1.ワーグナー作曲/リスト編曲 歌劇「タンホイザー」序曲 アヴデーエワの演奏
第16回ショパン国際音楽コンクール(2010年)で優勝したユリアンナ・アヴデーエワ。
女性ピアニストとしての優勝はマルタ・アルゲリッチ以来、45年ぶりです。
ピアノの詩人と呼ばれるショパンの作品は、甘美でロマンチックな面がある反面、
シューマンが「花の影に隠れた大砲」と言ったように、強くて激しい一面もあり、
ショパンの演奏を総合的に行う必要があるショパン・コンクールでは結果的に男性優位になって
しまう傾向があったのかも知れません。
そのユリアンナ・アヴデーエワが2010年に凱旋公演で初来日し、シャルル・デュトア
指揮のN響と共演した「ショパン作曲ピアノ協奏曲第1番」は完成された見事な演奏で、
ピアノの女王アルゲリッチに並ぶようなピアニストという印象を受けました。
そしてまた、スタイルと美貌も惹き付けるものがありました。
私は、この演奏をブルーレイディスクに保存し大切にしています。
今回、来日して行ったピアノリサイタル(NHK BSプレミアム2/1放送)の曲目は、
ラヴェル作曲 ソナチネ
プロコフィエフ作曲 ピアノソナタ第2番ニ短調作品14
ワーグナー作曲/リスト編曲 歌劇「タンホイザー」序曲
チャイコフスキー作曲 18の小品作品72から「めい想曲」でした。
その中で、ワーグナー作曲/リスト編曲 歌劇「タンホイザー」序曲はオーケストラの
曲としては良く聞くのですが、ピアノ曲としては初めてで、興味を持ち聞くことが出来、
演奏も感銘出来るものでした。
アヴデーエワは、
「タンホイザー序曲は私のお気に入りの一つです。
この編曲で特別なのはリストの存在感がないことです。
最初から最後までワーグナーの音楽のみを感じます。
リストもこの序曲に感銘を受けました。
そのため自分なりの変更は一切加えずピアノで忠実に再現しました。
リストは同時代の作曲家の作品に敬意を持っていました。
ワーグナー シューマンなど リストの編曲作品は、他の作曲家に対する
心の広さ 感謝 尊敬の念の表れです。
私達はリストの編曲作品をもっと演奏すべきです。経験すべきもう一つの世界
なのです。」と語っていました。
リストはベートーヴェンの交響曲全集やベルリオーズ「幻想交響曲」をピアノ用に編曲しているのは知って
いましたが、リストの編曲作品は一体どれくらいあるのでしょうか。興味あるところです。
2.ワーグナー作曲 ジークフリート牧歌
ジークフリート牧歌は、名前の通り安らぎを感じる牧歌的な音楽なので、以前から親しんでいましたが、
昨日、NHK BSプレミアム放送の「音楽探偵アマデウス」で、この曲に詳しい解説が加えられたので、
さらに親しみを感じることになりました。
ワーグナーとコジマ(リストの娘)はともに結婚していましたが、ミュンヘンで歌劇の上演の際に相思相愛になり、
同棲を始めます。そのことがスキャンダルを巻き起こしますが、何とか結婚に漕ぎ着けます。
二人の間には、二人の娘、イゾルデとエヴァが生まれますが、ワーグナー56歳の時に長男ジークフリートが生まれます。
多いに喜んだワーグナーは妻コジマに感謝し、クリスマスの日、そしてコジマの誕生日の翌日の12月25日に
このジークフリート牧歌を捧げることになります。
初演は、スイスのルツェルン湖のほとりトリープシェンにあるワーグナーの自宅で当日の朝7時半、コジマの
寝覚る頃を待って演奏されました。
階段のてっぺんに指揮者ワーグナーが立ち、続いて階段の上から、第1ヴァイオリン2、第2ヴァイオリン2、
ヴィオラ2、フルート1、オーボエ1、クラリネット2、ファゴット1、ホルン2、チェロ1、コントラバス1という
15人の楽団が、階段に並び、「静かに、感動を持って」と記された導入部から演奏を始めました。
ワーグナーからは階段が曲がっていたため、チェロとコントラバスは見えなかったとのことです。
演奏はその日のうちに数回繰り返されました。長女イゾルデも、次女エヴェも、この贈り物に大喜びで
「階段の音楽」と名付けたそうです。
コジマの日記より
「 音楽が鳴り響いたなんという音。
この日のことについては何も言うことができない。
私の感動、私の興奮はとても言い表せるものではない。」
ワーグナーの言葉より
「僕は愛の悲劇など何も知りたくはない。
ただ一つ確かなことは世界が始まってこのかた
僕ほど君を愛した男はいない。」
ジークフリート牧歌には楽劇「ニーベルングの指輪」のライトモチーフが多く使われています。
ただ、このモチーフが先だったのはジークフリート牧歌のようです。
曲は、最初に、第1ヴァイオリンで演奏されるジークフリートの「平和のモチーフ」、ワルキューレの「まどろみのモチーフ」
と「ブルリュンヒルデの叫びのモチーフ」、そしてジークフリートの「世界の宝のモチーフ」などが演奏され、クラリネットと
フルートで演奏される「鳥の声」の場面へ。最後に「平和のモチーフ」で終わります。