MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2520 中国もなかなか大変だ

2023年12月28日 | 国際・政治

 権力集中を図る中国の習近平国家主席が実現しようとしているのが「中国の夢」(中国梦)。これは、「中華民族の偉大なる復興」と「一帯一路」の二つの政策により、①国家の富強、②民族の振興、③人民の幸せなどを実現させ、中華民族による中国の栄光を取り戻すというもののようです。

 それでは、14憶人を超えると言われる中国人民の置かれた状況は実際どうなのか。

 現在の中国が、急激な少子高齢化社会の到来に見舞われていることは広く知られています。2021年の出生数は1062万人と1949年の建国以来最少。2020年の合計特殊出生率は実に1.3と日本の1.34よりもさらに低く、北京や上海などの大都市では0.7前後と世界最低レベルに落ち込んでいるとされています。

 そうした中、中国国内の貧富の格差は今も拡大を続けており、固定化の傾向も進んでいるとのこと。クレディ・スイスによると、2020年の上位1%の富裕層が持つ富は全体の30.6%で、2000年からの20年間で10ポイント以上上がったということです。

 一方、2020年の全国人民代表大会の際の李克強首相の会見によれば、中国には月収が1000元(約1万8000円)以下の中低所得の人々がおよそ6億人存在しているとのこと。本来であれば、中国のような社会主義国家でこれほどの格差が存在することはありえないはずが、「先富論」の下で矛盾を飲み込み、改革開放政策を進めてきたツケが今、回ってきたということでしょう。

 こうした(理想と現実の)ギャップを埋めるべく、近年、習近平政権が強く打ち出しているのが「共同富裕」の考え方。私企業の経営や不動産市場への介入などによる経済的な格差の縮小や、公共サービスの均等化などを(ある意味)かなり強引に進めている様子です。

 彼の国のこうした状況を聞くにつけ、14憶を超える人々を(一つの制度の下に)まとめていくのは(本当に)大変だろうなと、習主席に対する同情の念すら覚えるところ。10月6日の日本経済新聞のコラム『やさしい経済学』に法政大学教授の馬欣欣(ば・きんきん)氏が、「中国が抱える社会問題」の①として「経済成長が生んだ格差社会」と題する論考を寄せていたので、参考までに概要を残しておきたいと思います。

 「改革開放」政策によって急速に経済成長してきた中国。しかし、その一方で、社会は様々な問題を抱えるようになったと、馬氏はこの論考の冒頭に記しています。

 その第一は、「所得格差の拡大」というもの。国家統計局の公表データによると、所得の不平等さを表すジニ係数は、2003年の0.479から、08年には0.491へと上昇。ジニ係数0.4超えは「社会騒乱が起きる警戒ライン」とされているが、実は過去20年間、中国の所得格差は警戒ラインを越える高い水準で推移していると氏は指摘しています。

 そして、第二は「制度による分断」の存在とのこと。ます注目されるのは、「政治身分」による経済社会地位の格差だと氏は言います。

 経済システムの市場化改革が進む一方で、共産党中心の政治体制自体はなんら変わっていない。そうした中、党籍の有無などによる政治身分や都市と農村に分かれた戸籍制度により中国人民は経済的にも分断されており、雇用や教育など、様々な面で格差を生み出しているということです。

 続く第三の問題は、1979年に導入された「一人っ子政策」の影響だと氏は指摘しています。この政策の副作用で中国国内における少子高齢化は急速に進展。国連の基準では、中国は2010年に「高齢化社会」、21年に「高齢社会」へ急激に変貌しつつあると氏は言います。生産年齢人口の減少と同時に若年層の失業率も上昇し、労働市場で男女間の格差も拡大しているということです。

 そして最後に、第四の問題として馬氏が懸念を示しているのが、中国の「社会保障政策の未成熟さ」の存在です。

 欧米や日本などでは、高齢者らの生活を支える所得再分配政策として、公的年金や公的医療保険が導入されている。もちろん中国でも、公的年金と公的医療保険は全国民をカバーし制度上は「国民皆保険」となっているが、戸籍制度によって適用対象者が異なるなど、現物(医療サービスの水準)と現金(年金受給額)の給付水準には大きな差があるということです。

 さて、観光やビジネスなどで来日している中国の人々を見ている限り、彼らの多くはお金持ちで、それぞれかなり精力的な印象です。しかしその一方で、格差の下層に暮らす多くの人々が、どのような思いでどのように日常を暮らしているかは(国外には)なかなか伝わってこないのが現実です。

 様々な矛盾を抱えた中国の社会や経済をリアルに支える人々が、今後どのような選択をしていくのか。隣人として目が離せない局面がやってきているのではないかと、私も改めて(少し不安に)感じているところです。



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