしたデータからは、日本ではサービス業種などの3次産業が労働生産性の足を引っ張っている状況がよくわかります。

 確かに労働生産性は業種によって大きく異なり、一般的には製造業や不動産業は労働生産性が高く、サービス業は労働生産性が低くなる傾向があると言われています。

 現在、日本のサービス業種では、非正規(パート・アルバイト)が労働力人口の4割を占めるまでに増加しています。

 勿論、総労働時間の中には(単位賃金の低い)こうしたパートやアルバイトなどが含まれているため、今後、非正規として女性や高齢者の雇用がさらに進めば、労働生産性のデータを押し下げる方向に働くものと考えられます。

 さて、こうしたデータを総合すれば、他国に比べ低い日本の労働生産性の足かせとなっているのがサービス業種であることはどうやら紛れもない事実のようです。

 日本のサービス業の労働生産性は、なぜ米国の約半分という水準に甘んじているのか。週刊ダイヤモンド誌の2月16日号(特集「クレーマー撃退法」)によれば、その理由は日本の商習慣としての「価格に合わない過剰サービス」にあるということです。

 日本の国全体の生産性を100とすれば米国は152、しかしそれをサービス業に限れば米国は197と大きく差が開くと記事は説明しています。さらに、宿泊飲食業では日本を100とした時米国は258、さらに卸売り・小売り業種ではなんと317にまで差が開くということです。

 記事によれば、日本生産性本部の木内康裕上席研究員はこうした状況について「「お客様は神様」「安いのはいいこと」という二つの価値観がサービス業の生産性の低さにつながっている」と分析しているということです。

 日米のサービス業で生産性が倍以上も違うのは、日本ではどの客にも平等に質の高いサービスを提供するが、米国では金持ちには高品質の、お金のない人(高い品質のサービスを求めない人)にはそれなりのサービスしか提供しないから。

 つまり、日本では価格に見合わない過剰なサービスを(不要な人にまで)提供しているが故に生産性が低くなると記事は説明しています。

 日本生産性本部が行った「サービス品質の日米比較」調査によれば、米国人が日本のサービスで質を落としてでも価格を下げた方がよいと感じる点は、サービスの迅速さや設備の清潔さにあったということです。

 「早い、安い、うまい」がサービスの基本と考える日本人ですが、国際標準から言えば、日本のサービスは値段の割に待たせることが少なく、安い店でも割と小ぎれいにしているようにということでしょう。

 日本のサービスの優位性は「おもてなし」の気持ちにあるとよく言われますが、そのサービスが外国人にはしばしば「押しつけと」受け止められることもあるというような話も聞きます。

 そうした状況を鑑みれば、日本人が「良かれ」と思ってやっているおもてなしの心遣いにも、当然、選択肢見えるや対価を設定すべきなのかもしれません。

 いずれにしても、サービスと価格のバランスをいかに取るかが日本の生産性を上げる鍵となるだろうと記事の指摘を、今回私も大変興味深く読んだところです。



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